夢魔
MIN:作

■ 第27章 誓約6

 しかし、運命は2人に味方する。
 怒り狂っていた大城の足がピタリと止まり、スッと頭を下げて動かなく成った。
 2人は大城の態度に、驚きを浮かべる。
 大城が頭を下げて、礼を尽くしているのは、まごう事無く学生なのだ。
 1人の男子生徒と2人の女生徒。
 柳井稔と森川美香と美紀の3人だった。
「お早うございます」
 大城は頭を下げた状態で、先ほどの剣幕はどこ吹く風で、涼やかな声を出し、稔に朝の挨拶をする。
「お早うございます。大城先生」
 稔がにこやかに挨拶を交わすと、美香と美紀も挨拶をした。

 ただそれだけの事なのに、直美と奈々はそこにハッキリとした上下関係、主従に近い関係を感じ取る。
 大城の身体が、ピリピリと緊張している事も理解出来た。
 稔は直美と奈々を見詰めると、ピタリと足を止め
「大城先生…確かこのお二方は…。どこまで、お進みですか?」
 大城に問い掛けると、大城はガバリと頭を起こし
「はい、昨夜誓いまで立てたのですが…」
 稔に報告しようとするが、稔はそれを手で制し、眼鏡を取って直美と奈々を見詰めると
「悩んでおられる…、そう言った所ですね…。誰でも、葛藤は有ります。どんな事でも、やり直しもききます…。ですが、それが極端に狭い世界だと理解して下さい…。それが、僕たちの世界です」
 サディストの圧力をドンドン高め、2人に告げた。
 稔がサディストの圧力を高めると、それに合わせるかのように、後ろに控えた美香と美紀の妖艶さが増し始める

 直美と奈々は稔達の圧力が強まるに従い、目を大きく見開き膝が笑って、立って居られなくなる。
 稔はそんな2人に、圧力を消しフッと微笑みかけると、再び眼鏡を掛け会釈して去って行った。
 直美と奈々はペタリと廊下に座り込み、稔達の後ろ姿を見送る。
「どう…。あんな男性見た事が無いでしょ…。雄としても、男性としても、ご主人様としても…、最高峰の方よ…。16歳も違うけど…私もサディストだけど…あの方に傅いてみたい…。傅けるなら…死んでも構わないわ…。森川さん達を見たでしょ…あそこまで、磨き上げて頂けるなんて…羨ましいわ…。私達の最終目的は…あんな雄を探して…傅く事よ…永遠にね…」
 大城はウットリと歌うように呟く。
「い、今のは…何なんです…。見る見るうちに身体が熱くなって…足が震えました…」
「凄い…凄いです〜…。黒澤先生みたいです…。今の確か2年の柳井君ですよね…彼…凄い〜…。美香ちゃんと美紀ちゃんも、凄く色っぽかった…あんなの、反則〜…」
 直美と奈々はペタリと床にへたり込んだまま、驚きの表情で呟いた。

 大城が我を取り戻し、その場を立ち去ろうとすると、慌てて直美が身体を大城に向け平伏し
「大城様お願いします! もう一度、もう一度直美にチャンスを下さい。私にあの世界を教えて下さい!」
 必死な顔で懇願すると、奈々がその横に並んで平伏して
「直ちゃん駄目よ! 大城様は私のご主人様! 直ちゃんは大貫様じゃない! お願いします、奈々にもう一度チャンスを下さい! 服従させて下さい! 何でもします、絶対逆らいません! もう、嫌だなんて、絶対考えません!」
 大城に必死な声で懇願する。
 大城はムッとした表情のまま、2人を見下ろし
「あんた達、馬鹿? 私は言って置くけど、立場は一番下。黒澤様、大貫お姉様の下なの。その私に懇願したって、私が許せる筈無いでしょ? 先ず筋を通しなさい、大貫お姉様に謝罪して、許可を貰って黒澤様に謝罪するの。それが筋でしょ」
 呆れた声で2人に告げた。

 直美と奈々は顔を上げて、泣きそうな顔を見せ
「どうすれば、お許し頂けるんでしょうか…?」
 大城に質問すると、大城は完全に呆れ顔で
「馬鹿ね〜、ホント馬鹿…。そんなの、自分で考えるから、価値が有るんでしょ! 何から何まで、人に頼るんじゃ無いの!」
 直美と奈々に冷たく告げ、踵を返して歩いて行った。
 直美と奈々は、ポツンと廊下に座り込み、手を取り合って[どうしようか]を連発する。
 いつまで経っても妙案が浮かばず、2人は取り敢えず、成績の入力を終わらせる事を選んだ。
 時間に遅れて、これ以上よけいな事で、大貫を怒らせないために、職員室に向かう。

 直美と奈々が職員室に戻ると、職員室内がザワザワと不穏な空気に包まれている。
 その空気の真ん中に居るのは、藤田由香と教頭だった。
 教頭は由香の前に仁王立ちし、頭を抱えている。
 由香はいつもとは全く違う、スッキリとした白いブラウスに、黒のタイトスカートを履いていた。
 その姿はどこから見ても、清楚な女教師の姿だが、有る一点だけが問題に成っている。
 それは、由香の首に有った。
 由香の首には、真っ黒な犬の首輪が嵌められており、小さな金色の南京錠が掛けられている。
 ニコニコと微笑みながら、教頭を見上げる由香に、教頭は諦めたのか、片手で頭を押さえ空いた手を振り払うように振って、自分の席に戻り始めた。

 2人は席に着き、ソッと隣の席の女教師に問い掛ける。
「ええ、藤田さん…あれを、アクセサリーだと言い張って、外そうとしないのよ…。何でも、大切な方から貰った、大事な物だから、絶対に外しませんって、頑なに教頭に言って…。本当、ビックリしたわ…」
 女教師は困惑した顔で、直美と奈々に告げる。
 直美と奈々はその言葉に、ピンと来て首を巡らせ、黒澤を見た。
 黒澤は全く表情を変えず、仕事を続けていたが、不意に顔を持ち上げ、直美と奈々の視線に自分の視線を向けると、一瞬だけ唇の端を持ち上げ笑みの形を作ると、直ぐに仕事に戻る。

 直美と奈々は顔を見合わせ、由香に一条の光明を見いだした。
「藤田さんが居たわ! そうよ、藤田さんに聞いて、謝罪の方法を決めましょう」
「うん、それしかないと思う…。ううん、絶対それが正しい筈よ…。だって、あんな事が出来る人なんだもん、私達より数倍あの世界に詳しい筈よ…」
 直美と奈々はコソコソと話して方針を決め、急いで仕事に手を着ける。
 彼女達には記録的な程の速度で入力を始め、あっという間に仕事を終わらせた。
 直美と奈々が大貫に約束した9時には、まだ30分以上余裕があった。

 2人は仕事を終えると、お互い顔を向け合い無言で頷き、2人同時に席を立つ。
 直美と奈々は由香の席の後ろに立つと
「藤田先生…少し、お時間頂けます?」
 ソッと由香を呼び、にっこり微笑む。
 由香は頭を上げるとにっこりと笑い返し
「は〜い、別に良いですよ〜。どうしたんですか〜?」
 甘えた独特な舌っ足らずな声で、返事をかえした。

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