夢魔
MIN:作

■ 第22章 教師1

 7月も半ばに近付いた有る放課後、校長室の窓から1人の男が外を見ている。
 その後ろの応接セットに5人の男性が座り、話を交わしている。
 応接セットに座っている5人の内、3人は白いワイシャツに黒い学生ズボンをはいた生徒で、残りの2人はサマースーツを身に纏っていた。
 窓の外を見ているのは、この学校の校長、佐藤修(さとう しゅう)。
 応接セットに座る2人の男は、教頭の鈴木貴史(すずき たかし)と教育指導主任の伊藤大志(いとう たいし)。
 学生服の3人は柳井稔(やない みのる)、垣内庵(かきうち いおり)、工藤純(くどう じゅん)だった。
「そうですか…。とうとう、始まりますか…」
 校長は窓から外を見ながら、ポツリと嬉しそうに呟いた。

 教頭が身を乗り出して
「今度は、この間のような肩透かしは無いんだろうね…」
 稔に詰め寄る。
「ああ…あんた達が、ちゃんと俺達に隠し事しなきゃ、やらせてやるよ」
 狂が教頭に向かって、薄笑いを浮かべ茶化すように言った。
「お、お前! 教頭に向かって、何て口をきくんだ!」
 指導主任が目を向いて、食って掛かると
「あんたらは、タダの協力者だ…、俺達の方が立場は上だぜ…」
 庵がジロリと睨み付け、指導主任を黙らせる。

 指導主任は庵の迫力に押され、身体をソファーに戻し、モゴモゴと口ごもった。
「それによ…ちゃんと言い含められてるだろ[俺らの邪魔はするな][俺らの指示に従え]ってな。お偉い爺さんによ」
 狂はケタケタと笑いながら、2人の怒りを煽る。
 真っ赤な顔をして、狂を睨む2人に
「狂止めなさい…。お二人とも、引いて下さい…。僕達も貴男方の力が必要なんです。ですから、ここはお互い理解し合って、話しをしましょう…」
 稔が仲裁に入り、場を納めた。
 稔の言葉に従って、お互い言い合いを止めると、稔が口を開く。
「これから先は、隠し事は無しでお願いします。これからは、かなりデリケートな作業が伴いますので、我々の意志の齟齬があるだけで、失敗する事も充分考えられます。僕達はそれぞれ、その道のスペシャリストを自負しています。ですから、主導はどうしても僕達に渡して頂き、協力をお願いしたいんです」
 稔が説明すると、頭を下げる。

 教頭と指導主任が口ごもっていると、校長が窓際から戻って来て
「約束しよう。我々も何も、君達の能力に文句が有る訳ではない。この間の事も、元は我々の方に否があったんだ。今後、お互いが信頼し合って、大きな計画を成功させようじゃないか」
 稔に同意をした。
「有り難う御座います…。では、生徒会の役員を一新して頂いて、生徒の統括全権利を生徒会に委任する、この校則を交付して下さい。それと、この12名を集めて頂きたいんです。この方達と、御3方が教師サイドのキーマンに成ります」
 校長は稔の差し出したリストを見て、無言で頷きニヤリと笑う。
「そうか…そう言う事か…成る程…あの人員整理の意味が、やっと解ったよ…」
 校長は稔を見詰め、納得して言った。

 校長がそのリストを、横に座る教頭達に見せると
「こ、これは、守旧派の先生達…それに、ここに書いている事は…こ、これは本当なのか?」
 2人の教師は、目を剥いて驚いている。
「ええ、僕のリサーチの結果、間違い無いです。ですから、今現在この学校に、在籍されて居るんです」
 稔が静かに教頭達の質問に答えた。
「ええ! あ、あの化学の小室君や、社会の京本君…それに、英語の黒澤君まで…。人は見かけに因らない…」
 指導主任が驚きながら、ボソリと呟いた。
 そこに記された教師達は、殆どが主任教師の位置に居た。
 経歴的にも、有り得ない人事がなされた理由を、初めて3人は理解したのだった。

 去年の3月、理事長の肝煎りで大幅な改変が断行される。
 その改変は教師64人中45人が入れ替えられる、大幅な人員入れ替えだった。
 改変で全体の7割の教師が入れ変わり、それによって女性教師が全体の8割強を占めるようになる。
 更に、元々居た若い美人教師に加え、かなりの数の美しい新卒教師を雇用し、美人率は格段に跳ね上がっていた。
 理事長の個人的趣味が噂されたが、学校自体の男女比率から言えば、妥当な物と言える。
 若年教師が増えたため、学校の雰囲気はグッと明るく成り、いつも笑いが絶えないさわやかなムードに変わった。
 改変を断行した理事長の意見は、[以前から有った伝統を守り、規律正しい校風を掲げているのは、現代に於いて重苦しいイメージが有り、それを払拭するため]と言う発表が行われていたが、その実こんな裏が有るとは、3人には思いも寄らなかったのだ。

 校長達3人は稔に向き直ると
「で、この12人を集めて、どうするつもりなんだ?」
 興味津々で問い掛けてきた。
「ええ、もう充分サディストとして目覚めています。それぞれ、危ない方向に行く前に、研修に行って頂こうかと…。もう話は付けています、1週間ほど都内の有る場所で、サディストの技術とマナーを学んで貰います」
 稔が静かに答えると、校長が頷きながら
「合宿をさせるという事だね?」
 問い掛けてくる。
「ええ、そうです。それも早急に、手を打たないと既に何人かは、暴走しています」
 稔はプリントアウトした、写真の束を机の上に拡げる。

 その中には、女生徒に虐待を加える、女性体育教師、衆目の中で女性徒のスカートを捲り上げ、物差しでお尻を打つ女性数学教師、ビシビシと指示棒で打擲する社会科教師、黒板拭きを両手に持ち、女性徒の顔を真っ白にしている美術教師、その他大勢の暴行現場が映し出されていた。
「む〜っ…これは問題だな。で、合宿先は何処なんだ? まさか、SMクラブに行く訳にもいかないだろ」
 指導主任が問い掛けてくると、稔はケロリとした顔で
「いえ、SMクラブですよ」
 指導主任にあっさり答える。
「ば、馬鹿か君は? 良いかね、仮にも教職にある者が大挙してソンな所に、出入りできる訳無いだろ!」
 指導主任は顔を真っ赤にして、怒鳴り始めた。
「いえ、出入りするのは、入る時と出る時だけですし、そこもカモフラージュされています。中に宿泊設備も整っていますし、12人ぐらいは問題ないですよ」
 稔は指導主任に、平然と答えた。

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