哀妹:芽衣
木暮香瑠:作

■ 子供と大人の境の誕生日5

 翌日、恭一が大阪に戻るのを、芽衣と彩子は駅まで見送りに行った。兄の桂は、サッカー部の練習があるため、来なかった。三人で駅前の町を歩いた。誰が見ても仲のいい親子であることが分かる。みんなの視線を集めていた。背の高い父、若々しく知的な母、そして、なにより、若くて素直そうな娘。ジュニアアイドルと言っても通るほどの、愛らしい笑顔を持った芽衣の存在感は飛びぬけていた。160cmに満たない身長の芽衣だが、背中が小さく、脚が長い。眉毛のところで切りそろえられた前髪、背中まである髪はあくまで黒く輝き、頭に天使の環を作っている。芽衣の両側を歩いている両親に向ける笑顔が愛くるしい。道を歩く誰もが、その笑顔に眼を奪われていた。芸能界にデビューしていると言っても、疑うものは誰もいないだろう。

 みんなの眼が芽衣に注がれている。今までなら、そんなこと、気が付かなかっただろう。
(あっ、見られている……。みんな……どうして芽衣を見るの……)
 服装も、16歳らしい普通の服を着ている。しかし、昨日、一昨日の出来事で、芽衣の感覚が昂ぶっていた。今までも見られていたのだろう。芽衣が気づかなかっただけなのだ。今日、初めてその視線の多さに気づき、驚く芽衣だった。

 駅のホームで父を見送るとき、
「芽衣、黒のTシャツとチノパンツ。あれ、本当は気に入ってたんだろ?
 これで買いなさい。……あまり背伸びすることはないよ、子供のままでもいいんだよ」
 そう言って2万円のお小遣いをくれる。
「うっ、うん。ありがとう……」
 芽衣も素直に受け取った。大人になりたいと思う気持ちと、子供のままでいいんだという気持ちが芽衣の中で攻ぎあっていた。

 父を見送って、家に帰ってみると、芽衣のベッドの上に明らかにプレゼントと分かる包みが置かれている。
「なんだろう? きっと、おにいちゃんからの誕生日プレゼントだわ」
 今日は、芽衣の本当の誕生日なのだ。芽衣は、瞳を輝かせリボンを解く。
「なにかな? ふーふふ……」
 嬉しさのあまり鼻歌交じりに箱を開けた。中から出てきたのは、誕生日祝いのメッセージカードとビニール袋に入った白い布のようなものだった。メッセージカードには兄の字で、

16歳のたんじょう日、おめでとう!

     大人になった芽衣へ、桂より

「やっぱりおにいちゃんからだわ……」
 芽衣は、ビニール袋を開け、布を取り出してみた。それは上下お揃いのランジェリーだった。それも、生地の部分が極端に少ない。生地自他もメッシュになっている。ブラジャーは、三角の布地を通し、乳倫の形まではっきり分かるだろう。パンティーもメッシュである。腰の部分こそレースで飾られているが三角形の布地は小さく、芽衣の薄い翳りでもはっきりと分かるだろう。もしかすると、横からはみ出しかねないほど小さい。お尻に回る部分は、単なる紐といっていいほどの細さだ。知識としては、こんなランジェリーがあることを知ってはいたが、見るのは初めてだった。
「えっ、これが下着? こんなの履けないよ……」
 芽衣は、とてもこんな下着を身に付ける女性なんていないと思った。
(おにいちゃん、こんな下着を履く女性がすきなの?
 男の人はみんな、こんな下着を履かせたがるの? 大人の女性は……履くの)

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊