桃香
木漏れ日:作

■ 1

私がその少女に出会ったのは、まったく偶然だった。
昼過ぎ。
私は用事を済ませて帰る途中一匹の子犬に出あった。
体毛は白。
首輪がないので飼い犬ではない。

子犬は人なつっこく私の手を舐めた。
その時私の背後で自転車の止まる音がした。
「わー可愛いっ!」
振り返ってみると少女が犬を見ている。
7歳位だろうか? 赤いチェックのスカートに白いセーターを着ていた。

「その犬お兄ちゃんの?」
「違うよ…。」
「じゃ頂戴!」
少女はさっと子犬を抱き上げた。
そして自転車の前かごに犬を載せた。
少女は走り去った。

これが桃香との出会いだった。
数日後。
私と少女はまた出あった。
今度は店の中で。
私がデパートの本屋で立ち読みしていると、子供がぶつかってきた。

「あっごめんなさいっ!」
私の顔を見て、
「あっお兄ちゃん…。」
少女は本棚の上の方を見ていたようだ。
それで私にきずくのが遅れてぶつかった。
「どうしたの?」

「ごめんなさい! よそ見してて…。」
「本捜してたの?」
「うん…。」
「みつかった?」
「ううん…。」
「一緒に捜そうか?」


「ありがとう…。」
私は少女と捜した。
「あ、あった!」
少女が手に取る。
参考書のようだ。
「良かったね…。」

「うん、ありがと…。」
数日後。
夕方。
私が家で仕事をしているとチャイムが鳴った。
ドアを開けると少女が立っていた。
「今日は…。」

「ああ、あの時の…。」
「良かった! やっぱりここだったんだ…。」
私はどうしていいか分からずただ見ていた。
「上がっていい?」
「え? ああ、どうぞ…。」
「お邪魔しまーす…。」

少女は明るく言うと部屋に入ってきた。
「ねぇ、一緒に食べよ!」
そう言って袋を差し出した。
袋の表面にドーナツの絵が描いてある。
駅ビルの中にある店だ。
「あ、どうも…。」

私は紅茶を入れてテーブルに上に置き、
「君、名前は?」
「あ、ごめんなさい…桃っていいます…。」
「どんな字?」
「果物の桃…。」
「そうか桃ちゃんねぇ…。」

「あ、僕はねぇ…。」
とたんに少女が言った。
「修二さんでしょ?」
「なんで知ってるの?」
「ネーム見たから…。」
「そうか…。」

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