狂牙
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■ 第7章 それぞれの未来(さき)2

 良顕の表情が暗い物に変わると、魔夜と魅夜が前に出て
「今回の件は、極東地区のエリア長、黄秀明が関与しています」
「何人もの暗殺者が、徳田ビルに入り込んでいました」
 報告すると
「今度は[黄秀明]か…。全く、手の掛かる組織だ…」
 良顕は薄く笑い、視線をアリスに向け
「アリス。一也さんをどうやって動かした?」
 静かに問い掛ける。

 アリスの身体がピクリと跳ね
「昔の事を少し…。勝手を致しました」
 深々と頭を下げ、謝罪すると
「いや、それは構わないが、余り非礼は働かないでくれ。俺は、あの人が好きだから、関係を悪化させたくない」
 優しい微笑みを浮かべ、アリスを諭した。
「は、はい。畏まりました」
 アリスは頬を赤く染めながら、更に頭を下げる。
「で、それで終わりじゃないなアリス。お前の事だから、黄の名前を聞いて何もして無い筈がない…。違うか?」
 良顕が更に問い掛けると、アリスは頭を下げたまま
「はい、少し調べました」
 静かに答えた。

 アリスは頭を持ち上げると
「黄は4人の手駒と20人の要員を日本に送り込んでいました。4人は一昨日、20人は約半年前です。動きから見て、霧崎の仲介を経た、全一と繋がっていたようです」
 良顕に報告を行う。
 アリスの報告を聞いた、魔夜と魅夜が
「ですが、全一はあの時点で既に意志を無くしておりました」
「なら、黄が日本のプレーヤーに直接的な介入をした事になります」
 アリスに告げると、アリスはユックリと頭を左右に振り
「全一は、生きています。そして、黄を後見人にして徳田の後継者の申請を上げています」
 良顕を見詰めながら、報告を続けた。

 良顕はクスリと笑い
「やっぱりな…、これで話の辻褄が合う。あの場所で死んでた徳田の家族は、全一が後継者になる場合邪魔な存在でしかない。徳田があの状態だったんだ、長男ぐらいが申し立てたら、確実に全一は全ての権利を奪われる。だから、家族が組織に関与する前に、皆殺しにしたんだ」
 全一の思惑を見抜く。
「ですが、そんな事をすれば、直接的な力の行使で、全一は処分されます」
「全一だけが、生き残れば必然あいつが、犯人に成りますわ」
 魔夜と魅夜が良顕の言葉に、反論すると
「居たじゃないか…。全一も、犯人も。あの場所にちゃんとな…」
 良顕が、魔夜と魅夜に微笑みを浮かべたまま告げる。

 その言葉に、2人は息を飲み
「そう、あいつは俺を徳田殺しの犯人にしたかった。そうして、折を見て怪我の振りをしながら表に現れ、計画を実行する予定だったんだろう」
 良顕が説明を続けた。
「「計画の実行?」」
 2人が声を揃えて問い掛けると
「ああ、日本のbPが重大な過失を起こし、処刑されたらその所有する権利はどこに行く?」
 良顕が問い返す。
「あっ! bPが居なくなったら。必然、次席がその権利を…。じゃぁ、それを狙って全一は…」
 乙葉が気付いて口にする。
「そうだ、bQ以降の所有する権利は、俺の預かりになるが、bPが居なくなれば次席が継ぐ。このルールを使おうとしたんだ。恐らく、あいつは涼子が失敗したら、あの場で涼子の首輪爆弾を作動させる筈だったんだ。そうすれば、涼子の体内に仕込んだ爆弾が爆発し、犯人はできあがる。その為の強化ガラスだったんだ」
 良顕が全一の計画を正確に言い当て、鼻で笑う。

 余りの計画に固まる乙葉と魔夜達に
「だが、あいつの予想には、優駿さん達が入って居なかった。いや、あの馬鹿げた機械が入ってなかったんだろう。入る訳も無いか、あんな非常識な機械…」
 良顕が笑いながら告げると
「そうですわね。あの機械を見つけた時、絶対に有り得ないと思いましたもの…」
 アリスが静かに賛同した。
「ああ、アレが無かったら俺は確実に死んでいた。そして、全てが全一の物に成っていた筈だ」
 良顕がユックリと頷きながら、呟くように言うと、乙葉が身体を抱きしめブルリと震え上がる。

 良顕はそんな乙葉に力強く頷き落ち着かせると、晃が手を挙げながら
「はいはい。でも、良ちゃん全一が怪我をしたとしても、治療を受ける場合はDNAのサンプルを取られるわ。整形した奴隷と区別する為に、これは絶対されてるの。あそこにいた全一が偽物だって直ぐバレちゃうわよ?」
 良顕に問い掛けると
「ああ、良くは解らんがその対策はしてたんだろう。あそこにいた全一には、かなりの違和感が有った。アレは、意識を無くした者じゃなく。端から意識を持っていなかった。そんな感じがした精巧に作られた人形のような感じがしてたから、何か特別な物の筈だ」
 良顕が晃に告げる。
「流石はご主人様です。恐らく、あの場に有ったのは全一の[クローン]です。1年前にご主人様から奪い取った、山内様所有の研究所で作り上げた物だと思います」
 アリスがそう言いながらモニターに、深い木々に囲まれた研究所を映し出す。

 良顕は何か記憶を探るような視線で、モニターを見詰め
「山内と言えば、当時のbQだったな…。確か、東央大学の医学部教授…和美達を殺した仕返しで、破滅させた奴だな」
 アリスに問い掛けると、アリスは頷きながら
「はい、山内は奴隷をモルモットに使い、様々な実験を行っていた事で有名だったんですが、自分の専門分野でも、相当実験していたようです。これが、その映像です」
 説明をして、モニターを切り替える。
 そこには、無数に並ぶ直径80p程で高さ3m程のガラスの円柱が、ビッシリと並んでいた。
 その中に、透明な液体が満たされ、様々な女性が浮かんでいる。
 その女性達は手前側程、奇形していてどこかが歪んでいた。
 頭部が曲がっている者、腕が極端に短い者、足がない者様々だ。
 そしてその殆どが、開腹されて内臓を漂わせている。

 神経を逆撫でする、身の毛もよだつ映像に、乙葉が溜まらず口元に手を当て、視線を逸らす。
「これらは、全て実験結果で出来たクローンです。今映っているのは初期の実験体で奥にいく程、後期の物と成ります」
 アリスの説明に、画面が変わって行くと、アリスの言う通り徐々に奇形が消えて行った。
「もう良い、全一の奴が、どこかで生き延びてるなら、何か動き出す筈だ」
 良顕がウンザリとした表情で、研究所の映像を止めさせて告げると
「はい、全一は既に、何度も本部に対して、徳田の正当後継者として資産および権利の継承手続きを行っていますが、未だその書類は受理されていません」
 アリスは、映像を止めながら良顕に現状を報告する。
(フン、何かやってるな…。一也さんの時と良い、何かと裏で動くタイプだな…。俺の所には、居ない暗躍する奴か…。知識と良い、経験と良い…これからの、俺には必要だ。飼い慣らすのが、難しそうだがな…)
 アリスの口調に、何かを感じながらニヤリと笑うと
「良し、直ぐに本部に繋げ。全一の仕業を公表して、継承を止めろ」
 良顕は直ぐに別の指示を出す。

 良顕の言葉に、頷くと直ぐにアリスは手続きを始める。
 その中には、徳田との会見を行う良顕の姿があり、良顕が再び鼻で笑うと
「この業界で20年もやっているので、徳田のメインフレームにも一度ハッキングを掛けています。バックドアは至る所に有りますわ」
 クスリと笑って、操作を続けた。
 本部に申請されている筈の全一の継承手続きが、スタートし始めそれと同時に良顕の異議申し立てが、申請される。
 徳田のメインフレームは、会見直前にアリスの手に落ち、その全ての操作をアリスが握っていた。
 徳田ビルの制御だけが全一に握られていた為、映像しか奪えなかったが、それが功を奏し異議申し立てに真実味が加わる。
 全一を保護している、黄の元に本部の連絡員が大挙して押し寄せ、全一の身柄が確保された。
 黄は全一をさっさと見限り、何の抵抗も無く無関係を貫く。
 全一に与えられた未来は、重違反者の見せしめとしての、過酷な拷問による公開処刑だ。
 そして、ルールに則り徳田の全ては、良顕に預けられ一任される。

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