夢魔
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■ 第24章 実験6

 藤治の家から10q程離れた学校に、8分足らずで着いた弥生は、せり上がってくる嘔吐感と戦いながら、礼を告げ校内に入る。
 教員用の出入り口から中に入って、直ぐに3階の旧生徒会室に向かう。
 扉をノックすると、サッと扉が開いて稔の顔が現れ、中に促す。
 弥生は命じられるままに、旧生徒会室に足を踏み入れた。
(な、何ここ…こんな事に成っていたの…)
 見渡す限りの器材に、初めて足を踏み入れた弥生が、驚きを隠せないで居た。
 そんな、弥生を無視して、稔が淡々と状況を説明する。

 説明を聞いていた弥生は、コクリと頷き。
「私は霜月先生を覚醒させ、保健室で診察して、調合したこのお薬を渡せば良いんですね…」
 稔に問い掛けると、稔は頷いて
「そうです、そしてこの薬は、精神を安定させるが、リスクが高い事も必ず伝えて下さい。それを告げなければ、この薬の効果を考えれば、アンフェア過ぎますからね」
 弥生に告げた。
 弥生はその言葉に、静かに頷き
「自己の本質を見てしまう可能性は、どうしましょうか…」
 稔に俯きながら、ソッと問い掛けた。
「そうですね、それも告げた方が良いでしょう…。それと用法は必ず守るよう、確実に告げなさい。まぁ、守れれば良いんですが…」
 稔は低く響く声で、優しく答える。
 その声を聞き慣れた弥生ですら、ゾクリとする程妖しい音が忍ばされていた。

 弥生は疲れ果てたメイド奴隷から、妖しい牝奴隷の雰囲気に代わり
「はい、稔様。仰せのままに…」
 深々と一礼して、出て行こうとする。
 その背中に、狂が声を掛けて、握った右手を差し出し
「これを持ってけ…。使い方は解るだろ」
 ニヤリと笑って、弥生の掌に有る物を渡す。
 弥生はそれを受け取り、確認するとコクリと頷き旧生徒会室を出て行った。
 絵美は、その後ろ姿を見送りながら
(おもしろ〜い…上郷先生が奴隷に成ってるのも驚いたけど…。あの、色の変化って有る意味凄いわね…。茶色っぽく、くすんでた色が、見る見る若草色に変わって行って、最後は霞のようにピンク掛かった…。でも、そう思えば、前の上郷先生は本当に、枯れてたのね…だって、全体がくすんでたんだもん…有る意味、柳井さんて凄いかも…)
 稔と話す事により、見る見る変わって行く、弥生のその雰囲気や、醸し出す物の変化に驚いていた。

 弥生は稔の指示通り、PC室でウットリと魂を飛ばす春菜に近付き
「霜月先生、大丈夫…霜月先生…」
 頬を軽く叩きながら、春菜を覚醒させた。
 弥生に頬を打たれた春菜は、陶然とした表情を浮かべながら
「あはぁ〜ん…もっとぉ〜…強くして下さい〜っ…」
 熱い吐息と共に、鼻に掛かった声でねだる。
 弥生は[ふぅっ]と溜息を吐くと、ビンビンに起立した乳首を捻り上げ
「しっかりしなさい! あなた教師でしょ!」
 春菜の耳元で怒鳴った。
 春菜はその痛みと声に、ビクリと身体を震わせ、頭を激しく振って覚醒した。

 春菜は驚きながら、キョロキョロと辺りを見回し、目の前にいる弥生を見つめ顔を引きつらせた。
「大丈夫? あなたどうしたの…工藤君が、様子が変だって私を呼びに来て、ビックリしたわ…こんな所で、生徒が見ている中…あんな事をする何て…。私が機転を利かさなかったら…あなた工藤君に全部見られてたわよ…」
 弥生は、さも、自分が春菜を庇ったように、説明した。
 気が動転している春菜は、あられもない姿を自分の手で隠しながら、ガタガタと震え始める。
(え、う、うそ…やだ…私何してたの…うそ…そんな事、有り得ない…)
 春菜は断片的に残る、記憶をかき集め、必死に状況を認識しようとする。
 だが、春菜の認識の中には、一切、第3者の介入が無く、おこなった事は全てが自分の自発行為だと示す。
 ガタガタと震え始める春菜に、弥生は白衣を優しく背に掛け
「疲れてるのよ…。そう…、あなたは、疲れてるの…。いらっしゃい…一応こう見えても、この学校の校医よ…私は」
 そう言いながら、春菜を椅子から立たせ、優しく肩を抱き保健室へ誘った。

 保健室に入った春菜は、落ち着きを取り戻し弥生の前で、ポツリポツリと話し始める。
「あの…何か、目の前でパッと、色が散ると…。身体の奥が、変に成って来て…。それで…気が付いたら、上郷先生が…目の前にいて…私…何をしていたのか…良く覚えて無くて…」
 春菜が弥生に打ち明けると、弥生は春菜をジッと見つめ
「本当に自分が何をしていたか…解らないの?」
 真剣な表情で、春菜を見つめる。
 春菜がコクリと頷くと、弥生は春菜の右手を掴み、鼻面に向けて差し出し
「臭いを嗅いでみなさい…」
 静かに春菜に告げる。
 春菜は言われるままに、自分の右手の臭いを嗅いでみた。

 春菜の表情が硬く強張った。
 今嗅いだ右手からは、まごう事なき、濃厚な自分の愛液の臭いがしていたのだ。
「え、う、うそ…」
 堪らず呟いた、春菜に追い打ちを掛けるように、弥生は白衣を剥ぎ取り、ブラウスを持ち上げ、春菜の乳房を晒すと左手をその右乳房にあてがう。
 右の乳房に着いている、引っ掻き傷と爪の後が、ピッタリと符合する。
 その事実を突きつけられた、春菜はガクガクと震え始め、ポロポロと涙を流し始めた。
 そんな春菜を弥生は優しく抱き締め、ポツリと呟く。
「疲れてたのよ…あなたは…」
 その弥生の声は、春菜の心に染み渡る。
 ボロボロと涙を流し、弥生に取り付いて泣き始める。

 弥生は優しく春菜を抱き締めると、髪の毛を撫で背中をさすり
「嫌な事が有ったんでしょ…最近…。例えば身近な人が…離れて行くような…。そんな嫌な事…」
 弥生が優しく問い掛けると、春菜はもう止まらなかった。
 1年生からズッと目をかけ、鍛え上げていた生徒が、1ヶ月前から自分の元を離れ、別の人間に師事をしていて、その結果を7日後に試合で試さなければ成らない。
 自分としては、可愛い教え子として、勝たせてあげたいが、何処の誰とも解らない人間に教えられた結果だと、捉えられるのは堪らなく嫌だ、だから自分はどうして良いのか解らない。
 春菜は泣きながら、弥生にそう告げた。
「うふっ、霜月先生は熱血漢なのね…。でも、今の問題は簡単だわ…。ちゃんと、自分の持っている物を見せるべきよ、その上でその子が、あなたに学ぶべき物が有れば、あなたの元に返ってくる筈よ。もし無かったとすれば…」
 うふふと笑って、弥生は言葉を飲み込み、春菜に薬を差しだした。

 春菜は弥生の言葉の続きと、差し出された薬が気になり、何度も弥生と薬を交互に見つめる。
「このお薬は、不安になったら飲むと良いわ…。但し、相当強いお薬なの…、必ず1日1包だけにしてね、眠る前に飲むのがベストよ。それと…さっきも言ったけど、かなり強いから相応のリスクは覚悟してね…」
 弥生の薬の説明に、春菜の意識は薬に向いた。
「相応の…覚悟って何なんですか…?」
 春菜が恐る恐る尋ねると、弥生は真剣な表情で
「あなたの根源的な欲望が…出てくるかも知れない…」
 春菜に説明した。
 春菜は弥生の顔と説明に、ゴクリと唾を飲み込みながら、恐る恐る手を伸ばす。
 その薬は春菜が、滑り落ちるために用意された物だと、その時の春菜には気付かなかった。

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