夢魔
MIN:作

■ 第22章 教師2

 稔の言葉を聞いて、校長の顔色が変わる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…柳井君…。その店は、都内に有るんだね…? ヒョッとしてそこは、港区かな?」
 校長は身を乗り出して、稔に問い掛けると、稔は屈託無く笑って
「ええ、そうですよ」
 校長に答えた。
 校長はその答えを聞いて、稔をマジマジと見詰め
「君は何者なんだ? 君の言っている店は、一般人が知る筈の無い店だろ…。どうして、その店に12人も宿泊させる事が出来るのか知りたいんだが、教えて呉れないか?」
 稔に問い掛ける。

 稔は微笑んで
「そこの女性主人とは、アメリカの頃からの知り合いで、日本に来てからも懇意にしていますから。頼んだら、直ぐにOKを呉れましたよ…」
 校長に説明した。
 校長は呆気に取られた顔をして、顔を押さえ溜息を吐きながら、ソファーに深く背を凭せ掛ける。
 教頭が怪訝な顔をして、校長に問い掛けた。
「大丈夫ですか? 一体何の話しなんです?」
 校長は[馬鹿げてる]と何度も呟きながら、顔を押さえ
「今、彼が言った店は確かに存在するらしい。だが、政治家でも1任期2任期程度じゃ、知りもしない…。社長なんかでも、東証の1部クラスの半分より上じゃなきゃ、敷居もまたげない…。そんな店だ…」
 ボソボソと教頭に、呟くように答えた。

 教頭と指導主任が、ポカンと口を開けていると、校長が何かを思いつき、ガバリと勢い良く身体を起こして、稔にしがみつき
「や、柳井君! そ、その合宿に…引率者は要らないか? な、なあ…必要だろう! 教師が…それも、主任クラスが12人も移動するんだぞ! 学校側として、絶対に引率すべきだと思うんだが? どうだろう…あと…後1人…」
 必死の形相で、懇願を始めた。
 稔は、校長の勢いに押され
「ええ、後1人くらいは、大丈夫だと思いますよ…」
 校長に答えると、校長はソファーから飛び上がり、ガッツポーズをして
「やったーーーーーーっ」
 雄叫びのような声で、感激する。

 ホームランを打ったバッターのように、グルグルと校長室をガッツポーズで回る校長を見て、教頭がそれに気が付く。
「や、柳井君? そこは、あんな風に喜ぶような所なのか? …どうだろう…何とかもう1人…入れないか?」
 教頭が稔の横に擦り寄り、耳元に囁き出す。
「きょ、教頭! 抜け駆けは汚いですよ! や、柳井…い、いや、柳井君! 私も頼むよ」
 指導主任がテーブル越しに、身を乗り出す。
(全く…お遊びで行く訳では、無いんですがね…何を考えて居るんですかね…)
 稔は辟易しながら、携帯電話を取り出し、コールする。

 暫く電話で話した稔が、通話を切り顔を上げると
「増やせるのは、1人までだそうです。…どうしてもと言うなら、1人は除外しなければ成りません…まあ、心当たりが有りますから、その方には外れて貰うとして…それでも、枠は2人分です。それに、学校のトップが3人とも1週間不在は不味いでしょ…」
 教頭と指導主任に告げる。
 2人は、どちらも譲らず、つかみ合いに成りそうになった。
「公平に、ジャンケンで決めたらどうです? お互いしっくり来るでしょう」
 稔の提案に、教頭が校長に
「校長、引率者のジャンケンです。公平に行きましょう」
 どさくさ紛れに、申し出た。

 校長は教頭の言葉を聞いた瞬間
「馬鹿者! 価値も解らん者が行ってどうする! 儂は、そんな物には、断じて参加せん! お前ら2人で、残りの一つを決めんか!」
 烈火の如く怒りだし、顔を真っ赤に染め、ブルブルと震えながら怒鳴った。
 教頭は校長の怒りに怖じ気づき、指導主任の方を向く。
 だが、指導主任は完全に教頭を敵として、臨戦態勢に入っていた。
「さあ! さあ! 決めますよ! 最初はグー!」
 指導主任の気迫溢れるかけ声に、教頭は心の位置を押し込まれる。
「じゃんけん! ほい!」
 指導主任の声に釣られ、差し出したパーは何も握る事が無かった。

 指導主任の高笑いが、教頭の上に降り注ぎ、教頭はガックリと膝を付く。
 全てを見ていた、狂が一言
「あほらしい…俺、帰るわ…。決まった事教えてくれ…」
 呆れ果てて、校長室を後にする。
 庵も立ち上がり
「俺も、道具の調整がありますんで、帰ります…」
 狂に続いて、校長室を後にした。

 残された稔は、ガックリと項垂れた教頭の側に行き。
 教頭の耳元に囁いた。
「勘違いされているかも知れませんが、今回は生徒として合宿するんですよ…恐らく、想像を絶する教育が有ると思います」
 稔の囁きに、教頭は涙を浮かべ
「それでも、行って見たかったんだぁ〜…」
 稔に訴えた。

 稔は苦笑を浮かべ、教頭の耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「教頭先生には、次はVIP待遇で一週間入れて貰えるよう、頼んでおきますよ…」
 稔の言葉を聞いた教頭は、ガバリと顔を上げ
「ホント? ね、ね? 本当? …い、いつ? いつ頼んでくれる? な、なぁ…いつ?」
 稔の手を握り、真剣な表情で、詰め寄る。
「いつとは言えませんが、必ず…」
 稔がそう答えると、教頭は何度も[有り難う]と頭を下げ、手を握りしめた。

 稔は教頭を見詰め
(こんな人達が、トップ3で最有力の協力者かと思うと…気が滅入りますね…)
 大きく溜息を吐く。
 稔は、この計画の先行きが、不安に成って来た。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊