夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動19

 職員用女子トイレに駆け込んだ由香は、フリルの付いたスカートを捲り上げ、勢い良くパンティーを降ろす。
 由香はパンティーを覗き込み、その状態に驚いた。
 由香の予想では、パンティーは血で真っ赤に染まっている筈なのに、パンティーは無色の粘液で汚れているだけだった。
「や、やだ〜…何で、どうして〜…。これ、私の愛液…?」
 由香はパンティーに付いた、粘液を指で掬い鼻に近づけ、臭いを嗅ぐ。
 その臭いに目を大きく開いて、驚きながらヨロヨロとよろめき、便座に腰を掛ける。
「ふにゃ〜! 痛たたた〜っ」
 由香はお尻を押さえ、ビクンと勢い良く立ち上がり、狭い個室の扉に頭をぶつけた。
「ふみゅ〜…」
 ゴンと激しい音を立て、頭をぶつけた由香は、頭を押さえその場にしゃがみ込んだ。

 由香は痛みに涙を湛えながら、自分の両手で頭を撫でさすると、ソッとお尻に視線を向ける。
 だが、スカートのフリルが邪魔で、お尻は全く見えなかった。
 由香は犬が尻尾を追い掛けるように、狭いトイレの個室でクルクルと回り始め、いつまで経っても自分のお尻が見えない事に、ガックリと項垂れついには諦めた。
 思いの外体力を浪費した由香は、ソッと便座に腰掛けると、痛みで顔を歪める。
 しかし、慣れてしまえばヒンヤリとした、便座の冷えたプラスティックの感触が、火照ったお尻に心地よかった。
「あはぁ…冷たくて気持ち良い〜…」
 由香は声を漏らすと、その感触を楽しむ。

 だが、それも直ぐに体温で暖められ、心地よい感覚も無くなって行く。
「ふみゅ〜…もう終わり〜…」
 由香は頬を膨らませて、冷たい箇所を探すが、腰を動かす度にお尻から激痛が走る。
「く〜ん…痛いよ〜…」
 由香は顔をしかめて、泣きそうに成った時、トイレの外から大きな声が聞こえた。
「藤田君! 居るか? 打ち身に効く薬を持って来たから、取りに来なさい」
 その声は、由香を打ち据えた黒澤の声だった。
 由香はこの痛みを作った、黒澤の声にドキリとしながら
「はい〜…、ここに居ます〜」
 顔を上げ、黒澤に返事を返すと、暫く薬を取りに行くかどうか迷った。

 だが、痛みに負けた由香は再び顔を上げ
「い、今行きます…少し待っていただいて、良いですか〜」
 黒澤に答え、イソイソと股間をティッシュペーパーで拭い、パンティーを引き上げる。
 ソッと個室を出た由香は、トコトコとトイレの出入り口に向かい、黒澤の前に現れた。
 黒澤は、ポケットから軟膏入れを取り出すと、由香に差し出し
「この薬を塗れば、痛みも腫れも30分ほどで退く…。塗りなさい…」
 ぶっきらぼうに、由香に差し出す。
 由香は黒澤の手に有る軟膏入れと、黒澤の顔を交互に見ながら
「あ、有り難う御座います〜…」
 舌っ足らずな声で、感謝を告げ薬を受け取る。

 黒澤は薬を渡すと直ぐに由香に背を向け、立ち去ろうとした。
 由香はその黒澤の背に向かい
「あ、あの…黒澤先生…」
 突発的に声を掛ける。
 黒澤は立ち止まり首を巡らせ、肩越しに由香に視線を向けると
「どうした?」
 不思議そうな顔で、由香に問い掛けた。

 問い掛けられた由香自身、何故自分が声を掛けたのか分からない。
「あ、あの…その〜…」
 モジモジと言葉を探していた由香は、突然頭を下げ
「あ、有り難う御座います…」
 黒澤に感謝を告げる。
 黒澤は意味が解らなかったが、自分の中で薬に対する物だと判断し
「ああ、気にしなくて良い…。薬は保健室で貰った物だ…」
 由香に答えた。

 すると、由香はフルフルと首を横に振り
「いえ、私が悪い事をして、怒られたのに…。お薬やハンカチとか、気を遣っていただいて…これからは、怒られないようにします…」
 俯き頬を染めながら、黒澤に告げる。
 黒澤はそんな由香の仕草を見て、理解した。
(こいつ…欲情してるな…。少し、心を押してみるか…)
 黒澤は身体の向きを変え、正面を由香に向けると
「本当に怒られないようにするのか?」
 静かな声で、問い掛ける。

 由香は黒澤の言葉に、ドキリとして胸の前で握った両手に力を入れた。
(な、何で…黒澤先生…。どうしてそんな事…聞くの…。当たり前…)
 由香はその先の自分の言葉に、靄が掛かるような感覚を抱き、飲み込んでしまう。
 由香の胸はドキドキと早鐘を打ち、身体が熱く息づいてくる。
 黒澤は由香に近付くと、胸の前に抱えられた、右手首を持ちグイッと引き寄せた。
 由香が驚き顔を上げると、黒澤の胸板が視界を塞いでいる。
 由香は更に顔を上向かせ、黒澤の顔を見ようとすると、黒澤の顔は由香の頭の直ぐ上まで、降りてきておりお互いの顔の距離は、10pほどになっていた。

■つづき

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