夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動5

 旧生徒会室の扉が開き、狂と絵美が顔を出すと、稔はひたすらモニターを見つめ、キーボードを操作していた。
 狂は呆れた顔で、稔に向かって
「おい、また徹夜か? お前、マジで身体壊すぞ…」
 声を掛ける。
「あ、狂…。もうそんな時間ですか…。昨日の夜、少し呼び出しがありまして、作業が遅れてしまったんです…」
 稔は手を止め、椅子を回しながら、狂の方に向きを変え、眼鏡を取って目頭を揉む。
「ああん、呼び出し…? お前が作業を止めて、呼び出しに応えるなんて、よっぽどの事が起きたのか?」
 狂が稔に問い掛けると
「ええ、満夫が奴隷になりました…。梓と結婚させて、森川の家を管理させます」
 稔は掻い摘んで、昨夜の件を狂に知らせる。

 狂は稔の話を聞き
「お前、それじゃ美香と美紀も、あいつに犯れちまうんじゃねえか?」
 呆れながら、稔に問い掛けると
「別にそれでも構いませんが、満夫はしないでしょ…。あれは、梓が居れば他に目は行きませんし、梓にも満夫は必要です。何だかんだ良いながら、あの2人の嗜好の相性はピッタリですから…」
 稔はあっさりと答える。
「けっ、食えねえ男だな…。わだかまりを消して迄、くっつける必要有るのかね…。お前は恋のキューピットかって…」
 稔は狂の言葉に、真剣な表情を向けると
「そうですよ。僕はその為に、このネットワークを作ってるんですから。僕達の性癖に合う人間は、お互い希少なんです。人間関係のわだかまりみたいな、些末な事で出会いが邪魔されるなんて、有ってはいけない事なんです」
 自分の考えを力説した。

 狂はニヤニヤ笑いながら、後ろで驚いている、絵美に視線を向ける。
「こういう奴なんだ…。こいつはな…」
 絵美は狂に言われて、何が何だか解らぬうちに、コクリと頷いていた。
 狂は絵美が持っている、バスケットを取り上げ、自分の持っている、2リットルのペットボトルと共に
「飯だ、食え」
 短く言いながら、差し出した。
「絵美が朝から握ったんだからな、心して食えよ」
 狂がそう付け足すと、稔はバスケットいっぱいのお握りを、嬉しそうに見つめる。
「狂…、絵美さん…。何よりの差し入れです…。実はさっきから、お腹が鳴ってたんです」
 稔がニッコリ笑いながら言うと、狂は絵美の前に、血相を変えて立ち塞がり
「馬鹿! そんな事は、早く言え! ああ、どうでも良い2・3個まとめて口に入れろ!」
 狂は慌てて、稔に怒鳴った。

 稔は狂に言われ、クルリと背中を向けて、机の上にバスケットを載せると、ヒョイヒョイとお握りを掴み、口に入れ始める。
 絵美はその様を見て、目を丸くした。
(前に見た時は、あの量を誰が食べたか解らなかったけど…。柳井さんて、とんでも無い大食いなのね…)
 絵美はファミレスで一度、凄まじい量の食べ物を稔と狂が頼んで、それが全て消えた時の事を思いだした。
 稔は、5合は有った筈のお握りを1人で平らげ、ペットボトルを1本空にする。
「ふぅ、一心地着きました。絵美さん美味しかったですよ…」
 稔の言葉に、我に返った絵美は、狂の顔を見つめる。
 狂は絵美の顔を見ながら
「こういう奴なんだ…。こいつは…」
 ニヤリと笑って、絵美に告げた。

 絵美はそんな狂の顔を見ながら、フルフルと首を左右に振り
「ご主人様の朝ご飯…」
 目に涙を溜め、狂にボソリと告げる。
 狂は絵美の言葉で、自分達の朝飯が消えた事を理解した。
 稔もその言葉で、自分が全て平らげた、バスケットを見つめ
「すいません、無く成りました…」
 バスケットをひっくり返す。
 狂は何か言いた気だったが、絵美に向き直り
「飯食いに行こう…。無く成った物は、仕方ねえや…」
 ニヤリと笑って、出て行った。
 稔は済まなさそうに、ボリボリと頭を掻いて、キーボードに向かう。

 稔が作業に戻り、暫くすると旧生徒会室の扉がノックされる。
 稔が訝しんで、パソコンのモニターを監視カメラの映像に切り替えると、そこには美香と美紀がモジモジと立っていた。
 稔は直ぐにカメラを切り替え、辺りに誰も居ないのを確認すると、扉を開けて2人を招き入れる。
「どうしたんですか? こんな時間に2人で現れるなんて…」
 稔が問い掛けると
「あ、あの…お叱りを受ける事は承知しておりましたが、稔様は昨夜からお忙しく、動かれておりましたので…」
「お、お腹がお空きじゃないかと、思って…思いまして、サンドウィッチを作ってきました」
 美香と美紀が思い詰めたように、バスケットいっぱいのサンドウィッチを差し出した。

 稔はクスクスと2人に微笑むと
「有り難う…頂くよ…」
 ヒョイッとバスケットを受け取り、2人の奴隷の頬に口吻をする。
 2人は途端に嬉しそうに笑うと、手を取り合って喜んだ。
 稔がサンドウィッチを摘み始めると、美香が鞄の中から、保温ポットを取り出しコーヒーを注ぐ。
 美紀がそれを見つめ
「あ〜お姉ちゃん! それ、ズッと探してたのに! お姉ちゃんだったのね!」
 唇を尖らせ、文句を言いながら、アイスコーヒーのペットボトルを取り出す。
「あら、居なくなったと思ったら、そんな物買いに行ってたの」
 美香が嘲るようにそう言うと、美紀は頬を膨らませる。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊