夢魔
MIN:作

■ 第24章 実験12

 絵美はドキドキと高鳴る胸を、意識しながら狂に問い掛ける。
「あ、あの〜…、柳井さん達の奴隷って…ヒョッとして、美紀ちゃんと沙希ちゃんですか?」
 稔と狂はその質問に、驚いて目を見張る。
「ど、どうして解ったんですか?」
 稔が問い掛けると、絵美は人差し指を顎に当て
「えっと〜…。最近凄く綺麗に成ったな〜って思ってたのと、今日、上郷先生を見て気付きました。後、似た雰囲気の人が、2人居るんですが…。多分1人は、違うと思いますけど…」
 ジッと考えながら、稔に答えた。
「へ〜っ、お前良く分かったな。んじゃ、後の2人聞いてやる。言ってみろ」
 狂がそう言うと、絵美はコクリと頷いて
「えっと、3年生で…美紀ちゃんのお姉ちゃん…、確か美香さんって言いましたよね。その方は確定なんですけど、後1人は、スッゴク綺麗だって事で、そうかなぁ〜って思ってだけです」
 絵美が、奴隷を的中させる。

 稔と狂は顔を見合わせ、お互い驚くと
「おい、最後の1人って誰だ…。言ってみろ」
 絵美に向かって、狂が真剣な顔で問い質す。
「えっ…。あ、あの〜…総合病院の整形外科のお医者さんで、美紀ちゃんのお母さんです…」
 絵美は怯えながら、狂に最後の1人を告げた。
 稔は溜息を吐きながら
「凄い物ですね…。全員言い当てられました…」
 頭に手を当て、首を左右に振りながら、驚きの表情で稔が答える。
「こりゃ、マジで真さんの言うとおり、気を付けなくちゃなんねぇ…。絵美、その目で見るのは、禁止だ…使うんじゃない」
 狂は絵美に人の色を見る事を禁じた。
 絵美は狂に言われて頷くも、困った表情を浮かべ
「でも、でも…どうやったら良いか、本当に分かんないんです〜」
 縋り付くように、狂に告げた。

 稔は狂をジッと見つめ、狂はボリボリと頭を掻いて
「わぁってるよ! 真さんしか居ないッてんだろ…。まぁ、あの人が俺らの中じゃ、一番の良識家だ…、弥生も居るから安心は出来る…出来るけど…なぁ…」
 狂はふて腐れた顔で、稔を見つめ絵美を見つめる。
 稔は、くくくっと笑うと
「狂がそう言う判断を鈍らせるところ、始めてみました。本当に本気なんですね…。真さんは狂が思っているような事は、絶対にしませんよ…だから、専門家に任せなさい。これは、友人としての進言です」
 狂に静かに告げた。
 狂は渋々頷いて
「わぁったよ…。真さんに頼むわ…それが、一番良い…」
 ボソボソと口ごもりながら、認めた。

 当の本人は、まったく意味が解らず、キョトンとしている。
 狂が絵美を見て、説明しようとした時、絵美の携帯が着信を告げた。
 絵美の着信は、同居の老婆だった。
『絵美ちゃん? 何かあったの…。もう、お婆ちゃん行かなきゃいけない時間なんだけど…』
 老婆が絵美に問い掛けると、絵美は慌てて
「うん、今学校を出たから、あと5分程で着きます。お婆ちゃん達出かけても良いよ、その家希美だけじゃ、外に出られないし、誰も入って来られないから」
 絵美がそう言うと、老婆は絵美に後を頼むと言って、通話を切った。

 絵美は狂の顔を見つめ
「ご主人様…急いで帰らなきゃいけなく成りました〜…」
 済まなさそうに、告げる。
「おう! んじゃ、稔俺も帰るわ。真さんには、明後日俺から頼むし、後は任せた」
 勢い良く、右手を挙げ別れを告げると、絵美の腕を掴んで、スタスタと旧生徒会室を出て行く。
 稔は無言で狂を見送り、扉が閉まるとパソコンのモニターに向き直り、作業を開始する。
 只1人残った稔が、キーボードを叩く音だけが、旧生徒会室に響き渡っていた。

 狂と絵美は2人で家路を急ぐ。
 どちらも、運動は苦手なため、一生懸命走っても、さして歩くのと大差が無かった。
 2人はそれが無駄な労力と知り、徒歩に切り替え、狂はブルジョア行動に出る。
 狂はおもむろに、携帯を取り出すとコールして、タクシーを呼びつけ正門で待たせる。
「うわぁ〜…ご主人様、直ぐそんな無駄遣いする…駄目駄目ですよ〜」
 絵美が文句を言うと
「煩い! 俺の金だ、口出しするんじゃねぇ…。それに、そんな事言って、麗美や真美に何か有ったら、どうすんだよ!」
 狂は口を尖らせ、絵美の抗議を一蹴する。

 絵美は狂の言葉を聞いて、心の底から抱きつきたく成ったが、狂に無断で触れる事は、禁じられていた。
(本当に…本当に、お優しいお方…妹達にも、愛情を注いで下さる、私の素敵な、素敵なご主人様…)
 絵美は満面に笑みを湛え、狂の後ろを追従する。
 狂は早足で、正門に辿り着くと待っていたタクシーに乗り込み、目的地を告げて1万円札を渡し急がせた。
 運転手は目の色を変え、市街を駆け抜け狂達のマンションへ、10分掛かる道程を5分程で到着させる。
 絵美は目を丸くして、驚いていたが
「金はこうやって使うんだ。時間は金には換えられないが、有る程度は買える。覚えとくんだな…」
 ニヤリと笑ってタクシーを降りた。

 エレベーターに乗った絵美は、モジモジしながら
「ご主人様…あの〜…。私のお家で、コーヒーでも飲みません?」
 狂に問い掛けると
「ああん? 今は、婆ちゃん達居ないんだろ? 俺が入っちゃならねぇ理由は無いし、チビ達もその方が良いんじゃねぇのか?」
 狂がぶっきらぼうに、絵美に告げる。
 絵美はパッと、顔を明るく変え
「はい、ご主人様!」
 満面の笑顔で答える。

 絵美が自宅の扉を開けると、奥から希美が包帯を巻いた姿で
「お姉ちゃんお帰り〜」
 元気に飛び出してくる。
 そして、狂の姿を認めた瞬間、更に笑いながら
「あ〜! 綺麗なお兄ちゃんだ〜! いらっしゃ〜い!」
 狂に向けて、ダッシュする。
「今晩は希美ちゃん、お邪魔して良い?」
 狂がそう言うと、希美は狂の手を持ち、グイグイとリビングに導く。

 狂がリビングに着くと、積み木をして遊んでいた3歳の麗美と、俯せに成っていた1歳の真美が、狂に気付き奇声を上げながらヨタヨタパタパタと寄って来る。
 実は狂は老夫婦の留守中に、何度も絵美の自宅に通っていた。
 絵美の妹達は純には懐かず、不思議と狂にだけとても懐いて、離れようとしない。
 狂はニコニコとリビングに胡座をかいて座り、膝の上に希美、麗美を乗せ、真美を抱き上げる。
 絵美はそんな狂の前に、コーヒーを差し出すと、その姿をニコニコと見つめていた。
 狂には、こんな時間が心の底から落ち着いた。
 その姿は、絵美の家族を本当の家族のように感じ、自分の満たされ無かった過去を癒すようだった。

■つづき

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