夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験7

 弥生は薬を手渡し、春菜に注意を与えると、扉を示して
「今日はもうお帰りなさい…。お風呂にでも入って、ユックリ眠る事をお勧めするわ…」
 春菜に優しく告げた。
 春菜はコクリと頷き、薬を胸に抱き締め、医務室の椅子から立ち上がる。
 だが春菜は、立ち上がっても、一向にそこから動こうとしない。
 春菜はモジモジとしながら、弥生の方を見れず俯いている。
 弥生は春菜のそんな行動に、直ぐに察しが付いて
「今日の事は、医療関係者の守秘義務に於いて、他言しない事を誓いますわ。私の口から、この事が他人に漏れる事は有りません…。ただ、あそこの教室は、監視カメラが入っていますから、もしかしたら映像が…」
 そこまで言いかけると、春菜は弥生の言葉が事実である事を思いだし、腰が砕け床にペタンと座り込んでしまった。

 春菜はブルブルと震え、蒼白になりながら
「ど、どうしよう…私…私取り返しの付かない事を…してしまった…」
 顔を覆って、泣き崩れる。
「う〜ん…こんな事、本当は言っちゃうと駄目何だけど…。今は非常事態ね…」
 弥生は腕組みをしながら、ボソボソと呟き
「霜月先生…ここのセキュリティー作ったの、誰か知ってます?」
 春菜に話し掛ける。
 春菜はビクリと震え、涙に濡れた顔を持ち上げ、弥生を見つめ首を横に振った。
 弥生はキョロキョロと辺りを見回し、春菜に顔を近づけると
「1人の生徒が、全部付けたんだって…。システムも特殊で、管理が難しいらしくて今もその生徒が、管理をしてるらしいわよ…」
 小声で春菜に話した。

 春菜は驚いて弥生の顔を見つめると
「どうして…そんな事、知ってるんですか…」
 弥生に問い掛ける。
 弥生は春菜にウインクすると
「学校の用務員さんと、私仲が良いの…。良くここに来ては、雑談して帰る間柄でその話しの中で聞いたのよ…」
 コソコソと春菜の耳元に教えた。
 春菜は納得して、真剣な表情になり
「そ、その生徒は一体誰なんですか…」
 弥生に躙り寄って、問いつめる。
「内緒よ…本当は、誰かが知ってちゃ不味い話しなんだからね…」
 弥生はジッと春菜を見つめて、念を押した。

 春菜は固唾をのんで、大きく頷くと弥生はユックリと口を開く。
「2年生の男子で、垣内君って知ってる? 彼がそうよ…」
 弥生が告げた名前を聞き、春菜は愕然とする。
(か、垣内君って、昨日テニスコートに来たあの生徒よね…。どうしよう、私苛立ち紛れに、彼に辛く当たったばかりよ…)
 春菜は昨日の放課後の事を思いだし、呆然としてしまった。
 そんな春菜を見ながら、弥生は耳をしきりに押さえ
「こんな感じで、良いんですか…」
 声を出さずに口の中で呟く。
『OK、OK…へへへっ、良く出来たな弥生、後はとっととそいつを追い出せ、ご褒美が待ってるぜ…」
 笑いを含んだ狂の声が、弥生の耳の中に響いた。
 今迄の会話は、全て骨伝導イヤホンマイクから流れる、狂の指示による物だったのだ。

 弥生は小さくコクリと頷くと、呆然とする春菜を見つめ
「詳しい事は、彼にお願いするしかないかもね…。ご免なさい、この後私も用事が入ってるの、もうソロソロ行こうと思うんだけど…」
 済まなさそうに告げ、椅子から立ち上がり白衣を脱いで、帰る準備を始める。
 春菜は弥生の行動に、弾かれたように立ち上がると
「済みません長居しちゃって、本当に色々と有り難う御座いました」
 ペコリと頭を下げて、保健室の内鍵を外し出て行った。

 弥生はスピーカーマイクを外し、白衣をハンガーに掛け、ロッカーに片付ける。
 その手はキビキビと動き、顔には微笑みが浮いていた。
(うふふ…藤治様の言っていた事が本当なら、私は明日の夜まで、フリーに成った…。久しぶりに、ご主人様達に構って貰えるのかしら…。真様が居たら最高なんだけど、山に入っているから無理だわね…、でも、良いの贅沢言ったら罰が当たるわ、今日はどちらがお相手して下さるんだろう…。それとも、両方…? ご褒美が待ち遠しいわ)
 弥生は藤治の自己満足のためのSEXで、欲求不満が溜まっていた。
 毎日相手をし使われるが、自分がイクと満足して、弥生は絶頂を迎える事も出来ない。
 その上、仕事の忙しさのため自分自身で慰める暇さえなかったのだ。
 そんな身体を抱え、弥生はイソイソと3階の旧生徒会室に急いだ。

 旧生徒会室の前に辿り着いた弥生は、ノックをして許可を貰い、扉を開いて中に入ると、直ぐに床に平伏し
「稔様、ご用を終わらせ参りました」
 床に額を擦りつけ、挨拶をする。
「ご苦労様です弥生、お顔を上げなさい」
 稔の優しい声が、弥生の耳朶を打ち、ゾクゾクと歓喜が駆け上ってゆくのを感じ、顔を上げる。
 持ち上がった弥生の顔は、赤く染まり目は潤んで濡れている。
 その顔は完全に興奮に染まり、これから与えられる享楽を待ち望んでいる顔だった。
「おいおい…そんな顔しても、俺達ゃなんにもしないぜ…。まだ、忙しいんでな…」
 狂の言葉に稔が頷いて
「そうなんです、今日の実験のデーターを至急まとめないと、明日の実験に使えません…。ですから、今日は僕達は何も出来ません」
 弥生にそう告げると、弥生は泣きそうな顔をして、ガックリと肩を落とす。

 すると、トコトコと狂が弥生の前に進んで、しゃがみ込み
「おいおい、そんな顔するなよ…。実際、お前の働きは、特別良かったんだから…俺達ゃ、それなりに感謝してるんだぜ」
 弥生の顔を持ち上げて、頬に軽くキスをする。
「そうです、本当に弥生は働き者です…。ですから、今日はご褒美に明日の夜まで、自由時間を上げます」
 弥生は眉根に皺を寄せ、泣きそうな顔で
「1人で…そんなに自由時間を頂いても…」
 稔に呟くと、稔は時計を見つめ、狂は耳を澄ます。
「ほら、ソロソロじゃないですか…」
 稔が時計を見ながら呟くと、狂がニヤリと笑い
「はい、ご到着…」
 扉の磨りガラスに映る人影を見て、弥生に告げた。

■つづき

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