夢魔
MIN:作

■ 第26章 開幕7

 ストレスが溜まるだけの採点作業を切り上げて、牧村光(まきむら ひかる)は第2体育館に向かった。
 この学校には、球技や行事を行うための大きな第1体育館と、体操部や新体操部、ダンス部などのフロアーを使う部活専用になっている第2体育館が有った。
 光は新体操部の顧問として、この第2体育館の管理を、体操部顧問の坂下恵美(さかした めぐみ)と共に、委されていた。
 恵美はまだ教室で、解答用紙と格闘中だったため、光1人で汗を流すためがてら、巡回に来たのだった。
 光は更衣室で練習用のレオタードに着替え、棍棒やボール、リボンなどを持って、体育館に入り身体を解し始める。

 光はこの春24歳になったばかりで、教育実習を終え直ぐにこの学校に採用された、社会科教師で[まだ、学生気分が抜けない]と、良く先輩教師に叱責されては、体育館で1人汗を流し、ストレスを発散させている。
(この頃…身体がおかしいわ…変に、熱を持ってたり…。フワフワと身体に力が入らなかったり…。夜、夢見がおかしいのもそのせいかしら…。きっと、このテストの結果のせいね…、あぁ〜あ…折角旅行行こうと思ってたのに…これじゃ、夏休み返上で補習だわ…)
 光は形の良い頬を膨らませ、ピョンと跳び上がり柔軟体操を終わらせ、軽くステップを踏み、側転を始める。
 身長165pの体操選手としては、大柄な身体がクルクルと綺麗に回転した。
 3回目の側転で身体を捻り、ポンと後ろ向きにジャンプする。
 空中で一瞬膝を抱え身体を丸め、綺麗に足から着地してポーズを取った。
(おっ! 決まったね…。光ちゃんさっすが〜…)
 ニッコリと微笑んで、心の中で自分を褒める。

 光は体重52sのスリムな身体を、リズム良く動かし走り出すと、今度は前転を始めた。
 クルクルと2度回り、3度目の着地の瞬間足を前後に開いて、ピタリと開脚のまま着地する。
(お〜っ! また決まった〜! 今日は何だか調子良いわ…。最近体重が増えたから、動きが鈍くなってるかと思ったけど、全然平気…寧ろ良くなってるんじゃない…?)
 光は開脚のポーズのまま、少し増えた体重も気に成らなくなり、自分の身体を触りまくった。
(Cカップの胸も、この学校じゃ目立たないけど、私達の世界じゃ大きい方だし、腰だってほらこんなに細いのよ…。お尻が小さいのは、キュートって言って欲しいわね…)
 小振りの引き締まったお尻に手を充て、ニコニコと笑う。
 実際光のサイズは、バスト80p、ウエスト57p、ヒップ82pと十分な数字だった。
 その上手足が長く、細くしなやかに伸びており、小さな顔と相まって、見事な8頭身を作っている。

 光は小さく[よっ]とかけ声を掛けると、両手を前に着き、そのまま身体を持ち上げ、逆立ちをして足を抜き、ピンと身体を伸ばした。
 綺麗な倒立をすると、クルリと身体を回し、着地する。
 光はパンパンと手を叩きながら、道具が置いて有る場所に向かい、棍棒を取り上げクルクルと、手で回し始める。
 始めは目の高さ程で回していた棍棒を、ジャグリングのように複雑に、回しながら高さを上げてゆく。
 十分な高さになると、身体の前背面と分けて投げ始め、クルクルと身体も回し始める。
(う〜ん…今日は本当に調子が良いわ…、思った所に棍棒が行くし、思ったタイミングで手に戻ってくる…)
 光は嬉しくなって、夢中で棍棒の練習をしていた。

 そんな光の練習を、1人の男が入り口で、ジッと見詰めている。
 柔道着を着込み、首にタオルを巻いて、汗だくの姿で光を見詰める男。
 体育教師の山源こと、山本源治だった。
 光がその姿に気付いて、棍棒を取り落とすと、山源がユックリ体育館に入って来た。
 光は手に残った棍棒を、ギュッと抱き締め、山源の姿をジッと見詰める。
(やばい…。無断で使ってるの…見られた…。また怒られちゃう…)
 山源も、光をよく叱責する先輩教師の1人で、光は正直恐くて仕方がなかった。

 山源はユックリ光の3m程前迄来ると、手に持ったミネラルウォーターのペットボトルを、光に向かって1本放り投げる。
 光はユックリ放物線を描いて、自分の胸に向かって来る、ペットボトルをキャッチすると、驚いた目で山源を見詰めた。
 山源はニヤリと笑いながら、光るに渡したペットボトルを顎で指し示し
「やるよ…飲め。身体を動かす時は、水分補給は大事だぜ…」
 そう言いながら、自分も持っているペットボトルの水を、一口煽った。
 光は自分の受け取ったペットボトルと、山源の顔を交互に見つめて
「あ、あの…。今日は怒らないんですか…」
 上目遣いに問い掛けると、山源は煽っていたペットボトルから、口を離し
「お前、俺の格好見て解んねぇか? 俺も、お前と同類だから、言えねぇんだよ…。おっかない合宿で溜まったストレスを発散してた所だ…。俺もよ、お前と同じで動いて、ストレスを発散する方なんだ」
 そう言って、ニヤリと笑いかけた。

 怒られないと解った光は途端に安心し、山源に貰ったペットボトルの封を切って、口を付ける。
 ミネラルウォーターは良く冷えており、火照った光の身体に気持ち良かった。
 光は水が喉を通って、自分の喉が渇いていた事に、初めて気付きゴクゴクとその水を飲んだ。
 光は最初の一口で、ペットボトル2/3程を飲み、[ぷふぅ〜〜〜っ]と大きく息を吐いて、手の甲で唇を拭った。
 山源が呆れ顔で見詰め
「お前よう…いい女なんだから、[ぷふぅ〜〜]は止めろよ、[ぷふぅ〜〜]は…。それとこれもだ…」
 光の大息と手の甲で唇を拭う仕草を注意した。
「あ…すいません…って…、今先生私の事、[いい女]って言いました?」
 光はペコリと謝ると、山源の言った言葉に、食いついた。

 山源はその光の勢いに、若干押されながら
「お、おう…言ったよ…。だって、誰がどう見てもいい女だろ? 何かおかしいか?」
 光の言葉を認めると、光は満面に笑みを浮かべ
「やった〜。嬉しい〜…。あ〜良かった、ここ3年で久しぶりに聞けた…。この学校に来て、ズッと言われてなかったんですよ、その言葉…。大体、卑怯すぎるんです、この学校の構成! 形容詞が[綺麗]か、[可愛い]以外無いんですよ! そんな中に居たら、私なんて普通も良い所ですよ…。その上、みんなスタイルも良いなんて、卑怯すぎません? 有り得ないわよこんな学校…」
 日頃溜まっていた不満を、一挙に捲し立てた。

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