緑色の復讐
百合ひろし:作

■ エピローグ2

「久し振りね」
希美は言った。真由羅はペコリと頭を下げて小さな声で、
「こんにちは……」
と言った後用件を伝えた。それから一連の件を謝罪した。山奥で会っていた時も謝罪していたのだか謝らずにはいられなかった。しかし希美は真由羅を止めた。
「貴方がそんな調子では青山さんは悲しむわ」
と言った。小夜子の呪縛から解放された以上は真由羅には下を向いて生きて欲しくないのが遥の願いだった。しかし真由羅は遥の人生を壊してしまったのは自分にある、という自責の念に縛られている為に急に考えを改めろと言われても無理な相談だった。

「兎に角───青山さんに面会したいのは私も賛成だわ。霞もそうでしょう」
希美は真由羅の申し入れにそう答え、霞も勿論賛成した。

真由羅の呼び掛けに応じたのは希美、霞、和歌子、それから遥の中学時代の同級生三人だった。
後日───都合を合わせて集合し、少年院に入院しているとみられる遥に会う為の手続きをいつやるか等の話し合いが始まると、
「そう言えばあの子が居ないわね」
希美が言った。居合わせたメンバーは誰の事だろうと思った。
「眼鏡の男の子よ」
希美は答えた。遥が復讐を遂げた後何人かに会ったがその一人だった。希美自身彼を見たのは遥が彼の家から出て来た時に見送りに出て来た僅かな時間だった。普通なら玄関灯が灯っていたとはいえ薄暗い中の逆光で、しかも車の窓を開けてという離れた位置から彼の顔の特徴を覚えるのは不可能だったが、暗闇の中で面を着けて闘える希美にとって問題では無かった───。
「名前は分かりませんが住所はわかります。行ってみましょう」
希美を含め、集まったメンバーは誰も少年院に入院している者への面会の仕方は分からなかった。しかし、彼と別れてから山奥に向かう最中に遥は希美と霞には彼の事を話していたが、その内容から彼ならその方法を知っているかもしれないと思った。

彼が何故真由羅の呼び掛けの中に入っていなかったのか───?
答えは単純だった。真由羅は彼の事を知らなかったからだった。希美は全員集まった時点で何か違和感を感じていたが、それは彼が居ない事だった───。
希美は車を手配した。すると間も無くマイクロバスが来た。運転席には初老の男性が乗って居て全員に乗る様に招いた。

「分かりました、向かいます」
初老の男性は希美の指示に答えた。

「あの……」
真由羅は希美の腕を掴んで声を掛けた。希美が答えると真由羅は、
「その人に……私にやらせて下さい……私が幹事だし、青山さんの件は……私に責任が……」
と言った。声も、うつ向き気味の顔も希美の腕を握る手も震えていた。たったこれだけの事を言うだけでも真由羅にとっては一大決心だった事が伝わった。真由羅の責任、そして見知らぬ男子に会うという緊張感からだった。
「皆で行きましょう。ドアホンは貴方が押しなさい」
希美はそう言い、全員同意した。


「ここって萬田君の所じゃん」
到着すると遥の同級生の一人が言った。遥の事件に友近が絡んで居たことに驚いた。希美は、
「萬田くんっていうのね」
と名前を確認した。

初老の男性がバスをつけて運転席で操作して扉を開けると真由羅は先頭を切って降り、全員降りて来るのを待った後、萬田家のインターホンを鳴らした。
中から女性の声が聴こえてきた。真由羅は緊張から、
「あ、あの……私達……」
と言葉に詰まった。友近の母が出たがあまりにも真由羅の話し方がしどろもどろな為に不審に思い、切られそうになったが、遥の同級生が助け舟を出してくれて友近に会う事が出来た。

暫くして友近が出て来た。友近にとっては遥の同級生は自分の同級生でもある為知っているが、希美と霞はテレビでモザイクが掛った状態で、そして真由羅や和歌子は裏サイトの写真でしか見た事は無かったがそれでも直ぐに誰だか判った。
「こんな所で話すのもアレだし上がってくれ」
友近はバスに残った初老の男性を除いて全員を部屋に上げた。

部屋の中は重苦しい空気だった───。小夜子の命令とは言え一連のいじめ事件の加害者である真由羅は被害者である遥の同級生、遥が復讐の為に出会った希美と霞、そして最後に自分が手を下した和歌子───。
みんな真由羅に対して責めたりしなかった。いっそこの場で自分を罵倒してくれた方が楽だった。もうこの中で真由羅が遥に『約束の印』をつけた事が遥を退学させて復讐に走らせた事を知らない者は居ないからだった。

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