三十路の性宴
一二三:作

■ 第一章 麦秋のホタル1

1、ホタル狩り。

南海興業社員寮の一室では、月末で金欠病患者の独身者が二人、卓袱台の上に乗せた薄っぺらな将棋盤を囲んで黙々と熱戦中である。
「オォーテッ、王手飛車だ」
「アッ、不可ねェー、待った、待ってくれ」
「待った無しだ」
「そんなこと云わずに待ってくれよ、お願ぃ」

「駄目だ、飛車が逃げるか?」
「馬鹿云うな、お終いだろう、冷たい事言わずに待ってよ」
「駄目だ」
 こんな会話は毎度の事で、待て、待た無いと言っている処へ、ドアノックもしないで一人の若者が1升瓶を提げて這入って来ました。
「居た居たへぼ将棋、銭にも成らん将棋なんか止めて呑もうや、齧る物も持って来たからさ」
 と云いながら両方のポケットから、オカキやイリコ、ソーセージや燻製を取り出し卓袱台の上に置きました。
「いつも済みません、♪「遊びに行きたし金は無しー
ですよ、おまけに将棋には負けるし、一発抜きたいですよ」
 公一は早速負けを宣言し、卓袱台から将棋盤を片付け、流しの食器籠からコップを3個持って来て、
「先輩、何時も済みません、コップだけは綺麗に洗って居ますから」 と云いながら二人の前にコップを並べました。
「然し、お前達は何時も月末はシケてるなぁ、只で抱ける女を作れよ」
「先輩、好い子世話して下さいよ、お願いします」
「女は自分で見つける事だ、そうだ一杯飲んでから暗く成ったらホタルを観に行かないか、今年は1の井出の所に一杯出て居るらしいよ」
「そう云えば女の子も一杯来て居ると言ってましたね」
「今日は土曜日で蒸し暑いから多分多いと思うよ」
 女を漁る話と成ると一気に盛り上がり、自称女殺しと豪語して居る先輩格の土居鶴治(徒名女殺しの鶴)が、金欠病の公一と剛を引連れて、農業用水取水堰の在る1の井出に着いたのは暗くなった8時過ぎでした。
 土居は営業部で持ち前の話術と、同業他社との割り振りを仕切る先取り情報の的確な入手で、会社としては貴重な存在です。剛は房子と同じ製造部で、剛が係長で房子は其の下の工員です。公一は運輸部の配送係です。
 国道から少し這入った川岸には無数のホタルが乱舞し、見物の老若男女が川に架かって居る橋の上に、夜目で見える限りで30人以上居るようでした。
 土居達が橋の欄干に凭れて女漁りに目を凝らせている時、ママさんバレーの練習を終えて帰路のおばさん連が通りかかり、
「まぁー綺麗」
と云って橋の欄干に寄り添い川面を覗き込みました。キャプテンの悦子55歳、益美40歳、敏江35歳、房子33歳、此の中で房子だけが子持ちの後家さんで、公一達の会社に勤めて居ます。
房子の家は厳格な家庭で父はJAの専務理事、母は地域の民生委員を遣って居ます。
「公ちゃん達来てたの、綺麗ね」
「アア、房子さん今お帰り、遅く迄練習大変ですね」
「まぁーね、此れが息抜きよ」
 房子が何気なく言った言葉でしたが、傍で聞いて居た女殺しと異名の有る土居にはピンと来たようです、公一と房子の間に土居が割り込み、持ち前のジョークを交えて面白可笑しく房子達を笑わせて居ましたが、気が付くとあれだけ居たホタル観賞者が居なく成って居ました。
ママさんバレーのキャプテンの悦子も何時の間にか居なくなり、橋の上に残って居るのはママさんバレーの3人と土居達3人に成って居ました。其の内のママさん二人は橋を渡って川向うの集落に帰り、房子は土居達と同じ方向に帰ります。
 房子を真ん中に挟み、国道を歩かず、わざと川岸の刈り取り前の麦畑に挟まれた細い農道を歩き、暗いのを幸いに、前に剛、後ろに公一、真ん中に房子が土居に肩を抱かれる格好で歩きながら、甘い卑猥な言葉で口説かれて居ます。

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