哀妹:芽衣
木暮香瑠:作

■ 子供と大人の境の誕生日4

 芽衣は、お風呂から上がり、ベッドに入ったが、なかなか寝付けない。デパートのレストランでの夕食のとき、芽衣と桂はハンバーグセットを食べた。父はステーキセット、母はチラシ寿司を注文したのだ。
(おかあさんたち、……きょうも……)
 芽衣の頭の中には、昨晩の二人の声が廻り回っている。窓の向こうが気になる。性に対して一番好奇心が旺盛になる時期だ。中学のころは、好奇心があっても知識が足りず、冗談のネタにするくらいだった。高校生になってからは、友達との会話でも、『処女を棄てるなら、絶対、好きな人と……』なんてことが話題になったりする。『すでに経験済みな娘もいる』なんて話も聞く。奥手な芽衣でも、そんな話題の中で会話をすることもあった。
(ダメよ、芽衣。ダメ……、ダメなんだから……)
 ダメだダメだと思うほど、好奇心が強くなる。芽衣は、窓をそうっと開け、顔を外に出した。両親の部屋のカーテンには、二人の影が映っている。二つの影が重なる。キスをしているのだろう。芽衣は、その影から眼が離せなくなっている。頭の中では、昨晩、盗み聞きした台詞が蘇ってくる。

《……ああ、そこ……、あなた……》
《……芽衣、愛してるよ……》

 おかあさんの名前が、自分の名前に置き換わって頭の中を廻る。

《……あ、あ……や、いやンン……ねえ、おにいちゃん……》

 父に向けての台詞が、いつのまにか兄に向けての台詞になった。

(だめだよ、芽衣……。おにいちゃんとなんて……、兄妹だよ……)

 芽衣は、必死で頭の中に入り込んできた兄のことを振り払おうとする。しかし、頭の中には、バスルームで見た兄の裸が鮮明に蘇ってくる。

《……ここか? ここがいいのか? 芽衣?……》
《……いっ、いい……あっ、ああ、そこ、い、いいっ、ううう……》

 お父さんのところが兄の桂の声で聞こえてくる。昨夜とバスルームと同じように、頭の中には、芽衣の胸を揉む兄のイメージで埋め尽くされていた。

《……ああン。ううン……そうよ、あ〜ん、おっぱい、たまらないっ……》

 芽衣は、両親の部屋を覗き見ながら、自分の胸を揉んでいる。
(だめなんだから、芽衣。どうしたの……。そんなことしちゃあ……)
 頭の中では、必死で止めようとしている。いけないことをしていると思えば思うほど手が勝手に動いてしまう。右手では胸をもみながら、左手は、パジャマの上から股間を撫でていた。

《……あ、ああ、いやっ、おにいちゃん。
 ……ど、どうして、こんなに感じちゃうの……》
《……いや……いやあン……ああ、入れてください。
 ……イカせて、おにいちゃん……》

 芽衣は、もうすっかり自分の妄想の中にいた。両親の部屋に向けた瞳には、両親の影は映っていない。夢遊病者のような虚ろな瞳には、全裸の兄と芽衣自身が映っていた。

《……一緒にイッてえ……ああン、おにいちゃん……》
《……いっ、いい、あっ、ああ、おにいちゃん、い、いいっ、ううう……》
《……あっ、あっ、うあっ、芽衣、イっちゃう、
 ……おにいちゃん、イクぅ、イクイクう……》

 芽衣は、そのまま、後ろに仰け反り、ベッドの上に倒れこんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、………。だめだよ、芽衣……」
 荒い息を吐きながら、呟く。ベッドに倒れこんだ芽衣は、いつのまにか寝入っていた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊