夢魔
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■ 第25章 胎動36

 庵は沙希の目を暫く見つめ、ふぅっと溜息を吐くと、目線を緩め
「そうか…済まん…。俺が疑ってどうする…」
 沙希に謝りながら、ボソリと呟いた。
 沙希はフルフルと頭を左右に振ると
「いいえ、庵様がお聞きに成られる事に、沙希は何でもお答えします」
 ニッコリ笑って、元気に答えた。
「そうか…そうだよな…」
 庵は沙希の言葉に頷き、沙希の頭の上に手を置くと、ガシガシと頭を撫でる。
 沙希はこの乱暴に撫でる、庵の行動が大好きだった。
(えへへへ…、庵様がこれをするのは、私だけだもん…)
 沙希は眼を細め、気持ちよさそうに微笑んだ。

 庵は沙希の頭の上から手を離すと、自分の頭に持って行きガリガリと掻き始める。
「沙希…済まんな…。今日は一緒に居てやれない…」
 ボソボソと、沙希に告げる。
 沙希は庵の言葉に驚くと、シュンと項垂れ
「え〜…。どうしてですか〜」
 甘えた声を上げて、問い掛けた。
「いやな…この一週間お前の相手をしてただろ…。道具のメンテをずっとして無かったんだ…。貯まってる分を一挙にやらなくちゃ成らなかったんだ…」
 庵は沙希に理由を説明する。
 沙希はぶーっと膨れっ面を作り
「庵様…沙希よりお道具の方が大事なんですね…」
 身体を揺らして、拗ねて見せた。

 庵はワタワタと慌てると、沙希の周りで手を動かし
「いや、俺はお前の方が大事だけど、ほら、その…約束も守らなきゃいけないだろ」
 必死な顔で、沙希に説明する。
 沙希はクスクスと笑い、庵に向き直ると
「その言葉だけで、充分です。庵様困らせてご免なさい、沙希は大丈夫ですから、お仕事頑張って下さい」
 ニッコリ微笑み、目を閉じて唇を突き出す。
 庵は沙希の仕草に、辺りを見渡し誰も居ない事を確認すると、ソッと沙希の唇に口吻した。
 2人は熱い抱擁をしながら、甘い口吻を交わし、身体を離す。
「えへへへっ、庵様有り難う御座います〜」
 沙希は嬉しそうに笑うと、ペコリと頭を下げて踵を返し
「じゃぁ、今日は沙希は大人しく、1人で眠りま〜す」
 庵に別れを告げて、自宅に向かう。
 庵は沙希の姿を見送り、再び学校に戻り始めた。

 1人になった沙希は再び、トロリと目を半目に開き、携帯電話を取り出す。
 ダイヤルを回し、通話を開始すると、直ぐに相手が出る。
「もしもし…おじさま…。沙希…きょうは…1人で…すごすことに…なっちゃった…」
 沙希の虚ろな声に、通話先の佐山は興奮を隠せず
『そ、そうか! 直ぐに迎えを出すから、待っていなさい…。で、今何処だい?』
 沙希に向かって捲し立てる。
 沙希はボソボソと、今居る番地を佐山に告げた。
『良し、直ぐに迎えを送るから、そのまま電話を持っていなさい』
 佐山は沙希に指示を出すと、沙希はボソリと了承した。
 10分後黒塗りのベンツが、沙希の目の前に止まると、運転席から明日香が飛び出し、沙希を後部座席に座らせる。
 沙希を乗せた明日香は、不自由な足を引き摺りながら、運転席に戻り車を走らせた。
 黒塗りのベンツは、猛スピードで町中を抜け、郊外の竹内邸に向かう。
 沙希はベンツの後部座席で、携帯電話を片手に、スヤスヤと眠っていた。

 竹内家の敷地に入った黒塗りのベンツは、使用人棟に向かう。
 使用人棟の入り口には、ずらりと使用人達が列び、皆頬を紅潮させ待機していた。
 黒塗りのベンツが止まると、使用人棟から佐山が飛び出し、後部座席の扉に取り付く。
 まだるっこしそうに、後部座席を開けた佐山は、中で眠る沙希に声を掛ける。
「さぁ、沙希ちゃん。目覚めなさい、みんな待ってるよ…」
 佐山の声に、沙希の目がスッと開く。
 ユックリと身体を起こし、顔をスッと上げた沙希は、妖艶なサディストの顔になっていた。
「おじさま…。お久しぶり…」
 沙希が佐山に挨拶をすると、佐山はニコニコと微笑み
「ああ、久しぶりだね…。みんな、沙希ちゃんを待ってた…存分に遊んでいってくれ」
 沙希の手を取り、ベンツから降ろす。
 沙希がベンツを降りて、一歩足を踏み出すと、使用人達は一斉にお辞儀をする。
 それは、まるで沙希が、真の主であるかのような挙措であった。

 沙希が佐山の自室に入ると、響子を始めとした、10人が選ばれており、皆一様に頬を染めひれ伏している。
「あら、おじさま。お人形ごっこは止めたの?」
 沙希が問い掛けると、佐山は苦笑しながら
「沙希ちゃんに、みんなの相手をして貰おうと思ってね、こいつらに自由を与えたんだ…」
 佐山は自分のお気に入りの、反応を取り戻すために、沙希に相手をさせようとしていた。
 沙希はクスリと笑うと、ひれ伏している女性達を見つめ
「良いわ、遊んで上げる…。でも、ちゃんとしない子はお仕置きよ…」
 艶然と微笑んだ。

 佐山は沙希に擦り寄ると
「所で、聞きたいんだが…。一回目の電話の話で…、バレたってどう言う事だい?」
 沙希の報告の詳しい状況を聞き始めた。
 沙希は佐山に向かって、今日見た事、聞いた事を、事細かく話し始める。
 佐山の表情はその報告を聞く度に、引き締まり険しくなって行く。
(な、何だと…殆どバレてるじゃないか…。こりゃ、やばいな…早急に手を打つべきだ…)
 佐山はジッと考え込み、有る計画を考え出す。
(そ、そうだ…この計画だ。沙希の心にトラウマを作り、邪魔者を排除する一挙両得だ…。だが、下手な理由付けは命取りになる…。沙希自体が壊れかねん…ここは、慎重に催眠を掛けてやる…)
 佐山は真剣な表情で考え込み、沙希を見詰めてニヤリと笑った。
「沙希ちゃん…。大事な話が有るんだが…」
 佐山は沙希に笑いかけ、深い催眠状態に追いやった。

■つづき

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