夢魔
MIN:作

■ 第27章 誓約7

 稔達は真の呼び出しにより、会議室に向かっていた。
「真さん、今日は一体何の用事だろう…。弥生は手元に戻っている筈だし、おかしいな…」
 稔は呟きながら、会議室に急ぐ。
 会議室の前で、稔は白井とバッタリ出会い、何となく今日の呼び出しを理解する。
(真さん…まさか2人目ですか…。白井先生が相手だと、厄介ですよ…)
 稔はフッと微笑むと、白井に会釈をした。
 白井は稔の姿を見て、一瞬ギクリと怯み、笑顔を取り繕うと深々と頭を下げる。

 4人が揃って会議室に入ると、室内で真と美由紀が椅子に座り待っていた。
「あっ、済みませんお呼びだてしてしまって…。実は、折り入って頼みたい事が出来まして…」
 真は稔の姿を見ると、直ぐににこやかに微笑み、頭を掻きながら話し掛ける。
 その直ぐ後に続く白井を見て、一瞬表情を曇らせるも、にこやかに席を勧めた。
 稔は美由紀に視線を向けると、[ほう]っと感心した表情を浮かべる。
 そこに目を伏せ座る美由紀は、たった一晩で驚く程美しく変貌していた。
 元々整った顔立ちに、肌が艶めかしい艶を帯び、しっとりと濡れているように輝いている。
 伏せた目にはタップリと色気が乗り、薄く開いた唇は、赤く艶やかに光っていた。
 そんな美由紀を見詰める白井の目は、恐ろしい程解りやすい感情を表している。
 嫉妬と悪意に燃える瞳だった。

 稔は一つ大きな溜息を吐くと、真に向かって問い掛ける。
「真さん? 今日はどんなご用なんです?」
 稔が話を切り出すと、真は稔に向かって笑みを消し
「実は、折り入ってお願いがあるんです。ここに居る新庄美由紀を、私の手元に置けないかと、言う相談なんですが…」
 真剣な表情で稔に向かって、依頼した。
 稔は真の言葉を聞き、[ふぅ]と溜息を吐くと美由紀に向かって問い掛ける。
「新庄先生…、貴女は今の源先生のお話を、どう受け止めました?」
 稔が美由紀に向かって、問い掛けると
「は、はい。私も出来れば、真様のお側にお仕えしたいです。お許し願えないでしょうか…」
 美しい顔を悩ましく歪め、心から真の元に行きたい思いを、言葉の中に込めて懇願した。

 その、美由紀の言葉を冷たい声が引き裂く。
「認めないわ! 私は絶対に認めない! 真様ですって…どの口がそんな事を言うの! 許さない…絶対に許さない!」
 白井は美由紀を、火の出るような視線で睨み付け、猛然と抗議する。
「白井先生。少し落ち着いて下さい。今の段階では、主の移動は奴隷の権限ですよ? それとも、既に主従関係は結ばれて居るんですか? 過去の主従関係でなく、現在の主従関係を…」
 稔は白井を諫め問い掛けると、その問いに白井はにんまりと笑い、美由紀は雷に打たれたように震えた。
「ええ、有りますわ…美由紀は、私の所有物であると、京本先生達の前で、ハッキリ宣言しました。ねぇ、美由紀?」
 白井は勝ち誇ったような表情で、美由紀を見詰めると、美由紀は項垂れて
「は…い…。私は…皆さんの…前で…良子様を主と認めました…」
 小さく消え入りそうな声で認めた。

 美由紀の告白に真は驚き、白井は勝ち誇る。
「う〜ん…それでは、仕方有りませんね…主従関係が出来ているなら、それは僕が関与出来る物では有りません。お互いの契約内容により、主従契約の破棄若しくは、権利の譲渡を行って下さい」
 稔は淡々と裁決を下すと、席を立ち上がろうとする。
「ま、待って下さい稔君! 確かこの計画の中では、著しい肉体の欠損を行う行為は、禁止されていましたね? 彼女は放置すれば、必ずそれを美由紀に行いますよ! それでも、構わないんですか?」
 真は必死に稔に追いすがり、問い掛けた。
「いえ、それは困ります。ですが、今現在それを行っていないのに、それを予測して契約を破棄させるなど、私には出来ませんよ。私に出来る事は、精々ルールを守って、適度な教育を行うよう、注意するだけです」
 稔はどこかのお役所のような口調で真に告げると、白井に向き直り
「今の言葉、ちゃんと理解して、実行して下さいね。敵に回すと恐ろしいですよ、真さんと僕は…」
 にこやかな表情のまま、いきなりサディストの本性を向ける。

 白井と美由紀はその圧力に顔を引きつらせ、一瞬で呼吸すら忘れた。
「じゃあ、僕はこれで失礼します。後は、当事者同士のお話し合いで決めて下さい。あっ、それと真さん10時に成ったら、保健室に来て下さい、重要なお話があります」
 稔は真に伝言を伝えると、会議室を出て行く。
 後に残った真と白井は無言でお互い見つめ合い、美由紀は力なく項垂れ押し黙っている。
 言いしれぬ緊張感が会議室を包む。

 真は身動ぎし、赤ちゃんのような分厚い両手を組むと、肘を付いて顔の前に置き、組んだ手の向こうから、白井に声を掛ける。
「美由紀と白井先生は、どんな契約を行ったんですか…」
 真の問い掛けに、白井はにっこりと微笑むと
「それは、私の口からより、当事者の美由紀に言って貰いましょ」
 歌うように、真に答えた。
 美由紀は真の視線を避けるように項垂れて、小さく嗚咽を漏らしている。
「美由紀! 何をしてるの? 従属の誓いよ!」
 白井の鋭い声に、美由紀はビクリと震えた。

 項垂れ下を向いた美由紀の口から、嗚咽混じりに契約内容が話される。
「私こと新庄美由紀は[便女]として白井良子様にお仕えする事を誓います…。[便女]は人で有る事を放棄しその全ての権利を、主人で有る白井良子様に譲渡いたします…」
 美由紀の口から零れ出る、誓約の言葉は50項目におよび、その全てを暗記していた。
 美由紀の嗚咽混じりだった、誓約の詠唱は虚ろに乾いた声に変わって行き
「[便女]の使用権は持ち主である白井良子様のみ決める事が出来、この誓約の破棄は白井良子様の一存で決定します。一旦破棄された誓約も白井良子様の一存で、再び効力を発揮し、[便女]は、いついかなる状態の時でも、これに従い[便女]としての責務を行う事を誓います。この誓約は[便女]が死ぬまで効力を持つ事を、19○○年7月14日に[便女]である元新庄美由紀が認めます…」
 死ぬまで永久に有効である事を、12年前の日付を示し、美由紀の口から認めた。

■つづき

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