夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動26

 黒澤の元には大貫と大城と井本が入り、京本の元には小室と白井と光子が集まり、迫田の元には、山孝、山源、森と男だけで組んだ。
 稔はチーム分けが終わると、別の封筒から紙の束を取り出し
「でわ、取り敢えずお一人ずつ最初の懐柔者を選んで下さい。これは、言わば肩慣らしです…、先生方が学ばれた理論を実践して下さい。ファイルの中のA〜Cのランクは覚醒レベルです。現状の堕としやすさと判断してください」
 机の上に、女教師達のデーターを置いた。
 すると黒澤が口を開き
「私は、今1人手掛けてるから、それで構わない…。私の分は外してくれ」
 稔に告げた。

 稔は頷くと、今度は白井が手を挙げ
「済みません、私どうしても手に入れたい方が居るんですが、お先に選んでも構いません?」
 自分よりポジションの上の者に、しなを作って依頼した。
 白井の申し出に、流石に眉をひそめる者が出るが
「白井先生、この方ですね…。白井先生の場合は特別理由として、先に抜いておきました。どうぞ…」
 稔が白井に向けて、紙を差し出すと、白井はそのデーターを見て、にっこり微笑み
「流石噂に違わない、ご慧眼…感謝いたします。あら? この子Cですのね…」
 深々と頭を下げて、稔に感謝を示しファイルを見詰めて問い返した。
「ええ、その方は覚醒はしていますが、抵抗力も強いんです…。過去の経験ですかね…」
 稔が白井に向かって告げると、白井は妖艶に微笑み唇を吊り上げる。

 黒澤が感じていた違和感は、この時ピークに達し、その理由をどうしても知りたく成った。
「ちょ、ちょっと待ってもらえるか…。さっきから思っていたんだが、皆さん彼らに対する態度が、仰々しく無いですか?」
 黒澤の言葉に、合宿組一同がキョトンとした顔で、黒澤を見つめる。
 すると、その中でいち早く、黒澤の気持ちを察した京本が
「いや、黒澤先生済みません。私達の態度が変わったのは、合宿のせいなんですよ…。とても、太刀打ち出来ないようなキサラ様が、彼らが如何に素晴らしい調教師か、事有る毎に口に上げ、調教を受けた女性を目の当たりにした物だから、みんないつの間にか尊敬するように成ったんです。その柳井君に認められている、黒澤先生も同じなんですよ…」
 黒澤に合宿組を代表し説明した。

 黒澤が呆気にとられた表情で、稔に視線を向けると
「多分キサラさんが、有る事無い事吹き込んだんだろうと思いますけど、そう言う感じで受け止めて下さい…。こればっかりは、強要する訳にも行きませんから…」
 稔は肩をすくめて、黒澤に説明する。
(何なんだ…。まぁ、ただの高校生ではないと思っていたが、私まで引き込まれてるのか…。たまらんな…)
 黒澤はため息を付くと、開き直って状況を受け止めた。
 稔が黒澤を見つめ、クスリと笑うと今度は、大貫が手を挙げ
「済みません…。私が考えている者は、ペアで落としたいんですが、ダメでしょうか?」
 稔に問いかけてくる。

 稔は大貫の言葉に、暫く考えると
「部下の方ですね…。特例を認めると、秩序が破綻しますからチーム内で話し合ってみて下さい」
 大貫の申し出を断った。
「大貫先生、私がご一緒しますわ…」
 稔の言葉が終わると、すぐに大城が申し出て、稔に告げる。
「2人で行いますので、先に選んでも構いませんか?」
 大城はさらに稔に問いかけると、稔も了承する以外無く、2人に選ばせた。

 次々に選ばれてゆく中、小室が有る事に気づいた。
「あれ? 柳井君、霜月春菜のファイルが入って居ないんですが?」
 小室の質問に、稔は頷いて
「ええ、霜月先生は今日これから、垣内と試合すると思うんですよ…。そうなると、多分他の先生方じゃ、染めるのは難しいかと…」
 小室に告げる。
「えっ? その試合って、見る訳にはいけないんですか?」
 小室の言葉に、一同がざわめくと、稔が庵を見つめる。
 庵は憮然とした表情で
「勘弁して下さい…。と言いたい所ですが、邪魔に成らず姿を見せなければ、見るのは勝手です」
 一同に告げた。
 庵の言葉に一同がどよめくと、どこで見るべきか真剣に話し合い始めた。

 そんな教師達に稔が、狂に向かって質問をする。
「純…。確か視聴覚室のモニターを、監視システムに繋げられますよね?」
 稔にいきなり振られた狂は
「う、うん…もう、やってるみよ…」
 あわてながらも、純の真似をして答えた。
「これで問題ないでしょう? ね、庵…」
 稔が庵に告げると、余りにもスムーズな話の流れと準備の良さに、庵は自分がデモンストレーターにされた事に気づき、顔をしかめる。

 教師達が、期待に胸を膨らませる中、白井がジッと真を見つめていた。
 稔がその視線に気づくと、同時に白井も稔の視線に気づき、口を開く。
「柳井君…。黒澤先生や垣内君は分かるわ、でもどうしてこの男が、ここに平然と座ってるの? クラブでも聞いた事の無い。こんな、醜いただのデブが!」
 白井は指を指し、真に向かって罵倒した。
 白井が罵倒を投げかける前の真は、未だ弥生の事を引きずり、しょんぼりと項垂れていた。
 だが、白井の罵倒の言葉に、真の意識が引き戻され、その雰囲気がガラリと変わり、顔を上げた真の表情を見て、稔が言葉を飲んだ。

 真はユックリと、にこやかな微笑みを浮かべた表情で、白井に向き直ると
「私がどうかしましたか? ここに座っているのは、場違いのデブだと仰いましたか?」
 穏やかな声で、ゆったりと問い質した。
「し、真さん! 落ち着いて下さい! 白井先生、直ぐに謝って下さい!」
 稔の言葉を真が、手で征すると
「白井先生…。貴女は確か、淫乱の気が有りましたね? どうです、私と一度肌を合わせてみますか?」
 真はユックリと噛み締めるように、白井に問いかける。
 稔は大きくため息を付きながら、右手で顔を覆い
「白井先生、もう知りませんよ…。貴女は、身を持って源真と言う人を、理解して下さい…」
 白井に伝えた。

 稔は白井が取った行動に、真を止めることが出来なかった。
 真の逆鱗に触れた白井は、恐らく源真の名前を一生忘れられないだろう。
 怒った真の荒技は、人の領域を遙かに越えている。
 白井は教師一同の見る中で、どんな姿に変わるのか、稔には分からなかった。
 それを知るのは、唯一術を施す真のみであった。

■つづき

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