緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第三話6

「今日はここまでにしましょう。こんな感じで時々仕合をして貴方の実力を測りますので」
希美はそう言ってスッと立ち上がった。それから霞に遥を送る様に指示した。
遥はゆっくりと立ち上がり、ありがとうございました、と礼をした。
「では明日───好きな時間に来て下さい。私は明日は午後からは居ますので」
と言って、先程外して地面に落としたブラジャーを拾いに行ってそのまま小屋に入って行った。
希美は小屋に入ると、ハンガーに掛けてあるスーツの上にブラジャーを乗せ、束ねている髪をほどいて椅子に掛けた。
「あのコ、運動神経はあったわね。どう化けるか───」
そう呟き、帰る前に少し仮眠を取る事にした。


次の日───、希美は昼を少し回った所で、川の上流であるにも関わらず中流の様に開けた山の中の私有地にある小屋の中に入った。小屋の中には必要最低限のものしかなく、おおよそ女性が使用しているとは思えない室内だった。
しかしその様な事は希美にとってはどうでも良い事だった。部屋のお洒落は自宅でやれば良いのだし実際にそうしていたから───。ここはあくまで忍術の修行中の簡易的な生活の場であった。もっと具体的に言うと───、
希美は机の上に置いてあった面を手に取り顔面に付けた。ファッション雑誌に出ているモデルの様な綺麗な顔から七色に光を反射する面に変わった。それから隣に置いてあるピンクの太い髪留め用のゴムで長い髪を後ろで一本に束ねた。
その後、ハンガー掛けを手前に引き寄せ、スラックスやスカートを吊す為のクリップが付いてるハンガーを取って机の上に置いた。
それからスーツのジャケット、スカート、そしてブラウスと脱いで下着姿になったかと思いきや、まだタイツが残っていた。ブラウンのタイツの下にうっすらとパンティが透けて見えたが、タイツを膝上までゆっくりと下ろすと昨日のとはデザインが違い、センターに赤いリボンが付いてる桜色のパンティが解放され、タイツに遮られていた空気が下腹から太股まで当たった。
「あ……っ」
希美は顎を上げて軽く声を出し、パンティが解放された事を悦んだ。それから右足、左足とタイツから素早く足を抜き机の上に置いた後、今迄に脱いだ服をキッチリと伸ばしてハンガーに掛けた。ここまでの手際は非常に良く、小屋の中に入ってまだ五分も経っていなかった。
その後希美は軽く体を伸ばして一息ついた後、部屋の中央に移動し、足を肩幅に広げた。その後ゆっくりと両手を肩にやってブラジャーのストラップを肩から外し、左右の腕から抜いた。その後両手を背中に回してベルトを摘み、その状態で一瞬静止した後、中央に寄せてホックを外した。それからベルトを持ったまま両手を前にやり、カップに添えた後ゆっくりとカップを取り去るとお椀を伏せた様な形の良い乳房が露になった。
「あ……んっ」
希美は顎を上げビクッと体を反応させて喘いだ。何回やってもブラジャーを取って乳房が空気に晒されパンティ一枚姿になるこの瞬間は気持ちが良かった。昨日も遥の前で僅かに声を上げてしまったがあれでもかなり声を出すのは我慢していた。しかし今は遥も霞もいない───声を我慢する必要など何処にも無かった。因みに外す順番はその日の気分次第で、昨日の様にさっさと外したい場合はホックを先に、今日の様にじっくり外したい場合はストラップを先に抜くといった感じだった。
外したブラジャーを足元に落とすと、希美はパンティ一枚姿になった自分を鏡で見た。
「最高……ね」
パンティのリボンを右手で軽く摘みながらそう言い、踵を返してブラジャーを拾い机の上に置くと、玄関と言えばいいのだろうか、そこに置いてある足袋を履いて外に出た。と、小屋の中でする事と言えばこういう事なので、余計なものは一切必要なかった。

希美は遥が来るのをボーっと待つ訳では無かった。常にここにいる時には修行修行であり、この時も例外では無かった。風を感じる事は毎日続けないとその感覚はあっという間に鈍るし、音を立てないで移動する事に関しても同様だった。そして高い格闘術を維持する為に体のケアは何より大事であるし、とやる事は非常に多かった。
毎日テーマを決めて修行している訳だが、この日は特にここにいる時間が長い、という事で食事をしなければならない───。ならば気配を消してどれだけ魚が取れるか、という事をテーマにした。
歩く時は乳房を揺らさない位安定した歩き方をして全く音を立てなかった。それだけではない───風や水の動きを読み、更には水の屈折率も計算に入れ、魚から全く見えない死角から狙った為、魚は全く気付かず、次々と希美の手に掛かった。
それから串を通して食べる訳だが、桜流忍術とはいえ、食事・風呂・睡眠中、これらの時はどうしても面を外さなければならなく、隙が出来る。その為希美は体中の感覚をいつも以上に研ぎ澄まし、敵が来ないか、要は自分の土地に入って来た人間が居ないかを感じ取っていた。
そして大丈夫だと判断してから準備をして、面を外して魚を焼いて食べた。

遥は一人で獣道を歩いて希美のいる河原の小屋に向かった。昨日帰る時に霞に自宅の住所を教えて貰い、
「桜流忍術の修行に行く時はうちに寄ってジイジに麓まで連れていってもらって」
と言われていた。その通りに今住んでいるアパートから霞の自宅へ行き、初老の男性を呼んで麓まで連れて来て貰ったのだった。
昼間の移動だったが、車の後部座席は真っ暗で何も見えなかった。この日は隣に霞が居ないため本当に孤独だった。その孤独感と恐怖に呑まれない様に初老の男性に話し掛けたりしていた。
「何故、貴方の様な人がいじめに遇うのですかねぇ」
初老の男性は遥と話してる中静かに呟いた。遥はその言葉に対して暫く黙った。それから、
「判りません……。でも……、私が弱いんだと思います」
と答え、相手が悪いとかそういう言い方はしなかった。恨みや憎しみが無い訳ではない、寧ろその気持ちが今の遥を動かしていたが、小夜子という相手を知らなすぎた故の結果だったのでこういう答え方にした───。逆にそういう考えを持つ事自体が大人すぎて鼻についたのだろうか。

錆びて壊れ掛けた門の前に来た。そこで、昨日霞に貰ったカードを門柱のセンサーの前にかざすと、門に掛けられている鎖が落ちて中に入れた。そこから更に前進し、暫く歩くと昨日来た河原に着いた。

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