哀妹:芽衣
木暮香瑠:作

■ 子供と大人の境の誕生日2

(私もこんなに大人っぽくなれるかな?)
 芽衣は、少しうつむいて、
「こっちにしようかな?」
 恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、芽衣はそのマネキンを指差した。
「芽衣、ほんとにこれがいいのか? 芽衣には、まだ少し早いんじゃないかな?」
父の恭一が言った。しかし、眼は少し嬉しそうにそのマネキンを見ている。
「そうよ。こっちの方が芽衣には似合ってるわよ。子供っぽくて芽衣にピッタリよ」
 母はそういって、最初に芽衣が選んだ服を薦める。芽衣には、子供っぽくて似合うと言われたことがカチンときた。
「芽衣、もう、子供じゃないもん。16歳になるんだよ」
 そう言ってむくれた顔を母親に向けた。
「ほら、そういって、自分のこと芽衣って名前で呼ぶようじゃ、まだまだ子供よ」
「大丈夫だよ。学校じゃ、ちゃんとわたしって言ってるもん。絶対これにするんだ」
 芽衣は、店員にその服を買うことを告げ、恭一の手を引っ張ってレジへ向かった。

「芽衣、ほんとにこれでいいんだな」
 お金を払うとき、恭一はもう一度確認するように言う。
「うん、これに決めたんだ。芽衣も、もう、16だもん。大人っぽい服だって似合うもん」
 二人の会話を横で見ている母の彩子も諦めたようだ。
「仕方ないわね。言い出したら聞かない強情なところがあるから、芽衣は……」
 その時、桂は、こちらを見ている男に気がついた。確か、芽衣の同級生の柴田修だ。
「芽衣、あそこにいるの、柴田じゃないか? お前のクラスの……」
「えっ、どこどこ?」
 芽衣が振り向いたときには、柴田は、もう姿を隠していた。
「どこにもいないじゃない。柴田君も買い物に来ていたのかな?
 芽衣、柴田君、なんか苦手だな。おとなしい子なんだけど、芽衣のこと、授業中ずっと見てるんだよ」
「芽衣に惚れてんじゃないか? それとも、芽衣が意識しすぎなんじゃないか?」
 桂は、冷やかすように言う。
「そんなことないもん。柴田君のこと意識なんかしてないようっだ。柴田君、キモイもん」
 芽衣は、プイッ顔を横に向ける。背中まである艶々の髪の毛がふわっと翻る。
「芽衣、そんなこと言うもんじゃありません。キモイだなんて……」
「はーい。気をつけます」
 母に怒られても、芽衣は上機嫌だ。家族揃っての久しぶりのお買い物と、普段なら買ってもらえない高価な服を買ってもらっているのだ。そこには、15歳の無邪気な笑顔が溢れていた。

 その日は、買い物が終わった後、デパートの最上階のレストランで夕食を済ました。芽衣は、家に帰って自分の部屋で買ってきた服を着てみる。クローゼットの扉の裏の姿見に自分の姿を映してみる。
「結構、似合ってるじゃん」
 芽衣は、そう自分に言い聞かせた。家に帰るまで、買った服が気になっていた。ほんとに自分に似合うだろうか、母が言ったように、まだ早いんじゃないだろうかと。確かに、マネキンのように胸も大きくない。しかし、キャミソールは、芽衣の身体にフィットし、16歳の若々しい線を映し出している。スカートから伸びる足も、引き締まった若々しさがあり、アイドル顔負けのスタイルをしていた。黒のスカートは、芽衣の白く長い脚をより強調し引き締まって見せた。
「いいんじゃない? 結構いけてるかも……」
 そういって、グラビアを飾るアイドルのようにいろんなポーズを姿見に映していった。

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