夢魔
MIN:作

■ 第26章 開幕42

 異物は真のコントロールの元、美由紀の体組織自らが、押し出し次々に外部に弾き出す。
 子宮の奥とクリ○リスに付けられた、火傷の後に丁寧に[気]を通して、道を造り組織を活性化させ、感覚神経を目覚めさせる。
 真は美由紀の身体の中に、良質な[気]を充満させ、自然治癒力を高め、バランスを整え、澱みを押し流す。
(こ、こんなの…すごい…。溶けてゆく…身体が…溶け崩れてゆく…。溶けていい…こんな身体…溶けてしまえ…。狂ってしまう…。狂ってしまいたい…。壊れてしまう…。壊してください…。イヤ…。うれしい…)
 美由紀は、溢れ出す相反する感情の声を聞きながら、体中を駆けめぐる蕩けてしまいそうな熱を感じ、快感に震え、歓喜し、泣いた。

 美由紀の心の声は、ひとつの願望である。
 白井により苛め抜かれた、美由紀の自己破壊と自己防護の相反する心が作った、イメージだった。
 精神の奥底に押し込み、堅く蓋をし、忘れ去ろうとした感情。
 その感情は、感覚が爆発し、掘り起こされ、浮き彫りにされて頭の中を駆け巡る。
 身を切り刻まれるような、感情が美由紀を襲うが、すぐに暖かな暴風雨のような快感が、身体の内側を洗い流す。
 美由紀は、快感、多幸感、昂揚感、充足感に満たされながら、過去のトラウマを薄れさせ消してゆき、その美しい肢体を妖しく揺らした。

 真は2時間を掛けて、念入りに美由紀の施術を行った
 真言の韻律が緩やかに終わると、弥生が美由紀の身体から離れる。
 弥生の身体はピンク色に染まり、全身汗だくになっていた。
 真は膝に抱えていた美由紀を、ユックリと抱え上げソッと床に寝かせる。
 美由紀は大きく目を開き、滂沱の涙を流しながら、ピクピクと痙攣していた。
(よかった…。今まで…女に生まれて来た事を、何度後悔して…怨んだだろう…。でも…、救われたわ…。今日、源先生に抱かれて…後悔なんか無くなった…。こんな、幸福感に浸れるなんて…女で良かった…。ありがとうございます…ありがとうございます…)
 美由紀は真の目をジッと見詰め、何度も心の中で感謝する。

 真がニッコリと微笑んで、美由紀の顔を覗き込み
「まだ、暫くは動けないと思いますよ…、今の貴女の身体は、注ぎ込んだ[気]に対して、感覚がついて行ってない状態です。心を落ち着けてユッタリとした気分で、横に成っていて下さい」
 身体の状態を美由紀に伝えると、美由紀は目で頷き、言われたとおり身体の力を抜いた。
 真は[気]を湛えたままの掌を美由紀の身体の上に乗せ、優しく撫でさすり、美由紀の感覚が落ち着くのを促す。
(ああぁ〜…身体が軽いわ…いつもシクシク痛む、お腹も治ってるし…、頭痛も無い…。凄い…これが、源先生の…治療…。こんな事が出来る源先生って…何者…? ううん…何者でも構わない…私はこの方に全てを委ねるの…)
 美由紀はウットリと目を閉じ、真の手の感触に身を委ねる。

 暫くすると美由紀の身体が、美由紀の意志通りに動き始め、真の手にソッと触れ
「み、源先生…」
 艶を含んだ瞳で見つめ、真の名をソッと呟く。
 真はにこやかな微笑みを作ると
「何ですか…?」
 優しく穏やかな声で、問い掛ける。
 美由紀が口を開こうとした時、スッと弥生が割って入り
「新庄先生…貴女が思っている事、感じている事は、解ります。その気持ちは、間違いではないですが、私の前では言わないで下さい。真様に[気]を与えられて、貴女の今の気持ちを抱かない女なんて、絶対に存在しないと思いますから、私はそれをとやかくは言いません。ですが、場所とタイミングは考えて頂けますか?」
 無理矢理感情を抑えたような声で、美由紀に告げた。

 美由紀は保健室の一件で、真と弥生の関係を知って居たのに、思わず真に縋り付き求愛しようとしたのだった。
 美由紀は弥生の言葉で、自分を取り戻し頬を赤く染め、真達から顔を背ける。
 弥生は美由紀の態度を見て、ハッと我に立ち返り
(いけない…、こんな嫉妬心…真様の邪魔にしか成らない…。稔君に言われたばかりなのに…。この人は、真様の力を必要としている。私には、それを止める権利なんて…)
 自分の嫉妬心で、美由紀に告げた事を後悔しながら、唇を噛んでその場を離れようとした。

 スッと立ち上がった弥生が1歩下がると、身体が大きく傾いで膝を付く。
 真は素早く弥生に寄り添い、身体を支えると
「大丈夫ですか? だから、私は言ったんです…。修行もしないで、こんな治療に加わるのは危険ですと…。どこか辛い所は有りませんか?」
 心配そうに弥生の顔を覗き込み、優しい声で問い掛ける。
「はい、大丈夫です…。少し足の踏ん張りが効かなかっただけですわ…。そんな事より、今日治療のお手伝いをさせて頂いて、初めて解りましたが、私は、真様のお身体の方が心配です。サポートとして、加わっただけで、この疲労…[気]を操り、循環させる真様の疲労は比べものに成らない筈…」
 弥生は真の顔を心配そうに見つめ返し、真の疲労を案じた。

 真はニッコリと微笑み
「私は大丈夫です。修行をして身体を作っていますし、慣れても居ますから…」
 優しく話し掛け、弥生の憂いを拭ってやる。
 弥生は目を伏せ、今迄真に対して自分が掛けていた負担を、改めて知らされ、身を砕かれる思いに駆られる。
 真はそんな弥生の心中を察し
「今回は特別な事をして、疲労が有りましたが、普段はこれ程では無いんですよ。それに、弥生が手伝ってくれたお陰で、私の疲労は極力少なかったですし、効果もかなり上がりました…。本当に有り難う」
 ニッコリ微笑んで優しく髪の毛を撫で、労をねぎらい感謝した。

 美由紀は真と弥生の会話のやり取りで、この施術が特殊な物なのを認識し、相当な負担が掛かる事も知った。
 考えてみれば当然の事であるが、ノーリスクで真の様な事が出来るなら、もっと評判になっている筈だ。
 それが、今日の今日まで全く聞いた事すら無いのは、その施術の方法も有るだろうが、術者のリスクによる物が大きかった。
 弥生はそんなリスクを負いながらも、美由紀のために身体を投げ出したのだ。
(わ、私何て事を言おうとしてたの…。こんなに、良くして頂いたのに…、上郷先生と源先生の関係を知っていながら…、
源先生に…言い寄ろうとするなんて…。恥知らずもいい所だわ! 人として最低だわ…)
 美由紀は深く反省しながら、自分を責める。

 そんな美由紀に弥生が近づき
「新庄先生、そんなに落ち込まないで…。貴女が思った事は、誰でも思う筈よ…、だから、そんなに自分を責めないで…。折角真様が直して下さった身体が、また悪いほうに行くわよ」
 微笑みながら、美由紀を慰めた。
 美由紀は他ならぬ弥生に慰められ、驚きながらも感謝し
「ありがとう…ありがとうございます…。上郷先生…本当にごめんなさい…。本当にありがとう…」
 弥生の手を取り、縋り付いて泣き崩れる。
 弥生は困ったような顔で[良いのよ]と優しく囁き、弥生の肩を撫で続けた。

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