夢魔
MIN:作
■ 第23章 絶頂11
ホテルのスイートルームのリビングで、1人の男がジッと一点を見詰め、座っている。
窓から見える夜景は、その男の地元とは違う景色で、どこか都会めいていた。
男は友人達と食事をし、そのまま別れて自分の連れと、このホテルにチェックインしていた。
そして、激しいプレイの後、男は女を眠らせ、1人リビングに移動していた。
男の名前は、金田満夫(かねだ みつお)、連れの名前は、森川梓(もりかわ あずさ)だった。
金田は身動ぎもせず、ブランデーのグラスを見つめ考えていた。
稔の許可が有り、梓を自由に呼び出し使う事が許されて、早1ヶ月が経つ。
その間金田は、梓を呼び出し奉仕を受けてきた。
自分が今まで感じた事のない快感が、その奉仕には有った。
何度と無く究極と思った快感が、打ち破られその次の世界をかいま見せる。
梓が行う奉仕は、そんな至極の奉仕だった。
そんな中、金田の心には、ズッと引っ掛かっている物が有った。
それは確かにそこに有るが、自分にはどれだか解らない、そんな感じの、もどかしい物だった。
その感覚は、昔から持っていたが、借り物の奴隷・プロのマゾヒストが相手なのが、原因だと考えていた。
だが、それは違っていた。
梓の深い忠誠を見せられ、至極の奉仕を受けてもそれは消えない。
それどころか、少しずつ存在を主張するように成って居た。
(何なんだ…このモヤモヤする感じは…。俺は、梓を自由にする権利を得て、至上の快楽と最愛の女を手に入れた…なのに、この感じは何なんだ…!)
イライラと心が落ち着かない、ソワソワと尻の据わりが悪い。
どこか、自分が場違いな場所に迷い込み、見知らぬ者達にジロジロと見られている。
そんな違和感に、金田は晒され続けていた。
苛立ちを浮かべた金田は、目の前のグラスをグイッと煽り、ブランデーを飲み込む。
強いアルコールが、金田の喉を灼き、頭をぼやかせる。
だが、一向に金田の心の苛立ちは、消えようとしない。
強い苛立ちを感じながら、金田はグラスをテーブルに降ろす。
タンと音を立て、グラスを戻した金田は、人の気配を感じ、視線を向けた。
リビングの入り口の薄明かりに、白い物が揺れている。
それは音も無くスルスルと金田の足下に辿り着くと、床にわだかまり小さくまとまる。
「ご主人様…、申し訳御座いません。奴隷の身で失神して、ご主人様を放置してしまった無礼をお許し下さい…」
梓は金田の責めに、絶頂を何度も迎え、快楽の中失神してしまったのだ。
金田は梓を見下ろし、ニッコリと微笑むと
「良い、気にしないでくれ。俺は梓の美しい狂態が見られて、満足したんだ。それよりこっちに来て、少し付き合いなさい」
梓に手を差し出し、自分の横を勧める。
梓は顔を上げず
「そんな勿体ない…ご主人様の横に、奴隷の私など…。どうか、このまま床の上で、姿勢を正して座る事をお許し下さい」
恐る恐る金田に、懇願した。
金田は微笑みのまま
「そうか、梓がそこで良いなら、そこに居なさい。いや、俺の足の間に来なさい」
梓を手招きし、テーブルを押しやって、スペースを作る。
梓は正座のまま金田の足の間に、躙り寄ると顔を金田に向け、その妖艶な微笑みを向け
「ご主人様、奴隷の懇願をお聞き入れ頂き、有り難う御座います」
金田に感謝を示す。
金田は梓の顔を眩しそうに、正面から見つめ身体をまさぐる。
(何て、美しいんだ…。何ていやらしいんだ…。俺の宝…。貸し与えられているとは言え、この忠誠は本物。俺だけに向けられる、俺だけの忠誠…。夢のようだ…)
金田は苛立ちなど一辺に消え、満足そうに梓の乳房をヤワヤワと揉みし抱き、乳首を弄ぶ。
「ふぉぁ〜〜っ…、あん、あはぁ〜〜〜っ…ご主人様〜…。また、ぶり返して…、イッてしまいそうです〜…」
梓は頬を赤く染め、瞳を快感に蕩かせながら、快感に身を揺らす。
金田は空いた方の手で、グラスを掴むと一口煽り、梓に口吻しブランデーを流し込む。
梓は舌を絡めながら、金田の口移しでブランデーを飲み、強いアルコールで喉を灼かれ、ケホケホと咳き込んだ。
「梓は強い酒は、苦手だったな…。良し、薄めてやるから、用意しなさい」
金田は涙を目の箸に湛える梓に、優しく言いつけると、梓を解放する。
「はい、ご主人様…。申し訳御座いませんでした…。次からは、ちゃんと飲めるように致します…」
梓は深々と頭を下げ、金田に謝罪しイソイソと水割りのセットを用意する。
梓が水割りのセットを作る間、金田は梓が奉仕しやすいように、テーブルを移動させ、スペースを作ってやった。
梓が水割りセットを作って、持ってくると様変わりしたリビングを見て
「ご主人様…、また私の仕事をお取りになって…。これでは、奴隷の仕事が無く成ります…」
困ったような顔で、金田に言った。
「そう言うな、俺は梓とこうして差し向かいで飲めるのが、嬉しいんだ…。少しでも、多く時間を過ごしたいんだ、これぐらいは俺がする」
金田は優しく笑いながら、梓を宥める。
「有り難う御座います。そう言って頂けると、嬉しくなってしまいますわ…」
梓は頬を染め、ニッコリ微笑んで、優雅に金田の足下に正座し、水割りセットをテーブルに置いて、水割りを作り始める。
水割りを作り終えた梓が恭しく、金田にグラスを差し出すと、金田は満足そうに受け取り、一口煽る。
「うん、旨い。梓が作る水割りは、格別だな」
微笑んで、梓を褒めた。
「もう、嫌ですわご主人様…。おからかいに成らないで下さい…。照れてしまいますわ…」
梓は頬に手を添え、身体をくねらせ恥ずかしがった。
そんな、梓の仕草に金田は眼を細め、一口煽ると梓に口移しで飲ませる。
梓は金田の口吻に応え、水割りをごくごくと飲み干し、ホウと溜息を吐く。
「ご主人様から頂く水割りは、最高に美味しゅう御座います…」
頬に手を添え、シナを作りながら、濡れた瞳を向け金田に告げた。
そして、2人は談笑をしながら、暫く杯を進める。
そんな中、梓は金田の足にしなだれかかり、撫でさすりながら金田に質問をした。
「ご主人様…、先程も何かお考え中だったようですが…。何かご主人様を煩わせるような事…御座いました…?」
梓は小声で、静かに問い掛ける。
梓の質問に、金田は項垂れ
「解らないんだ…」
ボソリと呟いた。
その言葉の続きを、梓は沈黙しながら待つが、一向に口を開こうとしない金田に
「何がで御座いますか?」
促すような質問を、繰り返した。
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