夢魔
MIN:作

■ 第23章 絶頂6

 ジッと見詰める庵に気付き、沙希がかわいらしく首をかしげて
「庵様〜…。どうされたんですか?」
 不思議そうに問い掛けてくる。
 庵は首を振り、[何でもない]と短く答え、視線を外した。
 そんな、庵の態度に沙希は表情を曇らせ
「沙希…何か、お気に障る事をしたんでしょうか…。もしそうなら、お叱り下さい」
 庵の足下に、にじり寄り縋り付く。

 庵はそんな沙希を見下ろし
「俺の問題だ、お前には関係ない」
 心の中に浮かんでいた言葉とは、違う言葉を低く呟く様に、沙希に告げた。
 取り付く島もない庵の言葉に、沙希は肩を落とし項垂れる。
(俺は馬鹿だ…。また同じ事を繰り返そうとしている…)
 庵は項垂れる沙希に、椅子から降りてしゃがみ込み
「顔を上げろ。お前は悪くない…」
 手を差し伸べながら、優しげに、寂しげに静かに告げた。

 その声の変化に、沙希は驚き顔を上げると、直ぐ側に庵の顔が有る。
 そこに有った庵の顔には、言葉と同じ優しさと寂しさが浮かび、更に苦悩の陰を浮かべた、複雑な表情だった。
 その庵の表情に、沙希は息を飲む。
 深い苦悩とそれに苛まれる苦しみ、それと一人で向き合っている、男の顔がそこに有った。
(あぁ〜…。まただ…、またやっちゃった…。庵様の事、深く考えないで行動しちゃったんだ…)
 沙希は庵の表情から、庵の変化を知り、それが自分のせいだと落ち込み始める。

 庵は思い込みで、激しく落ち込む沙希の姿に、心の内を吐露する覚悟を決める。
「沙希…、お前は悪くない。悪いのは俺の方だ」
 沙希にそう言うと、庵は重い口を開き始めた。
「俺はお前の事を、気に入っている。ハッキリ言うと、好きだ…、だがそんな事の前に、俺は男として女を愛する事は出来ないと思って居る。虐待のトラウマもそうだが、一番の原因は俺の身体だ。お前も、テニスコートで見ただろ…」
 庵はそう言うと、沙希を見詰め沈黙する。
 庵の言う[テニスコートで見た物]とは、無惨に切り取られた、庵のチ○ポの事だ。

 沙希は庵に言われ、その光景を思い出す。
 黒々と密集する陰毛の中に有った、直径7p長さ5p程の肉の塊。
 尖端はピンク色の肉の表面が剥き出しで、その中央よりやや下に、穴がポツンと空いていた。
 沙希はその光景を思い出し、ゾクリと震える。
「そうだ…、誰でもそうなる。俺のチ○ポを見た女は、みんなそう言う顔をする」
 庵は諦めたように、沙希に向かって呟いた。
 庵にとっては、慣れた表情。
 今迄どれ程の女が、今の表情を浮かべ、様々な表情に変わったか。
 驚愕、憐憫、嫌悪、その表情は庵の心の殻を厚くして行く。

 沙希は庵の言葉に、首を振り
「違う…違うんです! これは、そんなのと違うんです」
 必死に庵に説明しようとするが、庵は既に心を閉ざし
「構わねぇよ…。俺は、慣れてる…」
 そう言って、沙希の横から立ち上がる。
 立ち上がった庵と、マットに寝ていた沙希の距離は、庵の一挙動で3m近く開いた。

 沙希はその距離を俯せのまま、ズリズリと這い進み、庵の足にしがみつく。
「庵様! ずるいです! 沙希の言葉、聞いて下さい! こんなのヤダ!」
 沙希は凄い力で、庵の足を抱え込み、必死に抗議する。
 庵は沙希を見下ろし
「お前には解らない。俺の、思いなんてな…」
 低く冷たく言い放つ。
 庵のその声は、全てを拒絶するような響きが込められていた。
 沙希はその声に、ガックリと項垂れ、庵の足を離す。

 庵が沙希から距離を取ると、沙希はおもむろに立ち上がり、流し台に向かった。
 庵はその唐突さに驚き後を追うと、沙希の手には流しに置いて有った、万能包丁が握られている。
 ガタガタと震えながら包丁を持つ沙希に、庵が近付き
「それで俺を刺すか? …それも良いだろう…俺は、それだけの事をお前にした…」
 沙希の前に手を広げ、その逞しい身体を晒した。
 沙希は泣きながら首を振ると
「庵様は、おちんちんが無くて、沙希をお側に置いてくれないなら…沙希のこの身体は、もう要りません」
 そう言って、包丁を逆手に持って乳房に突き当て
「オッパイが無くても、沙希は庵様が大好きです。沙希は女じゃなくても、庵様が大好きです」
 振りかぶって、包丁を自分の乳房に突き刺そうとした。

 庵のそれからの行動は、沙希の目には止まらなかった。
 気付いた時には、自分の右手がジンジンと痺れ、握っていたはずの包丁は、庵の左手に握られていた。
 刃の部分を握った庵の左掌から、血がドクドクと流れ床に溜まっている。
 沙希はその庵の手を見詰め、ワナワナと震え出すと、床に泣き崩れた。
 左手に持った包丁を庵は、流し台に放り投げ、沙希の前にしゃがみ込んだ。
 暫く見詰めていた庵が、右手を持ち上げると、トンと沙希の頭の上に置き、ガシガシと撫で
「馬鹿かお前は…。お前が乳房を落としても、俺と一緒には成らないんだぞ…」
 優しく低い声で囁く。

 沙希は涙でビショビショの顔を上げ
「だって…、庵様…、沙希の…、話し…、聞いて…、呉れないんだ…、もん…」
 子供のように泣きじゃくりながら、庵に伝える。
 庵はその泣き顔を見て、ズキリと心の奥が疼いた。
 庵は気付けば、沙希の頬を両手で持ち上げ、頬に伝う涙を舐め取っていた。
 沙希は無言で、恍惚の表情を浮かべ、されるままになっている。
 庵の血まみれの左手が、頬から首筋、首筋から胸元へ伸び、沙希のテニスウエアーを引きちぎって、乳房を揉み始める。
 庵の膂力を持ってすれば、薄いテニスウエアーの生地など、紙のような物だった。
 見る見るうちに、ただの布きれに変わる。

 庵自身も、自分のシャツをちぎり取り、肌を顕わにしてゆく。
 沙希も庵も身体を覆う物は、まとわりつく布きれだけになり、その裸身を晒す。
 沙希の右半身は、庵の左手が撫で回し、血まみれになっている。
 沙希は恍惚の表情を浮かべ、庵のされるままに全身の力を抜き、まるで骸のようだった
 その様は、大型の肉食獣に貪られる、美しい[餌]にしか見えない。
 恍惚の表情を浮かべ、自分の最も愛する、獣に臓腑を貪られる。
 沙希はそんな倒錯の中、身を委ねた。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊