夢魔
MIN:作

■ 第27章 誓約8

 真は痛ましそうに顔を歪めると
「そうですか…、完全譲渡の誓約を…今も続けさせられて居るんですね…。今の日付から察すると…貴女は中学生の筈でしょう…」
 苦しそうな声で、美由紀に問い掛け優しく抱擁する。
 真が美由紀を抱擁すると、白井が柳眉を逆立て
「触らないで頂けます! もう結構ですわ源先生。美由紀の不感症は、そのままで使います。これ以上[便女]に触れる事は持ち主である私が許しません!」
 真に捲し立てた。

 真は完全に表情を消し
「黙りなさい。貴女は誓約を元に、彼女を縛っている。なら、私と交わした契約も守るのが筋じゃないですか? 私は彼女の身体を診察して、彼女の不感症を治すと、貴女と契約しました。一方的な放棄を、認める訳には行きませんよ」
 白井に向かって冷たく言い放つ。
 白井は真の迫力と、言葉の筋道の正しさに、ぐうの音も出ず唇を噛みしめ押し黙る。
 真は美由紀に向き直ると、優しい微笑みを浮かべ、慈しむように頭を撫でながら
「今暫く辛抱して下さい、私が必ず貴女を迎えて上げます。私を信じて、待ってて下さい…ねっ」
 美由紀の目を覗き込み、慈愛に満ちた目で笑いかけた。
 美由紀は溢れ出る涙の中で何度も頷き、真の胸に縋り付き、嗚咽を漏らす。

 真は美由紀を優しく撫で宥めながら、白井に目を向けると
「これ以上肉体に損傷を与える事は、計画者の一人として、絶対に許しません! もし、私の言葉に従わない時には、強制排除を私の手で行います。それ、相応の覚悟をして、続けなさい!」
 冷徹な声で宣言した。
 白井は表情を歪めて立ち上がると
「解りました…でも、調教の方針や、躾けに関してまで口出しする権利は、源先生にも無い筈です」
 捨て台詞を吐いて教室を出て行った。

 会議室で2人だけに成った、真は再び美由紀を抱きしめると、優しく頭を撫でる。
 美由紀は涙に濡れた顔を、ウットリと蕩かせ真の胸に寄り添う。
 暫く真の胸に寄り添っていた美由紀が、ユックリと上体を起こし、真の顔を見詰めると、思い詰めた表情から、輝くような微笑みに変え
「真様…有り難うございます…本当に、夢のような時間を頂きました…。昨夜の治療から、一緒にご入浴させて頂き、弥生様にも本当に良くして頂いて…。夢のような一夜を過ごせた事…本当に心から感謝いたします。ですが、もう私に余り係わらないで下さいませ…。あの方は…、常軌を逸しています…本当に何をするか解らない人なんです…ですから、これ以上あの方を逆撫でするような態度は、お止め下さい…。私、真様の身に何か有ったら、弥生様に顔向け出来ませんし、弥生様に何か有っても、真様に顔向け出来ません…。ですからどうかお察し下さい…」
 美由紀は輝くような微笑みを向けたまま、頬に涙の跡を走らせる。

 真は美由紀の痛々しい笑顔を、優しい笑顔で受け止め
「大丈夫です。私に何か出来る人間は、この学校では3人だけですし、それ以上の人間がそこら辺に転がって居るとも思えません。それに、弥生に関しても常にセキュリティーが働いていますし、大丈夫ですよ。貴女は心配しないで、私の働きを待っていて下さい」
 力強い言葉で、美由紀を安心させた。
 美由紀は真の言葉に、ホッとしたのか張り詰めていた気持ちが、緩んで身体の力が抜ける。

 真は驚きながら慌てて、崩れようとする美由紀を抱き留めると、美由紀は真の首に腕を絡め
「真様…お願いします…美由紀の我が儘を一つだけ叶えて下さい…」
 瞳を潤ませ、呟いた。
「ん? 何だい…言ってごらん…」
 真は優しい声で問い返すと、美由紀は頬を赤く染め
「キスを…思い出になるような…キスを頂きたいのです…」
 真に甘い声でねだった。
 真はにっこり微笑むと、美由紀を優しく抱きしめ、熱く甘い口吻を美由紀に与える。
 真の本気の口吻に、美由紀は心も身体も蕩けるような錯覚を覚えた。

 長い口吻の後、真が顔を放すと、美由紀は[ほぅ〜]と熱く甘い吐息を漏らし、ウットリとした表情で真の頬を掌に挟み
「有り難うございます…これで、私は頑張れます…。私の身体がどんなに汚され嬲られようとも、心は常に真様に捧げます…。真様…心よりお慕いしております…」
 濡れ光る瞳を真に向けながら、心の底から思いを告げる。
 真はにっこりと微笑むと
「有り難う。私もその気持ちに答えられるよう、頑張りますね」
 美由紀に向かって、気持ちが落ち着く優しい声で告げた。
 美由紀は真の身体を、固く抱きしめ、真の腕に力が入る前に、スッと身を離す。

 美由紀は椅子から立ち上がると、深々と頭を下げて
「本当にお気遣い有り難う御座いました…。美由紀は幸せ者です…、こんな素敵な方に…出会えて、守って頂けるなんて…」
 真に感謝の言葉を告げ、時計を確認して
「真様…柳井君とのお約束の時間が迫っておりますわ…。私は、ここの後片づけをして参ります。どうぞ、お先に…」
 にっこりと微笑みながら、真を促した。
 真は時計を確認して
「あっ、本当ですね、でわ後を頼みますね」
 踵を返して会議室を後にする。
 美由紀は真を見送ると、テーブルと椅子を直し、会議室の扉の前に立った。

 会議室を出る前に、美由紀は目を閉じ大きく息を吐いて、ユックリと吸い込み、目を開く。
 深呼吸して見開かれた目には、固い決意が表れていた。
 美由紀がガラリと会議室の扉を開けると、予想した人物が、予想した表情で立っている。
(真様、美由紀は頑張ります…!)
 心の中で一声誓うと、スッとその人物に向かって頭を下げた。
「良い度胸ね…どうやら、6年間もほったらかしてたら、私という人間を忘れたようね? おいで、躾け直して上げる。さぁ、来なさい!」
 白井は凶悪な視線を美由紀に向け、目の前に有る、美由紀の髪の毛を掴むと、振り回しながら引き立てて行く。
 美由紀はただ、成されるがまま、その手に引きずられ付いて行った。

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