夢魔
MIN:作

■ 第26章 開幕23

 黒澤が太く鋭い声を掛けた瞬間、ビクリと大きく由香の身体が震え、由香の口から奇妙な声が漏れ始める。
「あああああああああああ〜ううううううううう〜〜いいいいいいいい〜〜〜ひぃぃぃぃぃぃ…」
 その声は始めは低く太かったが、徐々に高くなり、最後は聞く者の心に爪を立てるような声だった。
 その場にいた全ての者が、藤田由香は自分の世界を閉じてしまったと、本気で思った。
 だが、黒澤の絶対的な支配力をこの後全員目撃する。
 黒澤の右手がスッと持ち上がり、由香の白いお尻に振り下ろされる。
 バシィーーーン!
 乾いた肉を打つ音が、部屋中を満たし
「忘れたのか! お前は何だ!」
 黒澤の鋭く重い声が、由香に降り注ぐ。

 由香の身体がビクリと跳ねるが、声は止まず黒澤は再び、右手を持ち上げ振り下ろす。
「忘れたのか! 私は誰だ!」
 肉を打つ音と、鋭く重い声が再び由香に掛けられる。
 由香の身体は先程より、大きく跳ね上がり、ビクビクと痙攣し始めた。
 三度黒澤が右手を打ち付け
「忘れたのか! 誓った言葉を!」
 黒澤の迫力有る言葉に、由香の耳障りな声がピタリと止まり、痙攣はおこりのような震えに変わる。
 由香の何処にも焦点が合っていない、大きく見開いた目から、ポロポロと大粒の涙が溢れ始めた。
 黒澤が更に由香のお尻を打ち付けると、由香の口から低く微かだが、官能の声が漏れる。

 黒澤は由香の後頭部に手を回し支え持つと、打擲場所をお尻から身体全体に変え、打ち据えてゆく。
「お前は何だ!」
「お前は誰だ!」
「私は誰だ!」
「お前の何だ!」
 黒澤は鋭く重い声を掛けながら、由香を打ち続ける。
 由香の左半身は、見る見る真っ赤に腫れ上がり、見る者の目を背けさせる程だったが、由香の口から溢れる、微かな声にそれも出来無くなっていた。
 由香の口からは、微かだがハッキリと黒澤の問いに対する答えが、官能を含みこぼれ落ちている。

 何十回と続く黒澤の質問に、虚ろだった由香の瞳にチラチラと光が差し始めると、微かだった答える声は、誰の耳にもハッキリと聞こえるように成っていた。
 黒澤の打擲する手は、右から左に変わり、由香の右半身を打っている。
「お前は何だ!」
「わたしはペット…」
「お前は誰だ!」
「わたしは由香…」
「私は誰だ!」
「ごしゅじんさま…」
「お前の何だ!」
「しはいしゃさま…」
 由香の抑揚のない声が、ハッキリと質問に対する答えを返す。

 由香の首から下の全身は、余す事無く真っ赤に腫れ上がり、ブルブルと震えている。
 掌による打擲と言えど、庵に匹敵する膂力を持つ黒澤の力で、何の加減も無く打ち据えられれば、当然の事であった。
 黒澤が由香を支えていた手を外すと、由香は自分の力で立ち上がり、更に打ち据えられた。
 そんな中、茫然と見ていた井本は、自分の顔に水滴が降り注いでいる事に気が付いた。
 それは、自分の顔のみ成らず、全身に降り注いでおり、驚いて周りを見ると、部屋中に降り注いでいたのだった。
 その、降り注ぐ物とは、鮮血だった。
 井本は周りを見回し、その血の出所を探し、直ぐに見つける。
 血は黒澤の爪の間から、滴っていたのだった。
 黒澤は打擲による衝撃で、爪が浮き上がり鮮血を流す程の力で、由香を打ち据えていたのだ。

 黒澤の与える刺激に、由香の身体が反応を始める。
 フラフラと蹌踉けていた手足に、少しずつ力が入り、揺れが小さくなり、目の中にも表情が戻り始めた。
 その変化を見定めた、黒澤は由香の頬を両手で同時に張り、シッカリと頭部を掴んで固定すると意志が宿り始めた瞳を覗き込み
「由香何をしている…。どこで、遊んでいる…。お前の存在理由を忘れるな…」
 慈しむような深い重い声で、優しく語りかけた。
 黒澤の低く響く声が、由香の耳朶を打つと、由香はフルフルと震え、ポロポロと大粒の涙が流れ落ちた。
 由香の身体がブルブルと震え、力無く下がっていた腕がユックリと持ち上がる。
 黒澤が優しく微笑むと、見開いていただけの目に完全に表情が戻り、クシャクシャに歪んで泣きじゃくった。
「くすん、はん、ふぇぇぇ〜ん…恐かった…恐かったです〜っ…由香、由香…暗い穴の中で…恐かったです〜〜〜っ」
 完全に意志を取り戻した由香は、黒澤の胸に縋り付き、号泣を始めた。

 それを見詰めていた全員が、息を飲み言葉を失う。
 黒澤は由香の頭を抱え込み、その頭を優しく撫でさすった。
 茫然と見守っていた、大貫がヨロヨロと黒澤に歩み寄り
「く、黒澤…先生…。一体…何が起こったんですか…?」
 掠れた声で、黒澤に問い掛ける。
 黒澤は視線を大貫に向けると
「これですか? 躾が終わったんですよ…。私の躾がね…」
 ニッコリと微笑んで、答えた。
 大貫は目を大きく見開き、由香を指差して
「えっ…、私には、余り変わったようには、見えないんですが…」
 ボソボソと問い掛けた。

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