夢魔
MIN:作

■ 第25章 胎動35

 視聴覚教室では、庵の調教を見て、感嘆の声が上がっていた。
「いや…凄いですね…。テニスがハードプレイに成るとは、思いも寄りませんでした…」
「ええ、しかもあんなに正確に、狙い打てるモンなんですか…」
「いや、それもそうですが、あの雰囲気は中々出せないと思いますわ…」
「そう、それに最後のあれ…試してみたい気もするけど…。一生外せなくなりそう…」
 教師達は口々に庵の調教を褒め称え、その凄さに感じ入っていた。
 そんな中、稔と狂がジッと考え込んでいる。
「狂…気付きましたか…」
 稔が小声で、狂に耳打ちすると
「ああ…ありゃ、おかしい…。プレイで覚えたにしては、板に付き過ぎてる…」
 狂が頷いて稔に答えた。
 稔と狂が話しているのは、当然強いS性を見せた、沙希の事だった。

 稔と狂は視聴覚教室を抜け出すと、庵と沙希を探す。
 2人はテニスコートを後にし、旧生徒会室に向かっている所だった。
 稔達が追いつき声を掛けると、沙希はスッと視線を外して、庵の背中に隠れようとする。
 そんな沙希を訝しげに見詰め、庵に向かって稔が問い掛けた。
「庵…沙希に逆転プレイを教えましたか…?」
 稔の問いかけは、ストレートだった。

 庵は稔の質問に、首を捻ると
「稔さん…俺の事、知ってますよね…俺が教えるわけ、無いじゃないですか…」
 稔に向かって、答える。
「にしちゃ〜、納得できないんだがな…。ありゃ、上手すぎる…。沙希何処で習った…」
 狂が沙希に詰め寄ると、庵が沙希を庇い。
「ちょ、ちょっと待って下さい…一体どうしたんですか…?」
 庵が2人に問い掛けると、稔と狂が顔を見合わせ、頷き合うと
「最近僕達の動きが、何故か理事長に筒抜けなんですよ…。僕も、狂に言われて少し見る目を変えていたんですが、動きがおかし過ぎるんです…」
 稔が庵にコソコソと、耳打ちすると
「それに、おれのPCも、誰か触ってる節が有るんだ…。あそこに入れる人間は限られてるから、それを探してる」
 狂もコソコソと小声で庵に告げる。

 庵はユックリと、身体を起こすと
「で、沙希が怪しいと…。俺本気で怒りますよ…、沙希はこの一週間ずっと俺と一緒でした。学校に来て狂さんのPCを触ったり、誰かに会って情報を教えられる筈、無いじゃないですか!」
 庵は怒りを浮かべながら、稔達に捲し立てる。
 稔達は庵の言葉と、剣幕に気圧された。
 庵は沙希の手を引き、踵を返すと
「兎に角沙希は関係有りません! 俺が保証します」
 稔達に言い放って、学校を出て行った。

 庵の背中を見つめる稔に
「おい…、沙希の態度…おかしかったな…」
 狂がボソリと呟いた。
「ええ…。僕を見る目に、明らかに敵意が有りました…。あれは、催眠を掛けて感情をコントロールしていた時の目です」
 稔が静かに狂に告げる。
「狂…何かが動いてます…、充分気をつけて下さい…」
 暫く考え込んで、稔は静かに狂に告げた。
「ああ、俺の方も、何か調べてみるよ…」
 狂も静かに稔に告げる。

◆◆◆◆◆

 怒りにまかせ、学校を出た庵と沙希は、庵の自宅に向かう。
 庵はジッと黙して語らず、2人の言葉を反芻する。
(沙希が怪しい…。全く…何を言い出すんだ2人は…。沙希は、ずっと俺と一緒だった…。沙希が、俺を裏切る筈なんて無いんだ…)
 庵は苛立ちを浮かべながら、黙々と歩いて行く。
 その後ろを項垂れ歩く沙希は、微笑みを浮かべている。
(うふふ…庵様とあの男が、仲違いしたわ…。これで大丈夫…庵様はずっと、私の側に居られる…私だけの物…)
 沙希が佐山の植え付けた考えに酔っていると、庵の歩幅に遅れ始めた。

 庵は苛立ちながら歩いて居たため、大股で歩き続け、沙希は俯いて歩いて居たため、庵の離れていくのに気付かない。
 フッとした間隙で、沙希はポツリと一人きりに成った。
 顔を上げた沙希の周りに、人影が消える。
 すると、沙希の表情からスッと意志が消え、眠そうな半目に成り、ポケットから携帯を取りだした。
 数度のコール音の後、電話が繋がる。
 沙希の口がユックリ開いて、電話の相手を呼んだ。
「もしもし…おじさま…」
 沙希は佐山に今日有った事を報告し始める。

 通話を終えた沙希が、携帯電話を切り、発信履歴を消すと、血相を変えた庵が、道を戻ってきた。
「沙希! 何してるんだ。何処に電話を掛けてた?」
 庵が沙希を問いつめると、沙希は驚いて庵の顔を見つめ
「え? 電話…してませんよ…?」
 フルフルと顔を左右に振った。
「じゃぁ、何で今携帯を握ってる!」
 庵が更に問いつめると、沙希は泣きそうな顔になり
「じ、時間を見てました…」
 庵に答えた。

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