夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動29

 春菜が出て行くと合宿組の教師達が、突然立ち上がり次々に職員室を後にする。
 合宿組と黒澤が抜けた、職員室は異様な緊張感から解放され、皆一様にホッとして、胸を撫で下ろしていた。
 一方、職員室を出て行った教師達は、一部の教師を除いて視聴覚教室へ向かう。
 視聴覚教室には、狂がスタンバイしており、モニターの調整をしていた。
「おいおい、まだ庵の出番は、来ないぜ…。後1時間は掛かるんじゃねぇか?」
 狂が入ってきた教師達に告げると
「いえ、やっぱり良い場所を確保したいんで…。楽しみなんですよ…」
 京本がニコニコ笑いながら、狂に答える。
 狂は呆れながら、肩を竦めると作業を続けた。
 教師達は思い思いの席に、陣取り始める。

 視聴覚教室に向かわなかった一部の教師は、1階の職員倉庫に向かう。
 職員倉庫はその名前の通り、職員が使う倉庫に成っていた筈だが、誰1人使う事がない謎の倉庫だった。
 しかも、その大きさは、学校内に各種有る倉庫の中で群を抜いて大きく、体育倉庫すら凌ぐ大きさを誇っている。
 大貫が真っ先に職員倉庫の扉の前に立つと、何時も固く閉ざされている扉の鍵が開いていた。
 大貫の顔がほころび、扉に手を掛けると音も無く、大きな扉がスライドする。
 職員倉庫の中に入ると、2m四方程のスペースが空いており3面を壁が遮っていた。
 入り口横の右手の壁際に、PCが1台置いて有り、それ以外は何も無い。
 余りの予想外の光景に、大貫が呆気に取られていると
「その、PCにあんたの名前を打ち込んでみろ。パスワードは後で決めて、入力しな」
 庵が壁に有った、扉から出てきて、説明する。

 大貫は庵に言われるまま、PCを起動し画面を見つめた。
 PCのディスプレィに、何か型番のようなアルファベットと数字の組み合わせ、それと数量が書かれた表が現れる。
「その、型番の方をクリックしてみろ」
 庵が大貫に説明すると、大貫は表の中の、アルファベットと数字の組み合わせに、カーソールを合わせ、クリックした。
 すると、ディスプレィに拘束具の写真と使用方法、説明と注意書きが映し出される。
「画面の右隅に有るのは残数量と総数量だ、気に入った物が有ったら、エンターを押して数を入力しろ。小さい物ならそこのA扉、大きな物ならB扉から出てくる」
 庵がそう言うと、大貫がポツリと
「在庫管理基幹システム…ですか?」
 庵に問い掛けると、庵は頷き
「それと似たようなモンだな、あれは払い出しを管理するが、搬入は完全に別作業だ。だが、これは返納した時に、ICタグで元の場所に自動で戻してくれる。返納先は1と2の扉だ」
 大貫に補足説明をした。

 大貫は庵の説明に頷き、有る事に気付く。
「あ、あの〜ヒョッとして、この倉庫の中って…ビッシリ責め具が入ってるんですか?」
 大貫の質問に、庵は獰猛に笑いかけ
「ああ、ちょっと慣れた者じゃなきゃ、行き来できない程密集してる」
 大貫に答えた。
 教室2つ分をぶち抜いた広さのスペースに、庵の責め具が満載されている事を、居合わせた全員に告げる。
 大貫は急いでPCに向き直ると、画面を次々切り替え、責め具を見てはキャーキャーと、興奮した声を上げていた。
 大貫の周りには、同じ目的で集まった教師達が群がり、キラキラと眼を輝かせ、責め具に見入っている。
「今の説明、他の教師達にもしておけよ…。俺は行くけど、壊すなよ」
 庵は大貫達に声を掛け、職員倉庫を後にした。

◆◆◆◆◆

 テニスコートでは、沙希と春菜がテニスウェアーに着替え、準備運動をしていた。
 2人は真剣な表情で、柔軟運動をし身体を解している。
 そんな中、沙希の携帯電話が鳴り、沙希が小走りに近付いて、電話を取った。
 二言三言返事をすると、沙希は春菜に向かい
「先生、あの。私をコーチしてくれた方が[試合の審判をしても、構わないか]と仰られて居るんですが?」
 庵の意向を伝えると
「何? コーチの人が来てるの…? 私も会ってみたいから、呼んでも構わないわ。審判も公平にしてくれるならOKよ」
 春菜が沙希に微笑みながら告げた。
(何処のどんな奴よ…、沙希をコーチしたのって…。弱くなってたら、絶対に許さないんだから…)
 春菜は微笑みの下で、沙希のコーチに対する敵意を露わにしていた。

 沙希が返事を返して、2・3分すると、テニスコートに庵が顔を出す。
 それを見た春菜が、柳眉を跳ね上げ
「貴男、この前も言いませんでしたか? ここは、男子生徒が無断で入って来ては、駄目な場所です」
 庵に捲し立てる。
「いや、許可は取ってるよ…。今貴女が良いと言ったから、俺はここに現れたんだ」
 庵が春菜にそう告げると、沙希がテニスコートの入り口に走り出し
「先生、コーチをして下さった。垣内庵さんです」
 入り口の金網を開けて、庵をテニスコートに招き入れた。
「そう言う事なんで、入らせて貰うぜ…」
 庵は大きな体を屈め、テニスコートの金網内に身体を移動させた。

 春菜は、庵の持つプレッシャーにたじろぎながら、曖昧に頷いた。
(この子…この間と雰囲気が違う…。何…、この不安感…。恐怖感…?)
 春菜は後ずさり、庵から距離を取ると、ジッとその姿を見つめ冷汗を掻いている。
 沙希は庵の横に立ち、嬉しそうに微笑んで、庵を見つめていた。
 庵は無表情で、春菜を見つめ
「準備は出来てるのか? 始めよう…」
 静かに告げると、踵を回して審判台に向かう。

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