夢魔
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■ 第26章 開幕14

 大貫の携帯電話の画面には、中年男性がニヤニヤと笑いながら、肩越しに視線を向け、今まさに左手で直美のお尻に触れようとしている写真が、映し出されていた。
「これ、立派な証拠写真ですわね? この顔が本当に、偶然触れていた男の顔かしら?」
 店員は問いつめる大貫に、言葉も無く後ずさる。
 中年男性は顔を引きつらせて、荷物をまとめ始め逃げる準備をした。
「あら、どうしたの? 警察に説明しなさいよ。今、貴男がその口で言った、大嘘!」
 大貫の言葉に中年男性は、[う、うるせ〜]と怒鳴りながら、その場から逃げ出した。
「逃げたという事は、事実を認めたのよ。この店は犯罪者の、逃走幇助までするの?」
 大貫の言葉に店員は、中年男性を捕まえる以外、道は無かった。

 レジから店員2名に両脇を抱えられ、中年男性が引き返してくる。
 大貫はその姿を見て、直美と奈々に問い掛けた。
「で…。貴女達はどうするの?」
 直美と奈々は、大貫の問い掛けにビクリと震えると
「け、警察沙汰は良いです…。謝罪して貰えれば…」
 小声で自分達の要望を、店員と中年男性に告げる。
 大貫は、直美の答えを[ですって…]と小さく店員に告げると、興味を無くしたように自分の席に戻った。
 中年男性と最初の店員は、床に土下座して直美と奈々に謝罪した。
 謝罪を受ける、直美と奈々の後ろで
「酎ハイお代わり」
 大貫が別の店員に、空のジョッキを差し出し、お酒のお代わりを注文していた。

 店員と中年男性が目の前から消え、店内に元の喧噪が戻ると、直美と奈々は大貫の元にやって来る。
「あ、あの…。本当に有り難う御座いました〜」
「あのままだと、悔しくて夜も眠れ無く成る所でした」
 直美と奈々は勢い良く、頭を下げて大貫に感謝した。
「そんな、言葉なんか良いから…。飲み物ぐらい奢りなさい」
 大貫は1/5程に成った、注文したばかりの酎ハイのジョッキを差し出し、2人に告げる。
「は、はい! 直ぐに、注文します」
 直美は振り返って、店員を呼ぶと大貫の酎ハイを注文した。

 直美と奈々は、コソコソと話しながら、意を決して大貫に申し出る。
「あ、あの〜大貫主任…。ご一緒しても宜しいですか?」
 2人の申し出に、大貫が驚いた表情を浮かべ
「私は、構わないけど…。貴女達良いの?」
 問い返した。
 直美と奈々は、オドオドとしながらも、ニッコリ笑うと
「是非、お願いします…」
 大貫に依頼した。

 数分後大貫を囲むように、右側に奈々、左側に直美が座り、笑い合っていた。
「大貫先生、お酒強いんですね〜。すっご〜い」
 直美が感心して、大貫に告げると
「女もこの年まで、1人で居ると自然と強くなる物よ…」
 大貫はクスリと微笑み、ジョッキを傾ける。
「でも、大貫主任ぐらい綺麗だと、彼氏とかいらっしゃるでしょ?」
 奈々の質問に、大貫はフフフッと妖しく笑うと
「貴女達が、綺麗なんて言ったら嫌味になるわよ…。彼氏なんか居ないわ、面倒なだけ…。それに、私を従わせる男なんて、中々居ないのよね…」
 奈々の目を覗き込み、答えを返す。

 奈々は大貫の目線に刺し貫かれ、ドキリと胸を高鳴らせた。
(や、やだ…。大貫先生の視線…。何だか、変わったわ…。色っぽい…? ううん、それだけじゃなくて…ゾクリとする…)
 大貫のサド性に、奈々の目覚めさせられたマゾ性が反応し、子宮を熱くさせる。
 奈々はモジモジと、足を擦り合わせ
「す、すいません…。あの、おトイレに行って来ます…」
 スッと立ち上がると、大貫の左側から[あ、あたしも〜]と、直美が手を上げ、酔った舌っ足らずな声で付いて行く。

 1人残された大貫は、クスリと妖しく微笑むと、鞄の中から錠剤を2個取り出し、スッと2人の飲み物の中に落とし込む。
(ふふふっ、お馬鹿さんね…。この程度で、人を信頼しちゃ直ぐに騙されるわよ…)
 大貫は薬を仕込み終えると、携帯電話を取り出しコールする。
「あ、もしもし、大貫です。はい、こちらで捕まえました…。そちらの、エキストラは帰していただいて結構です。でわ、後ほど…」
 大貫は通話を一旦切ると、再びコールして同じ内容を告げた。
 実は直美と奈々に絡んだ、中年男性は大貫達が用意した物だった。
 そして、この近くの居酒屋で、この2人が出入りしている別の店には、黒澤と大城が待機し、合流する予定の店では、井本が準備を進めている。
(さてと、準備はOKよ…。後は例の店で合流ね…)
 大貫の微笑みは、強さと妖しさを増し、見る物を凍り付かせる物に変わって行った。

 トイレから戻ってきた2人が、席に着くと大貫は笑顔を元に戻し、話しを始める。
 その会話は巧妙に2人を、猥談に引き込み始めた。
「え〜…そうですねぇ〜…。あたしは、ちょっと恥ずかしいのが好きかも知れない〜…」
 直美が頬に手をあて、ポツリと呟くと
「私は、強引な人に弱いかも…。ちょっと、強く出られると…断れないんです…」
 奈々が酔った目で、トロリとしながら呟いた。
 だが、2人ともその言葉を呟いて、驚きながら口を押さえ
「な、何言ってるんだろ…恥ずかしい〜…」
「や、やだわ…こんな事言うなんて…。ちょっと、飲み過ぎちゃったのかしら…」
 言葉を誤魔化そうとする。

 大貫はクスクスと笑い
「良いのよ…、女同士なんですもん…。それに、人それぞれ性癖は有る物よ…。私も、人に言えないような事経験してるわよ…」
 2人の告白を肯定し、自分の事を語る。
「え〜大貫先生でも、そんな事有るんですか?」
 直美が驚きながら、大貫に問い掛けると
「直美…、大貫先生に失礼よ[でも]って、何よ…[でも]って…。ねえ、大貫先生…」
 奈々が直美の言葉を咎め、大貫に同意を求める。
「ふふふっ、ここで合ったのも、何かの縁かしらね…。良い、貴女達を信頼して、私は話すのよ…。絶対に秘密だからね…」
 そう前置きをして、大貫が話し始めた。

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