夢魔
MIN:作

■ 第23章 絶頂8

 庵が薬箱を持ってくると、蓋を開け何やら色々取り出し始め、二の腕を縛り止血すると、おもむろに左掌に消毒薬を振りかける。
 庵は消毒した掌に、どう見ても瞬間接着剤にしか見えない物を、傷口に塗り始め自分自身で繕い物をするように、針と糸で縫い始めたのだ。
 ブスリ、ブスリと掌に針を刺しては、引っ張って糸の弛みを消してゆく。
 その作業を淡々と行い、糸を留めると余分な部分をハサミで切り取り、チューブの抗生物質を掌に塗り込んで、ガーゼを当ててテーピングでグルグルと巻き始める。
 テーピングを切ると、手を2・3度開け閉めして
「こんなモンだな…」
 呟いて薬箱を片付け始めた。

 庵の手際に、呆気に取られている沙希に、庵は薬箱を片付けて
「シャワーに入るぞ…。流石にこの手じゃ、身体が洗えんから、背中を流せ」
 庵が顎をしゃくりながら、指示する。
 沙希は弾かれたように立ち上がり、シャワールームに走ろうとするが
「ひぎぃ〜っ!」
 全身を襲う痛みに、悲鳴を上げる。
 転び掛けた沙希を、庵が抱き止め
「筋肉痛がもう来たか…流石に、回復が早いな…。良し、腕を回せ」
 沙希の手を首に回させ、スッと抱え上げる。

 沙希は庵のそんな行動に、自分が情け無くて仕方が無くなって来た。
(庵様…沙希…ご迷惑を掛けてばかり…。練習サボって、特訓して貰って、マッサージもして貰って、甘えさせて貰って、お泊まりグッズも買って貰って、怪我もさせちゃって、治療の手伝いも出来なくて、抱っこまでされて…。私…何してるの…。迷惑しか掛けて無いじゃない…)
 沙希は今日の一連の事を思い出し、深く落ち込み始めた。
 庵はそんな沙希に気が付いて
「沙希!」
 短く名前を呼び、顔を上げさせる。
 沙希はその声に驚いて、顔を持ち上げた瞬間、庵に唇を塞がれ
「落ち込むな、俺は嬉しいんだ…。お前は、俺の横で笑ってろ…俺はそれが一番嬉しい…」
 沙希の唇に言葉を送り込んで来た。

 沙希は泣いた。
 庵の首にしがみつき、唇を重ねながら何度も庵の名を呼び、泣き続けた。
 庵は沙希をシャワールームに運び、唇を重ねながら、優しく下ろし沙希の身体を抱き締める。
 沙希は庵を始めて知った。
 庵の優しさ、深さ、思いを全身で感じ、心から離れたくないと、強く思った。
 そして、その思いは佐山の呪縛を押しやる事になる。
 佐山の自室より遙かに心を癒す場所を、沙希は手に入れたのだ。
 そして、その思いはどんどん強くなり、沙希を覆い始める。
 事象を大きく揺り動かすバグを内に含み、沙希は自虐の弓を引き絞り始めた。

 シャワールームで、身体の汚れを落としながら、庵と沙希は絡み合っていた。
 沙希は庵の身体に、自分の身体を擦り付け、舌を這わせ恍惚に浸る。
 優しく撫でる庵の手が、筋肉痛にきしむ身体に心地よかった。
(庵様…愛しています…庵様…私のご主人様…沙希の…沙希の、ご主人様…)
 庵の逞しい身体に、沙希の手足が絡まり、舌が這う。
 恍惚とする沙希とは裏腹に、庵は戸惑っていた。
(な、何だ…この感じ…。小便か…? 違う…そんな感じじゃない…尻の穴がムズムズする…キンタマの裏が、ゾワゾワとくすぐったい…)
 自分の身体に起きた、全く未知の感覚に庵は真剣に、戸惑っていた。

 その感覚は、沙希の身体が徐々に下がり始め、下腹部に近付くと強くなって行く。
「ま、待て! 沙希…変だ! ちょっと、待て!」
 庵は沙希の動きを止めようと、身体を前に倒す。
 だが、庵の動きより速く、沙希の唇は庵の感覚の中心部に到着した。
 沙希は庵の切り取られた、チ○ポに唇を被せ、濃厚に舌で愛撫し始める。
 庵の身体が、ビクンと1つ震え、驚きの表情を浮かべた。
(何だ? この感じは…。今まで、こんな感じは無かったぞ…)
 庵はそのトラウマから、女性に身体を触れさせた事は殆ど無かった。
 タッチですら許さなかった庵は、沙希に愛情溢れる愛撫をされ、始めてここまで性感を刺激されたのだった。

 驚きの表情を浮かべる庵の事など、沙希は全く気付かず濃厚な愛撫を続ける。
 沙希はヤワヤワと両手で、庵の睾丸を愛撫しながら、切り取られピンク色の肌を晒しているチ○ポの残りに、念入りに舌を絡めていた。
 ゾワゾワと這い昇る甘い感覚と、切迫した尿意に似たものに、庵が狼狽え
「沙希、ちょっと待て!」
 再び沙希の行動を止めようと、声を掛ける。
 沙希はその声に、頬を窄め強く庵のチ○ポを吸いながら、舌でベロリと尿道口を舐め
「へっ?」
 言いながら、唇を外し顔を上げた。
 その沙希の顔に、庵のチ○ポから白濁の液が、飛び散った。

 短く切り取られた、庵のチ○ポから出たのは、紛れもない精液であった。
 だが、その発射は、庵も沙希も驚き以外の何物でもなかった。
 沙希は顔面に、スプレーを吹きかけられたように、精液が飛び散って顔全体を襲い。
 庵に関しても、それは初めての経験であった。
 庵はその幼児体験のため、精通がなかったのだ。
「な、何だ? なんだこれ!」
 庵の呆然とした質問に、沙希が顔に付いた物を舐め
「何だ、これはって…精子ですよ?」
 キョトンとした顔で、答える。

 だが、沙希は自分が言った言葉と、庵の反応を見て、その重要さを認識する。
「ま、まさか…ううん…、有り得る…。庵様…初めて…初めてだったんですね…」
 沙希がフルフルと震え呟くと、庵に問い掛ける。
 すると、庵は驚いた顔のまま、コクリと頷いた。
 庵の答えを見た沙希は、顔に掛かった精液を残らず両手で集め始め、全て舐め上げた後、髪の毛に掛かった物も、口に咥えて吸い始めた。
(嬉しい…勿体ない…嬉しい…勿体ない…嬉しい…)
 沙希の頭の中には、それだけの言葉しか浮かんでこず、固まった庵の頭の中では
(出た…出るんだ…。俺は、子供を作る能力が、無かった訳じゃ無いんだ…)
 自分のトラウマの1つが、解消していた。
 庵はガクガクと震え、膝を付いて沙希の身体を抱き締めると、天を仰いで吠え始めた。
 その声は、歓喜の声だった。
 呪縛の1つから抜け出す事の出来た、獣の咆吼だった。

■つづき

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