夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験2

 教室を出掛かった狂が、ピタリと動きを止め
「おい! センサーの事何で聞かなかった…」
 稔を睨みながら、狂が聞くと
「いえ、それは狂が準備して居るんでしょ?」
 稔が平然と聞き返す。
(こいつは…やっぱり庵の凄さを、解っちゃいねぇ…。俺の作るモンと、庵の作るモンをごっちゃに考えてる…。まったくよ〜、職人と小学生ぐらい違うんだぜ…。俺と庵の差はよ…)
 狂はガックリと肩を落とし、教室を出て行った。

 狂は庵の説明書通りに、PC教室の壁面に、半球形のパネルを設置し、音波測定器を50個部屋に配置する。
 全てのセッティングを終え、PC教室から旧生徒会室に移動した狂は、音波を発生させた。
 可聴領域を越えた音波がPC教室を満たし、音波測定器の数値が狂の目の前のモニターに、状況を送り始める。
 狂はカタカタとキーボードを叩き、プログラムを修正して行く。
 様々な音階、音域、音圧を簡単な操作で、変えるプログラムを組み上げ、操作の補填プログラムも組み上げる。
 その操作方法、モニターの表示、補填の癖は全て稔に合わせられて行く。
 何をどう言おうが、この音響装置を駆使し、ソフトを操作して、脳波を調整するのが一番上手いのは、稔だからだ。
 狂はプログラムを組みながら、終始仏頂面でキーボードを叩き、最後のエンターキーを押した。

 狂がエンターキーを押すと同時に、狂の肩越しに稔が話し掛ける。
「終わりましたか? 随分掛かりましたね…」
 稔の言葉に、流石に頭に来た狂が振り返ると
「お客様が、随分お待ちでしたよ…」
 稔の声が、続けて狂に発せられた。
 稔の言葉が終わると同時に、狂の目に有り得ないものが飛び込んで来る。
「絵美! な、何でここに居る!」
 稔の横に、チョコンと立ちながら、コーヒーを啜る絵美が居た。
「えへへっ…柳井さんに、入れて貰っちゃった…。ご主人様、格好良かったですよ」
 絵美が笑いながら、狂を褒めた。

 狂は目を剥いて
「んなこたぁどうでも良い! どうして、お前がここに居るか、聞いてるんだ!」
 絵美を怒鳴りつける。
 絵美はビクリと震えて、シュンと小さく成ると
「狂止めなさい…、このプログラムを完成できたのは、西川さんの協力が有ったからじゃないか。言わば西川さんも関係者だし、彼女も僕達がしようとしている事は、純から聞いていましたよ。知らなかったんですか?」
 稔が絵美を庇い、狂に説明する。
 狂は愕然とした表情を浮かべ、ガックリと肩を落とす。
「けっ、俺だけ隠してたのかよ…やってらんねぇ…」
 ボソリと呟いて、ふて腐れ始めた。

 そんな狂に絵美が取り付き
「ご主人様ご免なさい…。でも、絵美、ご主人様のお役に立ちたくて…ズッと考えてたんです…。恩返ししたいんです…」
 涙を浮かべながら、狂に告げた。
 狂は泣き縋る絵美に、仏頂面を困惑に変え優しい表情になると
「わぁったよ…んじゃ、手伝わしてやる…、ヘマするんじゃないぞ…。色のコントロールは、お前が担当しろ…」
 絵美の頭を優しく撫で、指示した。
(この子は、凄い子ですね…。完全に狂の心を取り込んでいます…。あんな素直な狂は、始めてみました)
 稔はジッと2人のやり取りを見つめ、2人を分析する。
「こら! だから、こいつをお前に見せるの嫌だったんだ! 分析すんじゃねぇ!」
 狂は稔に照れながら、怒って絵美を抱き締めた。

 眼鏡をツッと右手の中指で持ち上げ、尚も見つめる稔に
「どうでも良いけどよ、機械だけじゃどうにもならねぇ! 何か、良い獲物探して来い! それが、出来ねぇなら、センサー撤収して来い!」
 狂は捲し立てるように、稔を部屋から追い出した。
「はいはい、行ってきます」
 稔は狂に言われるまま、旧生徒会室を後にする。
 旧生徒会室で、絵美と二人っきりに成った狂は、絵美を身体から離し
「良いか、あいつと二人っきりに成るんじゃねぇぞ! 眼鏡を取った、稔の顔を5秒以上見つめるんじゃねぇぞ! それと、必要以上にくっつくんじゃねぇぞ!」
 絵美に真剣な顔で注意した。

 絵美は狂の顔を見つめ、クスリと笑い
「は〜い、解りました。ご主人様」
 狂に抱きついた。
 嫉妬深く心配性の狂は、絵美が稔に奪われるのでは無いかと、冷や冷やしていた。
 絵美は狂のその内面の感情を理解し、それを払拭するように、必要以上に甘えて見せる。
 狂は絵美が感情を見抜く力が有る事の意味を、そこまで深く理解していなかった。
 狂の心が平穏に成っているのは、全て絵美が感情を読み取り、狂に合わせて行動しているからだった。
 絵美は言ってみれば、究極の奉仕者である。
 絵美は主人の望む事を、瞬時に理解し[服従と従属]を表現しているのだった。

 狂はモニターを見つめ、校内をチェックしていると、ニヤリと笑う。
 携帯電話を取り出し、狂は稔に電話を掛ける。
「稔〜…良いモンめっけ…。こいつ、使って見ねぇか…、英語の霜月だ…。俺、こいつに英語のヒヤリングソフトの調整頼まれてんだ…。自然にPC教室に誘えるし、7日後庵達と試合する見てぇなんだ…。そん時に、庵に例の奴させたら反応見れるんじゃねぇか?」
 稔はPC教室でセンサーを片付けながら
『良いですね、検体としては彼女は確か、服従系に入って居ますが、被虐も強かった筈です…。庵に任せてみますか…、調整してみますね…』
 稔が狂の意見を快諾する。

 モニターには、シャワールームから出て、私服に着替えた霜月春菜が、廊下を職員室に向かっていた。
 狂は薄笑いを浮かべ、椅子から立ち上がり
「暫く待ってろ、稔が来ても近寄るんじゃねぇぞ」
 絵美に硬く注意して、旧生徒会室を出て行った。
 絵美はクスクス笑って、狂の背中を見送った。

■つづき

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