夢魔
MIN:作

■ 第22章 教師6

 12人の教師が動きを止め、1人の生徒を見詰めている。
「じゃぁ体罰否定派の教師達や教育委員会やPTAはどうするんだね?」
 迫田が、震える声で稔に問い掛けると
「PTAは問題有りません。この計画は理事長も全面的に関与されております。この市で、理事長に逆らう勇気の有る労働者が居るとは、思えません。教育委員会の方も、理事長が責任を持ってあたって頂けると、確約されています。問題は無いでしょう」
 稔はそこまで説明すると、口を閉じる。

 迫田は、沈黙に堪えかね
「体罰否定派の教師達は、どうするつもりなんだ!」
 稔に捲し立てた。
 稔は、ニッコリ笑いながら
「それを先生達にお願いしたいんです。残りの学校の教師…先生方が、1人で4人ずつ取り込んで頂ければ、数は合う筈なんですが…」
 そっと、12人の教師に告げた。
 12人の教師達は、稔のその言葉に、ドキリと胸を高鳴らせ、同時に締め付けられた。

 沈黙する教師達の中、小室が口を開く
「ふふん…。この中に居ない唯一の男性教師、源先生は…どうやら、君の仲間のようだね…。そう、垣内君と工藤君…、2人とも大学卒の経歴を持っているのに、君と同じ学生をしている…。当然仲間なんだろ?」
 稔は小室の言葉に、薄く笑うと
「流石は小室先生ですね…、お察しの通りです。源先生も純も庵も僕達のチームです」
 あっさりと、小室の質問を認める。
「これだけ用意周到だと、さぞ前から計画されていたんだろうね?」
 小室は嵩に懸かって、質問を続けると、稔の雰囲気がガラリと変わり始めた。

 稔は校内では控えていた、サディストの本性を目覚めさせ、眼鏡を外して怜悧な美貌を晒し、真っ直ぐに小室を見つめ
「それをお聞きになって、どうするんですか? 貴方達は、この計画に乗らなければ、単純に社会的地位を失います。それだけでは無く、官憲の手に拘束される事も理解して下さい。これは、脅迫では有りませんし、依頼でも有りません、単純な選択です。どちらを選ぶかは、貴方達次第です」
 自分達の置かれた立場と、これからの行動を説明した。

 小室が稔の迫力に押され、顔を逸らした時、体育教師の山元源治(やまもと げんじ)が、応接セットを回り込み稔の側に進み出て
「第3の選択が有るぜ! 生意気な糞餓鬼を叩き伏せて、証拠を消すってな!」
 稔に掴み掛かった。
 山元は新編成で新しく雇用された、30歳の体育教師で柔道部の顧問をしている。
 その性格は傲慢で攻撃的。
 学生時代インカレや国体に出場する程の実力を持ち、本来なら強豪校の生徒を教える筈だったが、行き過ぎた指導が元でこの学校に赴任した。
 この学校に赴任しても、女子を相手に手加減など一切せず、その指導が問題視されている教師だった。

 その山元が、稔の襟に手を掛けた瞬間、稔が自分の襟を掴んだ山元の手に、ソッと手を添え身体を捻った。
 山元はそのままもんどり打って、校長室の床に一回転して背中から落ちる。
 ダーンと音を立てて、転がった山元の口から
「グギャーッ!」
 大きな悲鳴が上がり、のたうち回っていた。
 その一連の流れは、多くの教師の目には、山元が自分で飛んで行ったようにしか見えなかったが、2人の教師が稔の行った事を理解し、それぞれの表情を浮かべる。

 その2人は、英語主任教師の黒澤と数学教師の大城 洋子(おおしろ ようこ)で有った。
 大城は合気道部顧問をしているためであり、黒澤は有る特殊な経歴から、稔の行動を理解したのだ。
(小手返しから投げを打って、一瞬で手首の関節を外した…。相当の実力差が無いと、あんなに綺麗に決まらない…)
 大城は驚愕の表情で、黒澤は冷たい氷のような表情で、稔を見つめる。
「自分で入れられるでしょう。手首が外れたくらいで、大げさすぎですよ」
 稔は山元を見つめ、冷たい声で告げると
「で、どうします? 彼のように力に訴えますか? それとも、平和的に選択されますか?」
 教師達に向き直り、問い掛けた。

 稔の言葉に体育主任の山本が熊のような身体を揺すりながら、前に出てくると
「山本君止めたまえ…、彼は恐らくあれでも手加減している…。彼が本気なら、山元君は頭から床に落ちて、頸椎が折れていただろう…」
 黒澤が淡々と、体育主任に告げる。
 稔は黒澤を見つめると、ペコリと頭を下げ
「返事を聞くまでは、貴重なお仲間ですから…」
 ニコリと冷たい微笑みを浮かべ、黒澤の言葉を認めた。
 体育主任はジッと稔を睨み付けながら、無言で元の位置に戻って行った。

 校長室に沈黙が降りると、校長が沈黙を破るように、咳払いをする。
 校長の咳払いに、一同が視線を校長に向けると
「で、どうするんですか? 皆さん…。ここを去って、警察に捕まるのか? それともここに残って、教師として徹底的に生徒達を指導するのか? どちらを選ばれるんですか?」
 校長は教師達に、再び問い掛けた。
 教師達はザワザワとざわめき、相談を始める。

 そんな中、理科系主任教師の小室が質問をした。
「今、校長は徹底的と仰いましたが、それは、どう言った含みが有るんですか?」
 小室の質問に、稔はスッとテーブルに近付き、1枚の写真を選び出して一番上に乗せる。
 その写真は女性徒のスカートを捲り上げ、物差しでお尻を叩いている写真であった。
「この写真が、日常的な軽い罰に思える程度です…」
 稔が教師達にそう呟く。
 その言葉を聞いた、教師達は皆一様にどよめきを上げる。
「決まりです。私は校長達に従いますよ…」
 小室が、稔を見つめ薄く笑いながら、選択を終えると、他の教師も次々と選択を終えた。
 教師達は全員一致で、稔達の仲間に加わった。

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