夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験3

 狂は職員室の扉を開け、中をグルリと見渡す。
 狂の顔を見て、一番奥に座っていた教頭が、ギクリとした表情を浮かべ、そそくさと視線を外した。
 狂はそんな教頭は無視して、目的の人物を捜すと、職員室の奥にある備品庫から、春菜が出て来た。
 狂はトテトテと小走りで春菜に近付くと
「先生…あ、あの〜…頼まれてた…ソフトの調整、有る程度出来たんですけど…。最終調整したいんで、見て貰えませんか?」
 オドオドとした仕草を粧いながら、後ろから春菜に告げる。

 狂の声に気付き、驚きの表情を浮かべ
「あら、もう出来たの? 工藤君凄いわね…。ええ、頼んだのは、私だから、何でもお手伝いするわ」
 振り返りながら、春菜はニッコリ微笑んで、狂に答えた。
「じゃぁ、PC教室に居ますから、先生の都合が付いたら、来て下さい…」
 狂はペコリと頭を下げて、春菜の前から逃げるように走って行った。

 春菜は走り去る、狂の後ろ姿を見て
「うふふっ、可愛い子…あんなに緊張しちゃって…」
 ニッコリ微笑みながら、見送った。
 春菜は、その仕草、その表情、全ての物が罠である事に、まったく気付いては居なかった。
 狂は純の仮面の下で、ほくそ笑みながら、PC教室に向かって急いだ。

 PC教室に入ると、稔がまだ音響センサーと格闘していた。
「おい稔! 何してんだよ! 早く片付けて上に行けよ!」
 狂が稔に怒鳴ると
「い、いや…待って下さい…。そう言っても、これが絡まってしまって…」
 稔は不器用に、コードを絡めながら、センサーを取りこぼす。
 狂は顔を押さえて呆れると、大元のラインを引き抜き
「そっちの一群を持て、俺はこっちを持つから…」
 指示を飛ばして、まとめてセンサーを移動させる。

 何とかセンサーを片付け終わると、狂はサッサと稔を追い出し、準備を始めた。
 キーボードを叩き、ヒヤリングソフトを立ち上げ、音響誘導ソフトを立ち上げる。
「準備良し…。さってと、後はモルモットの到着を待つばかりだ…」
 狂が呟くと、教室の扉が開き、春菜が現れた。
「工藤君ご免なさいね…。待たせちゃったわね」
 春菜がニッコリ微笑んで、狂に手を振った。
「い、いえ…大丈夫です…」
 狂はオドオドと、視線を外し俯いて小さく成る。

 それは、春菜の格好が、狂にこういう反応を、取らせようとしていたからだった。
 春菜はフリルの付いた白いブラウスを、第2ボタンまで外し、胸の谷間を強調していた。
 先程まで素足だった足には、白いストッキングが履かれ、膝丈だった黒のタイトスカートは、10pも上がっていた。
(うふふ…動揺してる…。本当に可愛いわ…この子…)
 春菜は頬を赤く染めながら、狂の反応を楽しんでいた。
 春菜は狂を人畜無害と判断し、自分の身体を見せ付け、興奮していたのだ。

 狂は春菜の希望通りの反応を見せながら
(おいおい、こいつは露出の気も有るのかよ…まあ、お望み通りの世界に引き込んでやるよ…)
 クスクスと心の中でほくそ笑む。
「え、え〜っと…これが、そうなんですが…」
 狂が白々しく、1台のPCを指差すと、春菜は狂にくっつき、グイッと胸を見せ付ける。
 狂がドギマギした表情を浮かべてやると、春菜はクスクスと笑い
「これがそうなの…へぇ〜…。で、具体的にどんな風になったの?」
 狂の顔を正面から覗き込もうとする。

 狂はその時、春菜のあからさまな態度に、苛立ちを覚え
「先生が言っていたとおりに、調整してみました。これを付けて、試して下さい」
 幾分ぶっきらぼうに告げて、ヘッドマイクを差し出した。
 春菜は狂の態度が変わったのを、敏感に察知し
「う、うん。解ったわ…有り難う、試してみるね…」
 スッと身体を離して、椅子に座りヘッドマイクを取り付けた。

 春菜は暫くマウスを操作し、ソフトを使いながら、キーボードを打ち英語で話し掛ける。
 そのソフトの快適性は、目を見張る物が有り、春菜は夢中で操作した。
(凄い、凄いわ…格段に使い易いし、この英語の表現は、ネイティブじゃないと出て来ない…。流石に帰国子女ね…)
 春菜は感心しながら、ソフトにのめり込む。
 いつの間にか、狂が教室から出て行っている事にも気付かず、熱中して延々と操作する。

 狂がPC教室を出ると、稔はソフトを操作する。
 稔は脇目もふらず、只ひたすらモニターを見つめ、冷たい汗を流していた。
(この子は…狂に負けず劣らずですね…。凄い独占欲です…)
 稔の横で、ジッとモニターを見つめる絵美は、凄い形相をしていた。
(この女…教師のくせして、ご主人様に何て事を…許さない…許さないんだから!)
 絵美は無言で火の出るような視線を、モニターに向けている。

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