夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動16

 だが、今度は力が入った一撃が、振り降ろされる。
(ヒー! ち、違うの? 謝ったのに…どうして…)
 由香は一瞬パニックを起こし
「ありがとうございます!」
 全く意味の通らない、言葉を叫んだ。
 しかし、その言葉を待っていたかのように、黒澤の手の力が弛む。
 少し、長めの間が空き
「何について、感謝した…?」
 黒澤の質問が、由香の心を誘導する。
「はいー! 言うことを聞かなかった由香を、黒澤先生が指導して下さったからです!」
 由香は言っては、いけない言葉を口にしてしまった。

 由香はこの黒澤の暴力を認め、正当化してしまったのだ。
「何故お前は、打たれている?」
 黒澤は心の中で、ほくそ笑み質問を変える。
「私が言うことを聞かなかったからです!」
 由香は自分の否を認め、黒澤の行為を認めた。
 ここから先、由香は一挙に転がり落ちて行く。
 黒澤の平手の強弱で、由香は自分の心の中から、言葉を選び、自分を貶めて行く。
「私には言葉が伝わらない犬猫と、一緒の躾をされて当然です! 黒澤先生、ご指導ありがとうございます」
 由香は涙でグシャグシャに成った顔で、大声を張り上げ、黒澤に感謝した。

 黒澤は由香を解放し立たせると
「お前の感謝は、そんなものか?」
 正面から、無表情で問い掛ける。
 由香は黒澤の問い掛けに、暫く悩んで床に正座すると
「由香を躾て下さって、ありがとうございました。これからも、ご指導して下さい」
 頭を床に擦り付け、黒澤に懇願した。
 職員室は、水を打ったように静まり返って、誰も身動き一つしようとしなかった。

 そんな緊張感を打ち破ったのは、黒澤自身であった。
 黒澤は平伏した由香の前にしゃがみ込むと、脇の下に両手を差し込み、立ち上がりながら、由香を持ち上げる。
 由香は、驚きと恐怖の表情を、混ぜ合わせたような顔をして、黒澤を見詰めて震えていた。
 黒澤の目の高さに、由香の顔が来ているため、由香の身体は宙に浮いている。
 由香の顔から、驚きの表情が消えて行き、恐怖一色に染まり始めると、黒澤は由香の身体をソッと下ろし、床に立たせた。
 由香はオドオドと黒澤の顔を見詰めていたが、黒澤がしゃがみ込むと、ビクリと震え目を瞑り、思いもよらない感触で目を開け驚く。
 黒澤はソッと、由香のスカートのフリルに付いた埃をを払い落とすと、無言で立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出して由香に差し出した。

 由香はポカンと口を開け、差し出されたハンカチを手に取ると、涙を拭くよう黒澤に身振りで促され、言われるままに顔を拭った。
 顔を拭い終えた由香に、黒澤が手を差し出してハンカチを受け取ろうとすると、由香はパッと背後に手を隠し
「あ、あの…。洗ってお返しして…良いですか…?」
 モジモジしながら、舌足らずな声で黒澤に問い掛ける。
 黒澤は無言で手を引き、机を指し示すと
「以後気を付けるように…。採点に戻りなさい」
 静かに告げる。
「はい、先生…」
 由香は黒澤にぺこりと頭を下げ、クルリと黒澤に背を向けると、勢い良く椅子に腰掛けた。
 椅子に腰を下ろした瞬間、由香の身体がビクンと震え、痙攣のような小刻みな物に変わる。
 それは、当然の事だった。
 由香のお尻は、黒澤の平手打ちで、50回を楽に越える程打ち据えられて、大きく腫れ上がっていたのだ。

 固く目を閉じ、必死に痛みに耐える由香。
(い〜痛い、痛い、痛〜いっ! 痛いよ〜っ…。お尻が…お尻が、ジンジンする〜っ…。黒澤先生〜…お尻痛いよ〜っ…)
 由香はプルプルと震えながらも、腫れ上がったお尻を椅子に降ろして、痛みに耐えていた。
 何とか痛みの和らぐ場所を探そうと、腰をくねらせ太股の位置をずらすと、内股にヌルリとした感触を感じる。
 由香はその感触に、ビクリと驚き
(やだ…お尻叩かれて…。血が出ちゃったのかな…)
 モゾモゾとスカートの上から、状態を確認しようとした。
 だが、由香のスカートはフリルが多いロングスカートのため、外からでは確認できない。
 状態が分からない由香は、ドンドン不安になり、ついに立ち上がると職員室をヨタヨタと、出て行った。

 由香が出て行くと、暫く間を置いて黒澤が席を立ち、別の扉から職員室を出て行く。
 由香が職員用トイレに駆け込むのを確認した黒澤は、そのまま保健室へ足を向ける。
 保健室の扉を開けると、弥生が振り返り
「黒澤先生でしたか…。今日はどう言ったご用件で?」
 艶然とした笑みを浮かべ、黒澤に問い掛けた。
 黒澤は弥生の姿を見つめ
「打撲による痛みを和らげて、腫れを引かせるような薬は有りますか?」
 問い掛ける。
 弥生は形の良い顎に手を充てると
「それは外傷が有りますか?」
 真剣な表情でポツリと、問い返した。
 弥生はテスト2日目に学校に登校して来て、稔達に特別な奴隷として紹介され、12人の教師のサポートをするよう命じられている。
 教頭は元より、黒澤にも薬物に関するスペシャリストとして、紹介済みであった。

 黒澤は弥生に
「単純に平手で、着衣の上から打っただけだから、外傷はないと思う…」
 告げると、弥生は直ぐに直径5p程の軟膏入れを差し出し
「それなら、これが最適です。表皮の神経も鈍麻させて、解熱効果を発揮します。抗生成分も皮膚から吸収し易くしていますので、30分も有れば打擲の痛みも退く筈です」
 薬効を説明した。
 黒澤は驚きながら
「そんなに早く退く物なのか?」
 弥生に問い掛けると、弥生は大きく頷き
「ええ、効果は私達の身体で、実証済みです…」
 微笑みながら、さらりと答えた。
 黒澤は呆気に取られ頷くしか無く、薬を受け取って医務室を後にする。

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