夢魔
MIN:作
■ 第23章 絶頂12
金田は、自分の中の苛立ちを、ボソボソと梓に話し始める。
梓は黙って、金田の話を聞き入っていた。
だが、梓の中には、この金田の苛立ちに対する答えが、既に用意されていた。
梓だけでは無い、稔も庵も初見のレストランで気付き、梓の中にその答えを用意していたのだ。
梓は俯きながら、金田の話を聞き、自分の発言の機会をジッと待つ。
金田はブツブツと苛立ちを、告白し終えると、梓が俯いている事に気付き
「い、いや。これは、俺の中の事だから、梓が気に病む事はない。梓は俺に最高の奉仕を行い、最高の快楽を与えてくれている。これは、あくまで俺の問題なんだ…」
梓に慌てて話し掛ける。
「ご主人様…少し、私の事をお話ししても、宜しいでしょうか…」
梓はポツリと、金田に告げた。
金田は梓の言葉に、妙な雰囲気を感じ、曖昧に返事をしながら、巻き戻しのように梓から離れた。
「私は稔様より、私の本質と言うのを、お聞きしております。稔様が仰るには、私の本質は[奉仕]だそうで御座います」
梓はそう言うと、顔を持ち上げ金田の顔を、正面から見つめる。
金田は梓の表情から、決意のような物を感じ、無意識に姿勢を正した。
「私はその性質上、奉仕を好み、人に仕える事で、心の充足を行っております。その為には、私の身体は道具で有り、技術は手段、行為は表現で嗜好では有りません。言ってみればサディストに従い奉仕するために、身体を使いマゾヒストの技術や行為を行っているのです」
梓は自分の本質を金田に告白した。
金田はその告白を聞き、驚きを隠せない。
「ど、どう言う事だ? それでは、あんな風に感じていたのは、嘘なのか…?」
金田が問い掛けると、梓は静かに首を振り
「いいえ、あの反応も全て、本物です。但し、あれをされる事が、好きなのでは無く、それを望まれる方にそうされるのが、好きなのです。ご主人様が痴態を晒す梓を望まれ、その望みを梓が示す事で、梓は感じるんです…」
金田は喉がカラカラに成りながら、頭を捻った。
だが、金田が頭を捻ったのは、あくまでポーズだった。
金田の頭の中には、梓が何を言わんとしているか、ハッキリと解っていた。
(梓は…解っているのか…。俺の苛立ちの原因を…。そして、梓の口振りは、持っていると言っている…俺の苛立ちに対する答えを…)
金田は唾を飲み込み、掠れた声で問い掛ける。
「あ、梓は…知っているのか…俺の苛立ちの原因を…」
ボソリとした、金田の言葉に梓は大きく頷き
「恐らく、それは稔様の手によって、梓の中に用意されています…」
金田に静かに語った。
金田は稔の名前を出され、ドキリと胸を高鳴らせ、縋り付くような思いで梓に聞いた。
「それは…何だ…。どう言う物なんだ…」
金田の問いに、梓はジッと金田の目を見つめ
「私がどんな物を示しても、梓の服従は絶対で御座います…。ご主人様…それをお忘れ無く…」
深々と頭を下げ、平伏する。
金田は梓の言葉と、行動に頷きながら
「有るなら、示してくれ。俺の苛立ちの答えを、教えて呉れ!」
縋り付くように、梓に言った。
梓は平伏したまま
「それでは、準備して参ります。ご主人様…」
金田に告げて、スッと立ち上がり寝室に消えた。
金田は梓の後ろ姿を見送り、開けてはいけない扉を、開けた気持ちに成っていた。
数分後、梓が寝室から戻って来て、リビングの入り口に佇む。
その姿は、先程と同じ全裸であったが、髪を後ろで束ね、赤いピンヒールを履き、右手には先程まで金田が使っていた騎乗鞭を持ち、左手にはチェーンのリードに黒い首輪がぶら下がっていた。
俯いたまま、梓はツカツカと金田が座る、ソファーの3m程前まで進み、おもむろに顔を持ち上げる。
その、梓の顔を見た瞬間、金田の頭は痺れ上がった。
冷たい怜悧な美貌からは、貫くような視線が金田を縛り上げる。
金田の身体は、ガクガクと小刻みに震え、ソファーの上からずり落ちた。
「満夫…おいで…」
梓の声が、歌うような響きで金田の耳朶を打つ。
金田にはその後の自分の行動を、止める事が出来なかった。
金田の身体は、ぎこちなく梓の足下に這い進み、平伏する。
平伏した金田の目の前に、ジャラリと音を立て、リード付きの首輪が落ちてきた。
金田がそれを恐る恐る掴むと
「お嵌め…」
梓の声が上から降り注いでくる。
その声は、何人も抗う事の出来ぬ威圧が含まれていた。
少なくとも、金田には到底抗いきれなかった。
金田は、梓の指示のままに、イソイソと首輪を喉が締まる程、きつく嵌めた。
そして、いつも梓が示しているように、リードの端を梓に差し出した。
梓はそのリードの端を受け取ると、右足を上げ金田の背中に足を乗せ、体重を掛けリードを引き絞る。
「満夫…自分の身体が、どう成ってるか…解る?」
梓の声が金田の背中に降り注ぐ。
金田は梓に言われる前に、自分の身に何が起きたのか、理解していた。
金田のチ○ポは、今日3度の射精を行っているのにも拘わらず、痛い程ギンギンに勃起していた。
「ご主人様は…サイドを、お間違えだったのです…。ご主人様の本質は、こちら側だったのです…」
梓は金田の背中から、足を降ろし、リードを緩めて、そっと囁いた。
金田は弾かれたように顔を上げ、梓を見つめる。
「あ、ああぁ〜…。そうなのか…、そうだったのか…。これが、これが原因だったのか…」
金田は梓を見つめながら、滂沱の涙を流し梓に呟いた。
梓は金田の前にしゃがみ込んで、その頭をソッと抱え込み
「はい…、ご主人様は、ボタンを掛け違えられていたんです…。梓はこれからも、お仕えします…服従の心を持って、ご主人様の願望を叶えさせて頂きます…。どうか、梓をお使い下さい…」
金田に静かに熱く告げた。
金田は子供のように、梓に縋り付き泣いている。
迷子がやっと、自分の安寧の地を見つけたかのように、大声で泣いた。
最愛の奴隷は、最愛の支配者に変わる。
自分の奥底に潜ませた、被虐願望を優しく抱き締め、慈しみながら満足させる。
金田にとって最高の女王様に、梓はその姿を変えたのだった。
■つづき
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