緑色の復讐
百合ひろし:作

■ エピローグ3

真由羅は土下座した───。
「ごめんなさい……私のせいでこんな事になってしまって……」
しかしそれでも誰も真由羅を責めなかった。真由羅は加害者であると同時に遥が友達になりたいと言った人である事も知っていて、更にはこうやって遥に会うために行動を起こしたからだった。
「謝るのもいいけど、君はこれだけ集めて青山さんの為に何をするんだい?」
友近は訊いた。真由羅がこれだけ集めたとは聞かなかったが様子で判った。唯一の成年者である希美もメンバーに居るが多分希美は発起人でははないだろうと思った。
友近の推測では、真由羅は先ず道場に行って希美に話を持ち掛け、その後道場に同級生が訪れて遥の事を訊いた時に希美が同級生に真由羅が遥に会うための呼び掛けをしてる話をした───という流れだろう、と。そして友近の推測は大体その通りだった。

「青山さんに……会えないかと……面会……したいんです……」
真由羅は答えた。友近は真由羅の目的を理解した上で、
「それは出来ない」
と答えた。しかしその返事の意味を全員理解してなかった。
「どういう事?遥が捕まったらもう関係無いってこと??」
同級生の一人が言った。真由羅も霞も他の人も大なり小なり同じ様に思った。しかし希美はそれらには同調せず、
「少年院は───規定が違うって事かしら」
と訊いた。友近は、
「そうだ。僕達は会いに行けない」
と言って説明した。

面会出来るのは三親等以内の血族、つまり両親と祖父母、兄弟姉妹位。遥の場合は両親以外は弟がそれに当たる。祖父母が今もいるかどうかは遥から聞いていないのでそれは判らなかった。
それ以外には遥についてるだろう保護司、他には担任の先生や会社の社長等があるが、遥は学校に通ってない上に働いてるといってもアルバイトなので、担任や社長は無いと考えられた。

「青山さんの様子を知りたければ保護司を探さないと駄目だ」
友近は結論を言った。それに対して真由羅は、
「家族……は……?」
と訊いた。友近は首を振り、希美と霞もそれに同調する素振りを見せた。また、同級生達も友近の発言を否定しなかった。
遥の家庭環境は悪く、弟だけが可愛がられ遥は除け者にされていた。それが遥が真由羅と同級生になった理由なのだ───私立は言語道断だったので県外の有名公立高校に入学したのである。
沢山の人がその時遥を見送った訳では無かったが友近とここにいる同級生の一人は見送った人だったので遥の家庭環境を理解していた。
「じ……じゃあ、折角外に出て頑張ろうとした所を……私は……私は……」
遥の身の上を理解してしまった真由羅は再び自責の念に潰され掛けた。すると友近は真由羅の胸ぐらを掴み、
「君の罪は大きいと理解しろ。でも、青山さんはそれでも君を助けようとした───新潟小夜子とやらから。青山さんは復讐に取り付かれてたけど自分の為だけに罪を侵したんじゃない」
と言って真由羅を半分投げ捨てる風に放した。真由羅は倒れ込み、両手を着きうなだれた。
それでも行き先は遥の実家───、目的は遥に着いている保護司の名前を聞き出す事で勿論それは真由羅がやらねばならない事だった。しかし、真由羅の精神状態は小夜子にいじめられていた頃や奴隷となっていた頃より更に悪く、これに挫折してしまったら自殺してもおかしくない状態だった。自殺云々は兎も角、真由羅が一人でそれが出来るとは誰も思わなかったので、全員でサポートすると約束した。


遥の実家に着くと真由羅はチャイムを鳴らした。すると母が出た。
「私達……遥さんの……同級生です」
真由羅が言うと母は面倒そうに話を聞いた。
「全く……余計な事をする娘だわ……」
もう関わりたく無い様な言い草だった。報道では名前や顔は伏せられていたものの中学時代の全体写真は出てるのでインターネットでは出身中学は特定されているだろう───、中学と高校が割れていれば個人情報を特定するのは容易い。それがネットの恐ろしさだった。すると可愛い弟が犯罪者の弟としていじめられるのは容易に想像出来た。
そんな風な対応だったので遥の為に面会なんて行ってる訳がなかった───。
真由羅は仲間のサポートを受けながら、何とか遥に着いた保護司の名前と連絡先を聞いた。もっと聞き出すのは難しいと思ったが、

後はそっちで勝手にやってくれ───

という具合で教えてくれた。もし遥の件が原因で弟がいじめを受けたら遥に対して損害賠償請求する、とのおまけ付きで───酷い親だ。

可哀想な青山さん───
家族には愛されず、高校では些細な事がきっかけでいじめの標的に合い退学してしまった。その後もその呪縛に縛られ復讐に走り将来を自らの手で潰さざるを得ない人生───。
遥の地元ということは真由羅と和歌子以外の人にとっては地元なのでその場で解散とした。真由羅は帰りの電車の中で顔を上げられなかった。

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