夢魔
MIN:作

■ 第26章 開幕39

 美由紀を連れて、教室を出た真は、非常に困っていた。
(参りましたね…。私自身が使える部屋というのは、この学校には有りませんし、かと言って私の家は、今は薬草の乾燥場に成っています…。確か、新庄先生は学校の女子教員宿舎…。いやいや、それ以前に他人が介入するかも知れない場所で、この香は焚けませんし…う゛〜〜〜ん…困った…)
 真が考えながら廊下を歩いていると、真の携帯電話にメールが入る。
 真はドキリとして携帯電話を取り出し、慌てて確認すると
[真様、お仕事早く終わりそうです。稔様が、お気を回して下さり、美香さんと美紀さんを早めに交代で、来させてくれるように成りました。あと1時間でお会いできます…。待ち遠しくて堪りません]
 弥生からの連絡メールだった。
 真は弥生からのメールで時間が押し迫っている事を知り、美由紀の治療をしようにも場所がない事に頭を悩ませ、大事な事を忘れていた。

 真は取り敢えず人目に付きにくく、最も自分が通い慣れ、合い鍵も持っている、保健室に入って方針を決めようとする。
(う〜ん…どうしよう…稔君もダブルブッキングですよ…私に、依頼しておきながら…、弥生の仕事の時間を早めるなんて…。んっ? ちょっと、待って下さい…今日は、確か…)
 真は有る事に気付き、顔から血の気が引いて行く。
 美由紀はベッドが有る保健室が、治療の場所だと思い準備を始めた。
 真は慌てて携帯電話をポケットから取り出すと、稔に急いで電話をする。
 余りに慌てていた真は、美由紀が服を脱ぎ始めている事にも、気付かずコール音を聞いていた。
 携帯電話に集中する、真の背中を見ながら、そそくさとブラウスを脱ぎ、スカートを降ろす美由紀。

 稔が数度のコールで、直ぐに電話口に出る。
「あ、あの。稔君! 今日私に白井先生が、予約を入れたの知ってますか?」
 真がコソコソと電話で話すと、稔はあっさりとした声で
『いいえ、知りませんよ…と言うか、今日真さんは、休養日だった筈でしょ? それで僕は、玉置さんの家に、美香と美紀を向かわせましたよ…。確か、今から1時間半程前です…』
 稔がそう言った瞬間、保健室の扉が開き目の前にスーツを着込んで、着飾った弥生が現れた。
 真はその弥生の姿を見て、一言携帯電話に[あっ]と呟く。

 携帯電話が拾う音と、真の声を聞き、状況を何となく理解した稔が
『えっと…あの…済みません…』
 真に謝りながら電話を切る。
 稔が携帯電話を切る音と、弥生の視線が寂しそうに俯くのと、真の顔が引きつるのが、全く同時だった。
 真は慌てて後ろを振り返り、美由紀の姿を見て愕然とする。
 後ろで立ちつくす、美由紀はいつの間にか全裸に成っていた。
「や、やよ…上郷先生! ちが、これは、あの…いや…」
 しどろもどろになると、弥生はそのままクルリと背中を向けて、保健室から出ようとする。

 真はその行動で、全てを決めた。
「待って下さい、弥生! 直ぐに止まりなさい!」
 ビンと響く声で、弥生に命令すると、弥生はその声に反応して、思わず動きを止める。
 真は立ち止まった弥生の腕を素早く掴み、力強く引き寄せる。
 弥生は、真の初めてと言える命令と、強引な態度に驚いていると
「新庄先生、ご存じでしょうが、養護教員の上郷先生です。彼女は私に取って、掛け替えの無い大切な伴侶です」
 真の言った言葉に、更に驚き目を見開いた。
 真が美由紀にそう告げるのと、ほぼ同時に廊下を足音が走って来て、誰かが保健室の扉を開く。
 息を切らせた稔が、開いた入り口の前に立っていた。
 美由紀は様々に変わる、状況に付いて行く事が出来ず、完全に固まっている。

 5分後保健室には、稔、狂、真、弥生、美由紀の5人がそれぞれの場所に居た。
 稔が部屋に入って、暫く立ってから狂が息を切らせて、保健室に現れ、呼吸が整う迄、誰1人口を開かなかった。
 沈黙が支配していた、保健室の緊張を破ったのは、真だった。
「もう、私は我慢できません。例え、我が侭だろうと、学校をクビに成ろうと、この計画から外されようと、私は弥生を他人に預ける気は、絶対に有りません! 弥生は私の伴侶にします!」
 真はいつになく、強い口調で稔達に言い切った。
「真さん…そりゃ良いけどよ…。真さんだけの、意見でそれがまかり通らない事は、知ってんでしょ…」
 真の言葉に、狂が意見を言うと、稔が口を開く。
「そうです。その言葉は、僕達に言うより先に、確認を取るべき人に、確認を取りましたか? 自分の考えだけで、その話しを決めたのなら、僕は真さんを軽蔑してしまいますよ…」
 稔は静かに真に告げながら、スッと手を弥生の方に指し示し、問い掛ける。

 真は稔の言葉にハッとしながら、弥生を振り返り見詰める。
 弥生は真に見詰められ、スッと視線を逸らし、チラリと美由紀を見て、真っ直ぐに稔を見詰めると
「私は、稔様に奴隷としてお仲間に入れて頂き、様々な快楽や礼儀を教えて頂きました。それは、どれも強烈に私の心を引き寄せ、酔わせ、震わせる物でした…」
 静かに告げ、目を伏せた。
 稔が無言で頷くと、弥生はスッと視線を真に戻し
「その中でも、私を引き込み離さなかったのは、有る1人の男性の存在です…。その方は、類い希なる知識と技術…、優しさと包容力を持ち、私を癒し支え包んでくれました…。素晴らしい男性だと…、私如きには勿体ない男性だと…常々思い、少しでも相応しくなりたいと、思っておりました…。その方の元へ、私は行きたいです…」
 深々と頭を下げて、弥生は稔に告げる。

 稔は大きく頷くと
「弥生の言うとおりの存在ですね…。決して、些末な嫉妬のような物で、縛ってはいけませんよ…。それは、あの方に対する否定以外の何物でも有りませんからね…。それを、理解しているなら、僕の元を離れて行きなさい」
 弥生に優しい声で告げた。
 弥生は稔に深々と頭を下げて
「稔様…。お世話に成りました」
 ハッキリとした声で、稔に別れを告げる。

■つづき

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