夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験1

 稔が13人の教師を送って、都内から引き上げてくると、ロングホームルームが始まる時間になっていた。
 移動中の車の中も、車内に発生させている、強力な電波のせいで、携帯電話が使えなかったため、稔には庵が沙希の特訓を始めた事が知らされていない。
 必然的に稔の頭の中は、庵の首を縦に振らせる案を模索する事で、いっぱいに成っていた。
(どう考えても、あの頑固者が、首を縦に振るとは思えません…何とか成りませんかね、折角狂が新プログラムを作ったのも、無駄になってしまいます)
 稔が溜息を吐きながら、階段を上がっていると、狂がチョロチョロと走り去るのが見えた。
(ん? 今のは…、狂ですね…。こんな時間に、走り回ってるのは…。また悪巧みですかね…)
 稔はまた溜息を吐き、向きを変えて狂の消えた方向に進み始める。

 稔がPC教室の扉を開けると、狂がビクリと震え、振り返る。
「んだよ! 脅かすなよ…。本気でビックリしたぜ」
 狂が稔に悪態を吐いて、またゴソゴソと何かをしていた。
「何をして居るんですか? こんな所で…」
 稔が狂に問い掛けると
「ん、ああ、庵が忙しくなったからよ、俺がこうやって、ここの細工をしてるんだ…。プログラムを作ったのは良いが、モニター器材と音響装置がネックに成ってよ…。あの音、普通のスピーカーじゃ、出せないだろ…」
 狂は何かのラインを繋げながら、稔に答えた。
「何を言ってるんです? 庵が忙しくなったって…何の事ですか?」
 稔が問い掛けると
「はぁ? 庵お前に連絡しなかったのか…。沙希の特訓をするから、7日間時間をくれって俺に連絡してきたんだ。驚くなよ、代償は設計図だぜ」
 狂はニヤリと笑って、稔に答えた。

 稔は狂の言葉を聞いて、眉を顰め
「それは、庵が設計図を書くと取って良いんですか?」
 狂に問い返すと、狂はニヤリと笑ったまま
「そう言う事だ。明後日の昼には出来てるから、家に取りに来いって言ってたぜ」
 稔の質問に、補足した。
 稔の顔から表情が消え
「驚きました、まさか庵が承諾するとは…余程の事が有ったんですね…。まあ、僕達には都合は良かったんですが…。所で、狂は何をして居るんです?」
 ブツブツと呟くと、狂に質問をする。

 狂は作業の手を止め、ウンザリした様子で
「だ・か・ら、俺がセンサーの配線を作ってるの!」
 稔に答えると、稔は狂に
「え? 無線のセンサーは使わないんですか?」
 驚きながら問い掛ける。
「お前馬鹿か…1人なら良いがこの部屋、何人入ると思ってる…50人入る部屋だぞ! 無線で50チャンネル使える訳無いだろ! 指向性のモニターセンサーは単体用! 集団で使うなら有線で繋がないと、混線するに決まってるだろ!」
 狂が捲し立てると、稔は[ああぁ〜]と解ったか解っていないか判断できない返事をし
「それで、こんな事をして居るんですね…」
 狂の神経を逆撫でした。

 狂は顔を真っ赤にして
「もう良い…、お前は庵に連絡して…音響装置の事を聞け…」
 低い怒りを抑えた声で、稔に呟いた。
 稔は首を捻りながら
(何を怒って居るんですかね…狂は本当に気難しい…)
 狂の指示に従い、庵に電話を始める。
 コールしても庵は中々電話に出なかった。
 十何度目かのコールで、回線が繋がり庵が電話口に出る。
「あ、もしもし…庵ですか?」
 稔が軽い口調で、電話に話し掛けると、庵は低く響く声で
『稔さん…緊急事態ですか…』
 ボソリと稔に問い掛ける。

 稔はその庵の声に、怒りが含まれているのを感じ
「ええ、どうしても音響発生装置が、多人数に使えなくて困っています」
 狂が言った単語を頭の中で並べ、デタラメを言った。
『それなら、準備しています。狂さんに、職員倉庫のH−82のボックスから、半球形のパネルを図面通り並べるように言って下さい、出力が足りなくなるから、ボックスは3つ直列で繋いで、シンクロさせる補填プログラムを組むよう言ってて下さい。俺、忙しいんで切ります』
 庵は言う事だけ言って、携帯を切った。
 稔はジッと携帯を見つめて、首を傾げ
「庵も何か怒ってましたが、何か有ったんですか?」
 狂に問い掛けた。

 狂は稔の携帯電話の会話を聞きながら
(こいつ、本当に良く口から出任せで、確信突けるな…まったく、本当は全部解ってるんじゃないか、勘ぐりたくなるぜ…)
 ウンザリとしていた。
「で、庵は何て言ってたんだ…」
 狂は稔にぶっきらぼうに問い掛けると、稔は庵の言った事を一語一句違える事無く、狂に伝える。
「流石イオちゃん! 解ってる奴は、解ってるねぇ〜!」
 狂は途端に上機嫌に成り、PC教室を飛び出そうとした。

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