夢魔
MIN:作

■ 第22章 教師5

 自分達の行った体罰と言うには、行き過ぎた行動の証拠写真が、殆どの教師分そこに有った。
 途端に教師達は、口々に弁解しようとしたが、その言葉を指導主任の、平手で机を叩く音が遮る。
 バーンと派手な音を立て、全員を黙らせた指導主任が
「まだ、校長のお話は終わって無い! 最後まで静かに聞きなさい!」
 声を大きくして、全員に命じた。
 校長は沈痛な面持ちで、指導主任に頭を下げ、話を続け始める。
「このまま、この事が公になってしまえば、我が校のダメージは著しい…因って、理事長にご相談した所、今後の方針を打ち出し…、有る人物を紹介してくれた…」
 そう言って、12人を見回す。

 12人の教師は、皆緊張した面持ちで、校長を見つめ、次の言葉を待った。
「理事長は、今の学校の雰囲気に憂いておられる…自由な雰囲気とは、秩序を乱し、規律が緩んで行く原因では無いかと…」
 校長が言った言葉に、教師達が頭を捻る。
 当然、自分達が糾弾されるで有ろう言葉が出ず、話しが有らぬ方向に、飛んでしまっていたからだ。
「このまま秩序を示さなければ、この学校は崩壊するのでは無いか…」
 校長は芝居掛かった言い回しで、教師達そっちのけで、話を続ける。
 だが、目端の利く老獪な教師は、校長の言わんとしている事に気付き、落ち着きを取り戻し始めた。
「そんな事になる前に、手を打つべきだと…理事長は言われた」
 校長はそこまで言うと、12人の教師を見つめる。

 既に校長の意図を察した、3人の教師が薄く笑っている。
 校長はニヤリと笑い
「そこで、理事長は体罰を認められた…。迫田君この場合、どんな問題がある?」
 校長が迫田 学(さこた まなぶ)45歳、数学系主任教師に問い掛けると
「そうですね、体罰否定派の教師達の反発ですかね…。教育委員会やPTAを引きずり出されたら。それこそ、やっかいです」
 校長がニッコリ笑って、視線の向きを変える。
「黒澤君? 君はどう思う…」
 黒澤 英樹(くろさわ ひでき)46歳、英語系主任教師を見ながら、問い掛けた。
「それもそうですが、直接見られたりする。報道系や周辺の目も気にするべきですね…」
 黒澤は、冷静に答えを返す。

 校長は満足そうに頷き、京本の顔を見て
「京本君は、どう思うかね?」
 京本に向かって、質問する
「教師やPTA、報道や周辺住民より、この学校には煩いのが、2人居るじゃないですか…。先ずあの2人でしょ…」
 京本が呟くように、言葉を吐く。
 教師サイドのTOP3の発言を聞き、他の教師達も、矛先が自分に向いていないと理解して、緊張を和らげ始めた。
「まだありますわ…。秩序を作るためには、システムが必要です。ここに居られる方で、そう言った物に精通されてる方…居られます?」
 大貫紗英(おおぬき さえ)33歳、国語系主任教師が、見下したような言い方で問い掛ける。

 テーブルの写真を見ながら、白衣を着た男が、ブツブツと呟いた。
「それに見た所…みんな、タダの暴力じゃないですか…。こんなんじゃ、直ぐに破綻しちゃいますよ…」
 小室直弥(こむろ なおや)34歳、理科系主任教師である。
「何言ってんだ! 言う事きかねぇ奴は、片っ端からぶん殴れば良いんだよ!」
 山本孝三(やまもと こうぞう)38歳、体育主任教師が、獰猛な顔で小室を威嚇しながら言った。
 山本はインテリぶっている小室が嫌いで、仕方がなかった。
 小室はムッとしながらも、山本の恫喝に負け、小さく成る。

 他の教師達も意見を出そうとした時、校長が話し始めた。
「そう、理事長の思惑を実行しようとした時、様々な障害が現れる。そこでだ、理事長は有る人物を紹介してくれた…。それが、彼だ…」
 そう言って、校長は隣りに有る理事長室の扉を示すと、指導主任が素早く扉を開ける。
 理事長室から1人の学生が現れ、12人の教師は一様に驚いた。
「き、君! 生徒が理事長室で何をして居るんだ!」
「ば、場を弁え給え! ここは、君のような生徒が居て良い場所では、無いんだぞ!」
「早く出て行きなさい、どうやって紛れ込んだんだ!」
 教師達は、口々に生徒を校長室から追い出そうとする。
 大貫はテーブルの上に身体を投げ出し、必死に成って写真を集めて、身体の下に隠していた。

 そんな中、1人の教師が椅子に深く腰掛け、ジッと生徒を見詰める。
「みなさん…落ち着いて下さい…。この生徒の話しは、ちゃんと聞くべきだと思いますよ…。なぁ、柳井君…可笑しいと思ったんだ…君のような生徒が、この学校に居る理由が解らなかった…。だけど、今君を見て、やっと繋がったよ…」
 小室が稔を見つめ、笑いを含んだ声で語った。
 小室の言葉に、全員が口をつぐんで校長を見つめる。
 校長が教師達に大きく頷くと、稔が教師達に向かって歩き始め、手に持った雑誌を黒澤の前に差し出す。
「これは、3日後発売予定の週刊誌です」
 稔の言葉に、黒澤は見た事がない号の、自分の愛読書を見つめパラパラとページをめくる。

 有るページに来ると、黒澤の手の動きがピタリと止まり、マジマジと雑誌を読み始めた。
「こ、これは…。うちの学校じゃないか…」
 黒澤が顔を上げながら、稔に問い掛けると
「ええ、そうです。有名覗きスポット…。学校の周りを外部から遮断するには、良い口実だと思うんですが」
 稔は頷きながら、黒澤に答えた。
 そこには、ハイアングルから、着替えをしている女生徒達の姿が、窓越しに盗撮された写真が掲載されている。
 稔は更に、手に持った鞄の中から、有る図面を取り出す。
「これが、この記事の対策に成ります」
 そう言って、図面を拡げると、そこには学校の改修工事計画が、出来上がっていた。

 図面を見つめて、驚いている教師達に
「着工は5日後に成る予定です。迅速な対処で、何処も文句は付けられないと思いますよ。誰かに、問い質された時の言い訳なんて、星の数ほど有ります…。まぁ、誰も苦情は出さないと思いますが…」
 稔が余裕を持って告げる。
「ば、馬鹿な…絶対にこんな事をしたら、あの2人が黙ってる筈無いだろ! こんな工事出来る訳無い!」
 京本が稔に、硬い岩をぶつけるように、捲し立てる。
「あの2人と言われるのは、副理事長のお二方ですか? それなら、話は付いています。これが証拠です」
 稔が副理事長の委任状を京本に見せると、京本は驚きを湛えたまま、何も言えなく成った。

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