夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動10

 春菜はビクリと震え、怯える小動物のような目を向け
「い、いえ…1人で…行けます…」
 か細い声で、教頭に背中を見せて、ヨロヨロと歩き始める。
『おい、トロトロ歩いてる、その女のケツをひっぱたいて、命令口調で急がせろ。今のそいつなら、文句は絶対言わねえから』
 教頭の耳の中に、狂の声が響き
「良いのかい? 本当に、そんな事しても…」
 教頭は耳に手を添え、小声で独り言を言った。
『ああ、構わねぇ。お前も、少しぐらい楽しみたいだろ? 俺が見てる範囲でなら、許可してやるよ』
 狂が教頭に告げると、教頭はニンマリと笑い
「おほ〜…。本当かい…工藤君有り難う…感謝するよ」
 小声で囁く。

 教頭は手を耳から離すと、春菜の遅い歩みに直ぐに追いつき、右手を振り上げ
「何をトロトロ歩いてる! 早く行きなさい」
 命令しながら、テニスで大きく育った、丸いお尻に打ち付ける。
 パシーンと良い音が廊下に響き、春菜は驚きの表情を浮かべた。
(あう〜〜〜ん…、あ、ああぁ〜…いい…、気持ち良いわ…)
 思いも寄らぬ刺激に、一瞬頭の中に、走り抜けた快感とそれを認める意識。
(な、何を言ってるの…。叩かれて、気持ち良いなんて、馬鹿? 変態よ…)
 だが、その快感を強く否定する良識。
 2つの意識が一瞬で交錯し、春菜は快感を感じた自分の身体に、驚きの表情を浮かべたのだ。

 教頭は驚きの表情を浮かべた春菜が、いつ自分に猛抗議するか、内心不安で仕方なかったが
「申し訳ありません…」
 力無く頭を下げ、歩調を早めた春菜を見つめ、ビックリした。
(本当に文句を言わなかったぞ…驚いたな…)
 教頭は女教師達の集団に追いついた、春菜を見つめ呆然とする。
『なっ、言ったとおりだろ。あいつは1日早く、今からやる教育を受けてる。明日に成ったら、あんな反応をする教師が、山のように増えるぜ…。お前は、そんな教師達に、今程度の罰を与えれば良い…。出来るか?』
 狂が教頭にそう言うと、教頭は耳に手を充て、ブンブンと首を縦に振りながら
「で、出来ます! やります! やらせて下さい!」
 小声で早口に答える。

 教頭が即答すると
『良〜し…。じゃぁ、この後も、精々上手くやれよ…、もっと良い物が見れるぜ…。但し絶対に教室内に入るなよ…、外から見るだけだ』
 狂は教頭に指示を出し、キッチリと釘を刺した。
 教頭は了承すると、小走りに駆け出し、女教師達の後を追った。

 教頭がPC教室の前に辿り着くと、春菜がモジモジとして、教室の入り口に立っている。
 春菜は教頭の到着に気付き、項垂れ小さく成って、立ちつくした。
 教頭は訝しげな表情を浮かべ、春菜に近付くと
「何をしているんだ、早く入って席に着きなさい」
 鋭い口調で、春菜に命じる。
 春菜はビクリと震え、泣きそうな顔を教頭に向けると
「あ、あの…、許して頂く訳にはいかないでしょうか…。私、ここに入りたく無いんです…」
 必死な声で、教頭に懇願した。

 教頭はふぅと溜息を吐くと
「何、訳の解らない事を言ってるんだ…。霜月先生は、教師としての業務を放棄するのかね?」
 春菜に教師としての、態度を問い掛ける。
 春菜は再び項垂れ、何か言いたげな顔を再度、教頭に向けるが言葉を飲み込み教室に入って行った。
 教頭はほくそ笑みながら、悠々とした足取りでPC教室に入る。

 PC教室に入った教頭は、最前列の教壇に立つと、教室内を見渡した。
 それは、壮観な眺めだった。
 そこに居る、48人は全て20代後半の美人でスタイルの良い、教師ばかりである。
 それがジッと教頭を見つめ、説明を待って居た。
(こうやって見ると、凄いな…。本当にこいつら全員が、思いのままに出来るように成るなんて…夢のような話しだ…)
 教頭は全員の身体と顔を、睨め付ける様に見回し、決められた説明を始めた。

 教頭は教壇に有る、マイクを持つと
「え〜っ、今君達の手元には、このアンケート用紙と、このヘッドマイクが置かれていると、思います。無い者は居ませんね?」
 A4の印刷物とヘッドマイクを全員に見せ、辺りを見回し答えを待つ。
 誰も申し出ないのを確認して、教頭は話を続ける。
「このシステムは、5教科に対応しています。ですから、今日から5日間皆さんで、その使い勝手を検証していただきます。勿論、教科外のシステムに対しても体験して、教師としての意見をお聞きしたいと思います。この紙は最終日に意見を書いて提出して下さい」
 教頭はヘッドマイクの付け方を説明して、話しを終わらせた。

 説明を終えた教頭が、全員の状態を確認し
「でわ、デスクトップに有る、英語と書かれた、アイコンをクリックして下さい」
 ソフトを起動する、指示を出した。
 暫くすると、教頭の耳に
『おい、霜月がソフトを動かしてないぞ…注意しろ』
 狂が指示を飛ばしてきた。
 教頭は春菜の方に、キッと視線を向けると、春菜はモニターの影から、覗き見ていた顔を引っ込め、ブルブルと震える。
 教頭は急いで春菜の元に駆け寄ると
「何をして居るんだ君は! 自分の担当教科だろ! ちゃんと真面目にしなさい!」
 激しく春菜を叱咤する。
 春菜は項垂れ、観念してソフトを動かし始めた。

 教頭が尚も、春菜に何か言おうとしたが
『おい、もう良い…早く外に出ろ…。お前も危なくなるぞ…』
 狂の指示にビクリと驚き、イソイソと教室を後にした。
 教室を出た教頭は、外側から鍵を使い、施錠すると教室の中をソッと覗く。
 女教師達は、一心にパソコンを操作し、その操作性を確かめている。
 暫く覗き込んでいた教頭が、何の変化もない事に小首を傾げ、訝しむとそれは始まった。
 全員の手の動きが止まり、身体がフラフラと揺らめきだしたのだ。

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