狂牙
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■ 第7章 それぞれの未来(さき)4

 アリスはジッと良顕の目を見詰め、良顕の言葉を理解し、良顕に自分の行動原理がバレた事を知ると
「はい、解りました。ご主人様の言う通りに致します。ですから、上手に出来たら良い子良い子して下さい」
 小さな子供のような視線に変わり、身体をブラブラと揺らしながら、おねだりをした。
「ああ、良いぞ。上手に出来たらお前の好きなご褒美をやる。だが、悪い子には罰を与えるからな。ちゃんと守るんだぞ」
 良顕は子供を諭すように、微笑みながらアリスの頭を撫でる。
 アリスは気持ちよさそうに目を細め
「は〜い。アリス良い子でいま〜す…」
 甘えるように、良顕の手に頭を擦りつけた。

 そのさまを乙葉は驚きの目で見詰め、呆然としている。
「乙、出かけるぞ」
 良顕に声を掛けられ、慌てて返事をすると
「あ、あの…。紳士会でしょうか?」
「ご一緒しても…宜しいですか…?」
 徳田ビルの件で全く良い所の無かった魔夜と魅夜が、怖ず怖ずと問い掛けた。
「お前らは、俺のボディーガードだろ。付いて来なくてどうする」
 良顕が2人に告げると、2人は驚きながらも嬉しそうに
「「はい」」
 勢い良く良顕に返事をする。
 4人は車に乗り込み、一路指定された場所へと向かう。

◆◆◆◆◆

 良顕達は、約束した良遵の道場が有るビルに着いた。
 4人が車を降りると、そこには宗介が頭を掻きながら、待っている。
「良顕。大丈夫だったか? あん時は、そこまで酷い怪我だと思わなかった。優さんに指摘されて始めて気付いたよ」
 宗介が、バツが悪そうに告げると
「ああ、心配するな。俺も、死に掛けてるなんて、あの時知らなかったし、お互い様だ」
 良顕が笑いながらサラリと返す。
 2人はお互いに笑い合うと、肩を並べて幼馴染みのように、歩き始める。
 呆然とする3人の女性に
「おい、何してる。早くしろ」
 良顕が声を掛けると、乙葉達は戸惑いながらも、エレベーターに急いだ。
 当然の認識だが、現状今現在はまだ、仇敵同士である。
 今のように笑い合って、肩を並べるなど有り得ない筈だったが、良顕の態度で逆に思惑を知り、自分達も腹を決めた。

 良顕が道場に着くと、優駿が大きな声で
「おう、良く来てくれたな。まあ座れ、取り敢えず話はそれからだ」
 良顕を呼び、道場の真ん中に並べた料理を指し示す。
 料理の周りには、正面に一也が座り、一也の左横に金髪碧眼の青年が腰を掛け、その横に昌聖が座っている。
 一也の右横は、席が空き一つ挟んで黒髪で痩身の青年が座り、青年の横も開いていた。
 一也の右横に優駿が座り、痩身の青年の隣に宗介が座ると、空いた席は必然昌聖と宗介の間一つだった。
 良顕が薦められるまま車座に成ると、優駿が口を開く。
「ややこしい事は、最初に決めたいと思うんだが、それで良いか?」
 優駿が伝法な口調で良顕に問い掛けると、良顕は顎を引きながら
「ああ、構わないが、その前に礼を言わせて下さい。今回の件、本当に助かりました」
 優駿に返事をして、全員に頭を下げた。

 良顕の感謝を全員が思い思いの態度で返すと
「でっ、これからどうするよ?」
 優駿が身を乗り出して、何の飾りも無い単刀直入の言葉で、良顕に問い掛ける。
 良顕の背後で、魔夜と魅夜の身体が強ばり、緊張感が走った。
 それ程、優駿の言葉は威圧に満ち溢れている。
 良顕は、その威圧を微風のようにいなし
「端的に言いますと、私は[紳士会]には入りません。このまま[マテリアル]に席を置きます」
 優駿を真っ直ぐに見詰め、ハッキリとした口調で告げた。
 良顕の言葉で、その場にいる全員に緊張が走るが
「私は[マテリアル]を内側から食い破るつもりです。あの組織は、この世に存在してはいけない。徹底的に叩きつぶします」
 続けた言葉で、驚きに変わる。

 優駿がニヤリと笑いながら
「お前、自分が何を言ってるのか解ってるのか? 仇敵の真っ直中に潜んで、1人で戦うって事だぜ?」
 良顕に問い掛けると
「1人ですか? いいえ。今までに比べると、随分楽に成りました。頼りになる剣も手に入れ、新たにハイテク系も強化出来ました。発言力も増しましたし、何より強力な外部サポーターまで出来たんです。これが、楽でなくて何なんですか?」
 良顕が明るく問い返した。
 良顕の言葉に、魔夜と魅夜がドキリと胸を高鳴らせ、アリスの事で乙葉が落ち込む。
 そんな3人の反応を無視するがの如く、優駿が笑うと奥の扉が開いてスルスルと、女性が道場に入って来た。
 優駿の背後に金髪碧眼のヘルマがフワリと座り、一也の後ろに香奈が静かに舞い降りる。
 痩身のナイトの背後に、桜が平伏すると、金髪碧眼のナイトにディディェがしなだれ掛かった。
 昌聖の背後に美咲が控え、宗介の背後だけがポツリと開いている。

 良顕はその配置を見ながら、ナイト以外が現状のパートナーだと理解したが、宗介だけが1人で居る事に気付き
「んっ? どうした宗介、お前男の方が良いのか?」
 軽く茶化すと
「こいつはいつもこうだ! コソコソと奴隷を作ってるが、決して飼おうとはしないし、殆ど女にちょっかいを出さない。遊びもしないし、何が楽しいのか解らねぇ」
 優駿が嵩に掛かって宗介を責める。
「ホントだよ、歩美が是非宗介さんのお世話をしたいって言ったのに、宗介さん断るんだもん…。お陰で歩美スッゴイ落ち込んだんだからね」
 昌聖も被せるように、宗介を非難すると
「おいおい、お前は俺に勝てるつもりで居るのか? 俺に預けたら、歩美は俺の奴隷になるぞ」
 宗介が軽くかわそうとする。

 だが、直ぐに真剣な表情で
「宗介さんなら、構わないよ…。ううん、逆にお願いしたい…。僕には、やっぱり4人は無理な所がある…。今回で、よく分かったよ…」
 肩を落としながら、宗介に告げた。
 美咲が眉を曇らせるのと宗介の眉が跳ね上がるのは、ほぼ同時だった。
「昌聖…。てめえ、自信喪失するのは構わねえが、時と場所を考えろよ」
 宗介の言葉に、昌聖が顔を上げると
「客の前で弱音を吐くなんて、醜態以外の何物でも無い。だが、それ以上に奴隷の前で、言って良い事じゃない…。それに、本人のいない場所で[やるの][やらないの]なんて話、歩美をなんだと思ってる。傲慢すぎるぞ」
 宗介は真剣な目を向け昌聖を窘める。
「う、うん…。ごめん…」
 昌聖が謝罪し、項垂れて小さくなると、直ぐに笑いながら宗介が宥めた。

 それを良顕の後ろで、ジッと魔夜と魅夜が見詰めている。
 その目は、何かを計るように、何物をも見逃さないように、真剣な表情だった。
 そして、その頬は僅かに上気し、桜色に染まっていた。
 その2人の変化に気付いた乙葉が驚くと、良顕が告げた言葉に更に驚く。
「宗介…。それで、物は相談なんだが…。こいつらのどちらかに、子種をくれないか?」
 息を飲む魅夜と魔夜と宗介を制しながら
「この2人の希望は、強い雄の子種だ。単純な武力で言うと、俺に成る。体力的な物なら優駿さんだが、総合的な能力のバランスでは、俺の見る限りダントツでお前なんだ。どうか、この2人の希望を叶えさせてくれ。この2人も満更でも無さそうだし」
 ニッコリと微笑みながら、宗介に申し出る。

 頬を真っ赤に染め、見せた事のない動揺を見せる魔夜と魅夜を見て、全員良顕の言葉が嘘でない事を理解した。
「あっ、あの…。そこまでは…考えていませんでした…」
「徳田の所で…助けて頂いたのは…本当に…感謝してます…」
 2人が小さな声で、モジモジと告げると
「ああ、アレか? アレはほら、昌聖のスーツを着てたからで…。大した事じゃない…」
 宗介が照れながら[大げさだ]と否定する。
「「そんな事有りません!」」
 2人が強く否定すると、宗介はたじろぐ。
「確か、お前が特定の女性を作らない理由。[ネックに成るのが怖い]だったよな? この2人そうそう、[ネック]には成らないと思うぞ。俺が見て来た武術家でも十指に入るぞ」
 良顕の止めで、魔夜と魅夜がにじり寄り
「久能様なら…」
「ご主人様の命令なら…」
 身体をしなだれ掛ける。
 宗介は2匹の雌ライオンに挟まれ、大きな溜息を吐いた。

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