夢魔
MIN:作

■ 第22章 教師7

 全教師の協力を得られる事に成り、稔は満足げに頷くと、口を開く。
「皆さんのご協力を得られ、感謝します…。ですが、このままでは、僕としては心許ない事が有ります…」
 稔がそこまで、話すと校長が口を挟む。
「柳井君…そこから先は、私が説明しよう…」
 校長が稔に向かって一つ頷くと、稔は黙って一歩下がり、校長に説明を任せた。
「今のままでは、君達は只の暴力教師に過ぎない…。だから、理屈や技術を学んで貰う。そう、合宿に入って貰う!」
 校長の言葉に、一様に教師達は不満を上げる。
 だが、校長はそれにめげる事無く、ニヤニヤ笑いながら
「良いのかな〜? そんな事を言っても…。まあ、知っている人間しか知らないんだがな…、港区のとあるビルにある、会員制の秘密クラブが、合宿場なんだがな〜」
 ウキウキした口調で、全員に告げた。

 その校長の言葉と、口調に4人の人間が反応する。
「ちょっと待って下さい、港区の会員制秘密クラブとは…まさか…いや、有り得ないでしょ…」
 黒澤がユックリと顔を上げ、驚きの表情を見せた。
「え? 黒澤先生…今のは、まさか昔話してくれた場所ですか? 噂じゃなかったんですか?」
 迫田が堪らず、黒澤に問い掛ける。
「ま、まさか…嘘でしょ…。お父様でも、入れなかった場所よ…」
 白井がポツリと呟くと
「ふ〜ん…都市伝説じゃ無かったんだ。年商10憶の白井興産の社長が門前払いされてたとはね…」
 白井の反応を見て、小室が呟いた。

 小室の言葉に、白井がキッと小室の顔を睨み付けるが、校長が話を続けた。
「そう、あの秘密クラブに、1週間の泊まり込み合宿だ! それも、経費は一切懸からない!」
 興奮する校長の態度は、多くの教師に伝わらなかったが、白井の言葉が教師達にその価値を教える。
「はぁ? 一晩20万30万のお金がかかる場所よ、そこに1週間? 大体、私のお父様でも、中に入れないのよ! 普通のお金持ち程度じゃ、どうにも成らない場所なのよ! そこに、一般人が12人も1週間って…有り得るわけ無いじゃない!」
 白井は清楚な仮面を脱ぎ捨て、本性を晒しながら捲し立てた。
 校長はそんな白井に、満面の笑みで
「彼が全て話を付けてくれた…女主人と彼は、懇意の仲らしい…、それに彼自体スペシャルVIPメンバーだそうだ」
 稔を指し示して、説明した。

 校長の言葉に、白井が稔を見つめ
「スペシャルVIPメンバー? この子が? 有り得ないでしょ!」
 声を荒げた瞬間、稔の視線が持ち上がり、白井良子の瞳を射抜く。
 稔の強烈な視線に射抜かれた白井は、次の言葉が出せずに、腰が砕けその場にへたり込む。
「あ、あなた…何者…?」
 頬を赤く染め、濡れた瞳に精一杯力を込めて、問い掛ける。
「只の、サディストです…。ここは、かなりいかれてますがね…」
 親指で自分の左胸を示しながら、唇の端を上げて囁いた。

 稔は黒澤に向き直ると
「黒澤先生…先生には今回の合宿は、必要有りません。先生の経験は群を抜いておられます。自制して頂くだけ…若しくは、アドバイザーのポジションにお入り頂きたいんですが…」
 静かに、依頼する。
 だが、その瞬間黒澤の雰囲気が変わった。
 そこに突然、野生の獣が現れたと思えるほど、黒澤の持つ雰囲気が変わったのだ。
「柳井君…と言ったね? 君は、どうして私の経歴を知って居るんだね…」
 言葉尻は丁寧だが、その雰囲気は千の刃のように、周りの者を緊張させる。

 周りの教師達は、その雰囲気に凍り付いて微動だに出来ない。
 だが稔はにこやかに微笑み
「僕には、その程度の情報を、手に入れる事の出来る友人が、居ると言う事ですよ…」
 黒澤に対して、一歩も引かず告げた。
 暫くの沈黙、ジッと見つめる黒澤の視線がフッと緩む。
「良いだろう…、従おう。君の素性は解らないが、今の私には関係ない。それに、随分面白く成りそうだしな」
 黒澤は身体の緊張を解き、稔に微笑んだ。
 稔は黒澤に、深々と頭を下げる。

 他の教師達は、このやり取りに驚きを隠せなかった。
 今まで、厳しい中年教師だと思っていた人物が、突如誰よりも強い迫力を見せ、それを只の学生と思っていた少年が、見事に受け止め納めたのだ。
 これに対して驚かない人間は、稔の本質を知る者しか居ない。
 校長を含む3人と、薄々稔の異常性を感じていた小室、それと、寸前に稔に感じさせられ腰が砕けてしまった、白井の5人だった。

 場が納まった事を見て取った校長が、口を開き始める。
「これでメンバーは決まった。黒澤君が残ってくれるなら、1週間の合宿も安心できる。今週はテスト期間に入るし授業の心配もそれ程無い」
 校長の言葉に、教師達が驚きを見せ、口々に言い始めた。
「え、今週…? そんな突然言われても…私にも予定が…」
「えらく、急な話ですね…」
 教師達は口々に、不平を漏らし難色を示す。
「何を言ってるんですか? 貴方達は全員独身じゃないですか? 私は、子供は居ないと言っても妻帯者ですよ…。それに、この話は明日の昼が出発ですから、皆さんは帰宅したら早々に準備して下さい」
 校長の説明に、教師達は更に不満を顕す。

 稔が教師達に向かって、説明を付け加えた。
「早急に先生達に技術を身に付けて頂かないと、この先の計画にも影響して行きます。それと、この合宿では、成績が付きますので、充分頑張って下さいね。この後の先生達の生活に大きく係わる成績です。手を抜いたり、努力を怠ると後悔する事になると思います」
 稔の説明に、とうとう女性体育教師がキレて、捲し立て始める。
「まったく、さっきから黙って聞いてりゃ、好きかって言いやがって! 一生徒のお前に何の権限が有んだよ!」
 バレー部顧問の体育教師、山基光子(やまもと みつこ)が、長身を乗り出して怒鳴った。
「ああ、言い忘れていたが、この学校における彼の発言は、理事長と同等だ…。私を始め、みんなの人事権まで握っている」
 校長がそう言うと、教頭と指導主任が頷き、12人の教師が稔を見つめる。
「そう言う事に成っています。お解り頂けましたか?」
 稔は教師達の視線を受け止めると、ペコリと頭を下げて微笑んだ。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊