夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験4

 稔がソフトを起動すると、PC教室に可聴領域を越えた音波が拡がる。
 春菜はモニターを見つめながら、クラリとした目眩を感じるが、狂の作ったソフトに夢中で、それを無視する。
 稔の目の前のモニターに、春菜の脳波が3Dで現され、その波形を稔がジッと見つめながら、マウスを動かしキーボードを叩く。
 絵美は稔の真剣な顔を、ジッと横から見詰めながら
(へ〜…柳井さんって、結構綺麗な顔してるんだ〜…。それで、ご主人様近付くなって言ってたのね…でも、この人凄く変…まるで水墨画みたい…濃淡だけで、後はたまに薄い色が走るだけ…。ちょっと、おっかないかも…)
 絵美は稔の事を分析していた。

 稔が[ふぅ〜]と息を吐いて、身体を起こすと、モニターの中の春菜はボンヤリと、パソコンを見つめ身体の力がダラリと抜けていた。
 そんな稔に、絵美が問い掛ける。
「ねえ、柳井さん…私はどう言う事をすれば良いの?」
 絵美の質問に、稔は暫く考えマウスを操作し、プログラムを探す。
「あ、有りました…きっとこれですね。そちらのパソコンで、これと、これを立ち上げて下さい。そう、それです…それで、No.1と言うボタンをクリックすると、私が見ているモニターが出ます。…そう、それです。後は、そちらのソフトを操作して、カラーをコントロールして、こちらのサンプルの配色に、3Dが近付くように、誘導して下さい」
 稔は、絵美にコントロールの方法を教え、絵美はソフトを触り始める。

 絵美は言われたとおりに、ソフトを操作しディスプレイにサンプルイメージを作って、春菜のパソコンに投射してみる。
 するとモニターに映った、春菜の前のディスプレイに、一瞬その映像が過ぎり、モニターに映った3Dの脳波が色を変える。
「おほ! 面白いこれ…。へーこうやって、あの人の頭の中を弄ってるんですね…。へへへ、じゃぁ、こんなのどうかな…」
 絵美が様々な色を使い、次々に色の群体を春菜に送り込む。
 絵美が送り込んだ色の群体が、モニターを横切ると、脳波の3Dウインドウが真っ赤に変わって、警告を鳴らし始める。
「え! や、何…」
 絵美が驚くと、稔が素早くソフトを操作し、警告を止めた。
「西川さん、急激な操作は駄目です。下に有るパルスの幅を超えると、今のように警報が鳴って、検体は安定する迄、操作出来なく成ります。気をつけて下さい…」
 稔が落ち着いた声で、呆れながら絵美に告げる。
(まったく…遊び気分でされては、困るんですがね…。まさか狂が、この子にコントロールを手伝わせるとは、思いませんでした…)
 稔は表情を変えず落胆したが、絵美はその変化を見逃さなかった。

 絵美はシュンとしながらも
(あ〜ぁ…ご主人様の信頼…裏切ちゃったかな…。でも、何か解ってきたしリトライよ!)
 直ぐに気を取り直して、操作を再開した。
 操作を再開した絵美は、パルスの限界ギリギリの所で安定させ、直ぐに次の極値まで誘導し、またそこで安定させる。
 見る見る3Dの映像は、安定した状態でサンプルに近づいた。
 稔はその速度に、驚きを隠せずにいる。
(ちょ、ちょっと待って下さい。早い! 早過ぎる…でも、検体はギリギリの所で、平穏を保ち次のステップに移行しています…。何なんですか…やはり、色覚はこれ程の情報操作を、可能にするんですね…)
 稔が驚きながら、その結果に見入っていると、事態はとんでも無い方向に向かっていった。

 大脳皮質からα波が出され、前頭葉からγ波、視床下部から大量にΔ波が出ている。
 これは身体は極度にリラックスし、思考は夢を見ながら、感覚器官は陶酔状態に陥っていた。
 解りやすく言うと、フワフワと身体が浮くような心地の中、極上の夢を見ながら、感じまくっているので有る。
 モニターを見ている春菜は、フラフラと身体を揺らせながら、ビクビクと痙攣を起こしていた。
 稔が慌てて音響を操作すると、α波が増大し身体をモソモソと動かし、インターネットに繋ぎ始める。
 春菜はインターネットに繋ぐと、SMサイトを渡り歩き、どんどん知識を記憶して行く。
 稔は大きく息を吐き、これまでで最速の時間で、覚醒レベルまで持って来た、絵美を見つめた。

 だが、絵美はまだ操作を止めていなかった。
 稔が慌てて、その操作を止めようとしたが、絵美は一足早くクリックしていた。
「へっ?」
 絵美が慌てる稔に、不思議そうに問い掛けると、絵美の送った色の群体が画面を過ぎり、脳波は変わった。
 モニターに映る春菜は、インターネットを見ながら、増大する快感にオナニーを始めた。
 脚を大きく拡げ、ブラウスを捲り上げ、股間を嬲り、乳房を揉みしだく。
 春菜は、トロトロに蕩けた視線をSM画像に向け、激しく身体を揺らせながら、何度も絶頂を迎える。
 そこには、厳しいテニス部顧問の姿も、知的な英語教師の姿も無かった。
 そこに有るのは、被虐欲を貪る事に夢中に成っている、一匹の牝が快楽に狂っていた。

 廊下から窓越しに、状況を監視していた狂が、慌てて階段を上り、旧生徒会室に現れる。
「稔、てめぇ! 何考えてる。どう考えてもやり過ぎだろ!」
 狂が入って来るなり、捲し立てると、稔は無言で絵美を指差していた。
 狂が稔の態度を訝しむと、絵美は小さく成りながら
「すいません…私のせいです…。エッチな先生を、懲らしめようと思ったら…。こんな事に…ごめんなさい…」
 狂に謝罪した。
 その言葉を聞き、狂はガックリと肩を落とし、稔は驚いた。
(確信犯だったんですね…と言う事は、この子は、狙ってあそこまで出来ると言う事ですか…。う〜ん…この装置、奥が深いですね…)
 稔は腕組みをし、振り返りながら新しいシステムに、考えを巡らせ始める。

 狂は絵美の事をジッと見つめて
「解っててやったなら、俺は赦さねぇ…お前は、暫く俺の前に顔を出すな…。勿論、純の前にもだ。そもそも、お前がのこのこ出てこなけりゃ、こんな事には成らなかったんだ! お前は当分、自宅で謹慎しろ! オナニーも駄目だ!」
 狂は絵美を叱りつける。
 絵美はウルウルと目に涙を溜め
「ご主人様〜…お許し下さい…。ご主人様にも純君にも会えないなんて、辛すぎます〜…どんな事でも、致しますから…それだけは、許して下さい…」
 狂の足下に縋り付いた。
 狂が足を振り解こうとした時、稔が声を掛ける。
「いや、今回の事は、狂が悪いでしょ。西川さんはソフトを使った事もないのに、狂が任せましたよね? それで、一方的に西川さんを責めるのは、それは、筋違いじゃありませんか? それに、今は責任の所在より、この後のフォローを考えないと、いけないと僕は思うんですが…」
 稔はモニターを背中越しに指差し、未だオナニーを続ける、英語教師を2人に示した。

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