夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動3

 朝、目が醒めた沙希は、寝ぼけた頭で、見知らぬ風景を不思議そうに見つめていた。
(あれ? ここ…どこ…? あれ…? あれ? あれ! あ〜っ!)
 沙希は覚醒するにつれ、そこがどこだか思い出す。
(庵様のお家〜! …い、庵様! 庵様はどこ!)
 沙希はバタバタと身体を起こし、庵の姿を探すと、庵は机に突っ伏して眠っていた。
(あはぁ〜…庵様だ〜! …私本当に、庵様のお家で眠ったんだ〜!)
 沙希は庵の姿を見つけ、上機嫌になりパタパタと手を振り喜んでいた。

 そして、昨夜眠る前の出来事を思い出す。
(えっ! ッという事は…昨日のあれは…私の妄想じゃなくて…。本当に…有った事…? 本当の…本当に…有った事…)
 沙希は身体を丸めて、ジッと考え込み大きく深呼吸をして、自分を落ち着ける。
(本当に庵様は…、私の事を[好きって]言ってくれた…。初めて[愛してる]って、感情を持ったって…言ってくれた…)
 沙希は沸々と身体の奥から沸き上がる感情に、身体をブルブルと震わせ、ニヤニヤと緩む頬が止まらなかった。
(いやった〜〜〜! 庵様の、愛を獲得しちゃったぁ〜〜〜っ!)
 沙希は無言で満面の笑みを浮かべながら、ガッツポーズを取って喜んだ。

 その時庵の身体がピクリと動き、低く唸って寝返りを打つ。
 沙希はビクリと驚き、庵が起きたかどうかを確認する。
(庵様の事だから…近付いたら、絶対目覚めるわ…。ここからの方が、無難ね…)
 沙希はジィーッと目を凝らして、沙希の方に向けられた、庵の寝顔を見つめた。
(いやん…庵様可愛い…寝顔がとっても可愛らしい…。えへっ…写メっちゃお…)
 沙希はソロリと布団を抜け出すと、自分の荷物の場所に移動する。

 ゴソゴソと鞄を漁り、携帯電話を見つけると、取り出した。
 沙希が携帯を開けて、待ち受け画面を見ると、着信が6件有った。
 沙希は何の気無しに、それを確認し番号を読み取ると、パッチリと開いていた目が、突然トロリと半目に成り、身体がユラユラと揺れ始める。
 沙希の身体がスーッと立ち上がり、庵の自宅のトイレに入って行く。
 トイレに入った沙希は、携帯電話を操作しダイヤルする。

 暫くコール音が続き、相手が電話に出た。
『やあ、沙希ちゃん…おはよう…。昨日何度も電話したんだけど、留守番電話に入っていた[もうここに来られないって]どうしたのかな?』
 携帯電話から、佐山の声が優しく響いて来る。
「あのね…おじさま…。沙希ね…庵さまに…あいされたの…。だからね…イヤなことが…なくなったの…」
 沙希は佐山に虚ろな棒読みで、質問に答えた。
『そう…、それは、良かったね…。でもね、沙希ちゃん…柳井が居る限り、また沙希ちゃんの庵君を、悪い道に引き込むかも知れないよ…。そうしたら、庵君は柳井の奴を選ぶかも知れない…。そんな事に成ったら、イヤだろ?』
 佐山が沙希に問い掛けると、沙希はフルフルと首を左右に振り
「やだ…そんなの…やだ…」
 佐山に子供のように告げた。

 佐山は暫く考え、沙希に告げる。
『良し、じゃあ、小父さんが沙希ちゃんの、庵君が悪い事をしていないか、考えて上げよう…彼は、何をしていた?』
 沙希は佐山の質問に、素直に答えた。
「つくえで、えをかいてる…。なにかいっぱい…せんがかいてて…すうじが…かいてあった…。わるいこと?」
 沙希の言葉に、佐山は小躍りしそうに成った。
(おいおい、それって、何かの図面じゃねえのか…例のやつなら、大儲けできるぜ! へへへっ、良し…)
 佐山は沙希に向かって、一瞬でまとめ上げた答えを、告げる。
『それは、見てみないと良く分からないな…。でも。凄く怪しい…、小父さんが見て上げるから、持って来れるかな?』
 佐山の答えに、沙希は即答した。
「むり…庵さま…おきちゃうもん…、ちかづいたら…すぐに、おきちゃうもん…」
 沙希の答えは、実際そうだったが、佐山は諦められなかった。

 暫く考えた佐山は、沙希に指示を出す。
『良し、それじゃ、写真を送って呉れないか? どんな物か、大体解ると思うんだ』
 佐山の言葉に、沙希は頷いて
「いまね…しゃメっちゃおって…おもってたの…。小父さまにも…みせたげるね…」
 佐山に嬉しそうに告げると
『じゃぁ、写したらメールで見せてね。全部の絵を取るんだよ…。メールを送信したら、いつものようにして、もし見つかったら、ちゃんと謝って、寝顔の写メを見せるんだ…良いね、他のは見せちゃ駄目だよ…』
 沙希に硬く指示を出し、通話を切った。
 沙希は通話が切れると、発信と着信の履歴を消し、トイレから出て行った。

 佐山に操られた沙希は、佐山の言うとおり携帯電話で、見える限りの庵の図面を写し始める。
 床に散らばった物や、机の隅にある物全てを写し終えると、沙希は庵の顔を正面からカメラに納め、シャッターを押す。
 その瞬間、庵の手が沙希の腕に伸び、しっかりと掴む。
 沙希はその一瞬で、覚醒し佐山の次の指示に従う。
「沙希…何をしてる…」
 庵の低く響く声に、沙希は驚きながら
「ご免なさい…庵様の寝顔を…どうしても欲しくて、写メっちゃいました…」
 庵に詫びて、庵の寝顔の写真を見せた。

 庵はそれを見て、沙希の顔をジッと見つめると
「これをどうするつもりだ…」
 静かに沙希に問い掛けた。
「えっ…、えっと…その…。1人で見て…嬉しく成ろうかな〜…なんて…思いました…」
 沙希はモジモジとし、照れくさそうに笑って、シュンと小さく成りながら、庵に告げる。
(あ〜ぁ…この感じゃ…消せって言われるんだろうな…)
 沙希が庵の表情を見ながら、ガッカリしていると
「人に見せるんじゃないぞ…。お前だけだからな…」
 そう言って、沙希の手を離した。

 沙希はその声に、耳を疑いながらも大喜びし
「庵さま! ホントですか! 絶対! 絶対誰にも見せません! 沙希の宝物にします! やった〜!」
 携帯を胸に、ピョンピョンと跳びはねた。
「ぐひぃ〜〜〜っ! あだだだ〜っ…」
 沙希はその時、全身に走る激痛で、大きな悲鳴を上げる。
「ば〜か…。昨日のあの練習で、お前の身体は、ガタガタなんだ…。まぁ、今日はその身体を、更に虐めるんだがな…。昨日はあえて、今日のために筋肉痛の身体を作ったんだ。今日は死んだ方が良いって気持ちにさせてやる」
 庵が残忍な微笑みを浮かべ、沙希を見詰めると、沙希は恐怖するどころか、ウットリとした表情で
「はふぅ〜〜〜ん…。庵様…、いっぱい虐めて下さい…。沙希、庵様になら何をされても構いません…」
 庵に縋り付く。
 庵はそんな沙希の髪の毛を掴むと、おもむろに目の高さまで引き上げ、沙希の唇を貪った。
 沙希は庵の腕に、髪の毛でぶら下がりながら、全身の力を抜き、庵の為すがままに、唇を差し出し舌で応えた。

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