夢魔
MIN:作

■ 第21章 暗躍1

 稔達が校長達を呼び出し、部屋を立ち去る寸前に戻る。

 駅前のホテルの入り口を見渡せる場所に、1台の黒いベンツが止まっていた。
 その車の運転席には、美しい顔をした女性が、黒いスーツを纏い無表情に座っていた。
 女性の視線は、前方に固定され、一切動かない。
 その姿は、どこか人形のようだった。
 その車の後部座席に、1人の男が座っている。
 男はどう言えば良いのか解らない程、全く特徴がない。
 その男は竹内家の執事、佐山正吾だった。

 後部座席で煙草を燻らせながら、佐山はホテルの玄関をボンヤリ見ている。
「出てきたな…」
 佐山はポツリと呟き、窓から煙草を放り投げる。
 車の扉を開けると、スルリと車から降り
「ちゃんとどっちに行ったか見ていろ…俺の言う方が見つからなければ…お仕置きだ…」
 運転席の女性に向かって、囁いた。
 佐山の言葉を聞いた女性は、ガタガタと震え始め[はい、ご主人様]小さく呟いた。
 佐山はニンマリ笑うと、直ぐにホテルに向かい、中に消えていった。

 ホテルの中に入った佐山は、直ぐにエレベーターに向かう。
 スイートルームの有る階直通のエレベーターに乗ろうとすると、直ぐに制服を着た係員が、佐山の動きを止める。
「お客様、こちらはスイートルーム直通となっております。一般の階への移動は、あちらのエレベーターをお使い下さい」
 にこやかに話し掛ける従業員の胸のネームを素早く読み取った、佐山はニヤリと笑う。
(フロアーマネージャーか…こいつなら、マスターキーを持ってるな…)
 佐山は直ぐに、従業員に向き直り、人なつっこい笑みを浮かべると、植え込みの影に導き、一瞬で従業員に催眠術を掛けた。
 佐山の操り人形になった従業員は、エレベーターに一緒に乗り、佐山の指示通り稔達が、取っていた部屋の鍵を開ける。

 中に入った佐山は、部屋の状態を見て、ニヤリと笑う。
 携帯電話を取り出した、佐山は報告を始める。
「やっぱり、見破られました…ええ、校長達は3人でオナニーに耽ってます…。このままでは、恐らく計画は頓挫しますね。こいつらでは、使い物にならないでしょ…はい…じゃぁ、私も別のカードを用意します…それでは、失礼します」
 佐山は携帯電話を切ると、部屋から出て行く。
 部屋の中では、校長達3人がクッションや布団を抱え込み、腰を振っていた。
 稔の掛けた暗示で、馬鹿笑いしながら、自分の抱えている布団やクッションをお互い交換し、精根尽きるまで腰を振るのだろう。
 佐山は侮蔑の表情を浮かべ、扉を閉める。
(無能には無能の仕事が待っている…。精々夢を見るんだな…)
 部屋を後にした佐山は、もう振り返る事無くホテルを後にする。

 ベンツに戻ると、運転手に
「前川達を追え」
 短く告げる。
 運転手は頷く間も惜しいと言わんばかりの勢いで、ベンツを走らせた。
 後方から、クラクションの嵐が降ろうが、運転手は必死の形相で、ベンツを走らせる。
 ベンツは沙希達の消えた角を曲がり、後を追う。
 だが、住宅街に入ってしまった2人を、運転手は見つける事が出来なかった。
 それは当然の筈だ。

 沙希達が消えたのは、今から10分程前の事なのだ。
 運転手は、佐山に命じられ二手に分かれたグループが何処の角を曲がるか迄は、確認できても、その角を曲がり何処に行ったかなど、知り得る筈も無かったのだ。
 佐山がホテルに消えて、戻ってくるまでの時間が15分、沙希達が運転手の視界から消えたのが、佐山が車から降りて5分後だから、必然10分の時間が過ぎ、その10分間に何処に移動したのか、運転手には皆目見当が付かない。
「どうした…? 見失ったのか…。無能な者にはどんな罰が与えられるか…知っているよな…」
 佐山が後部座席から運転手に囁くと、運転手の美貌は恐怖に歪み
「お慈悲を…お慈悲をお願いします。ご主人様…」
 必死の声で、懇願する。

 佐山はニヤリと笑い
「何が欲しい…代償は何だ…」
 後部座席から、囁く。
「時間、時間を…か、快楽で…お願いします」
 運転手が掠れた声で応えると
「快楽か…精々20秒だな…」
 佐山が薄笑いを浮かべ、呟いた。
「あ、有り難う御座います!」
 運転手は、礼を言うとベンツのタイヤをきしませ、路地を猛スピードで走り抜ける。
「1・2・3・4…13・14…」
 後部座席で、佐山は腕時計を見ながら、秒数を数える。
 運転手の表情は秒数が増える毎に、ドンドン引きつりその美貌を夜叉のように変えた。

 佐山が気怠そうに、秒数を数える。
「17・18・19・2…」
 佐山が[じゅう]と言い切る前に、運転手が
「見つけました!」
 短く叫んだ。
 佐山は顔を上げると、10m程前を庵と沙希が歩いていた。
「良かったな…帰ったら、代償を払うんだぞ…」
 佐山が呟く。
 運転手は、ベンツの速度を落としながら、2人の後を追い
「はい。有り難う御座います、ご主人様」
 引きつった表情を戻しながら、蒼白な顔をしていた。

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