夢魔
MIN:作

■ 第27章 誓約9

 真が保健室に呼ばれたのは、副理事長の一人である、用務員の藤治の依頼だった。
 藤治は自分にパートナーが居る弥生をあてがった事、弥生にパートナーが存在する事を言わなかった事を、稔に対して怒り、真と弥生に謝罪した。
「全く、[横恋慕は禁止]と言ってたのは、柳井君。君自身だよ? 私もそれに賛同したんだから、こういう事は止めて欲しいね。でっ、新しくあてがわれた、そちらのお嬢さん達には、パートナーは決まってないんだね?」
 藤治が稔に問い掛けると
「はい、私は稔様の奴隷に成る事を夢見ておりますが、稔様に未だ服従の許可を頂いておりません」
 美香が深々と藤治に頭を下げ答え
「はい、私も姉同様、稔様にお仕えする事を目標としておりますが、許可を頂けておりません」
 美紀が直ぐに美香同様頭を下げて、藤治に答える。

 藤治は[ふぅ]と大きな溜息を吐き、2人の美少女を見詰めると
「解った。儂もそう言うつもりで接しよう。取り敢えず、このお嬢さん達は、儂が預かる…。しかし、柳井君も罪作りじゃのぉ〜…こんな美しい子を…」
 稔に向かって、感慨深げに告げた。
 稔は深々と頭を下げると
「申し訳有りませんでした。それと、この2人はまだ、未成年のため家庭の都合で、玉置さんの所に行けない事がありますが、どうかそれもご了承下さい」
 美香と美紀の立場について、補足する。
「ああ、解った…、それも納得しよう…。これから、この爺の世話よろしく頼むぞ、お嬢ちゃん達」
 稔の言葉に頷き、美香と美紀に笑いながら告げた。

 美香と美紀は花のような微笑みを浮かべながら、藤治の前に進み出ると
「私達の方こそ、ご迷惑を掛ける事が有ると思いますが、どうぞ宜しくお願いいたします」
「至らない所が有りましたら、厳しくご指導して下さい」
 折り目正しく膝をつき、床に平伏しながら、たおやかに挨拶する。
 藤治はその2人の美少女を、目を細めて見詰めると、好々爺のような柔和な目線で、満足そうに何度も頷いた。
 藤治は昨夜、弥生の代わりと言って訪れた、この2人の少女の献身的な奉仕に、いたく満足していたのだ。

 稔は藤治の担当者の変更を見届けると、弥生に向き直り
「これで弥生は、薬の調合に専念出来ますね。皆さん、どうも予想より消費量が多いようで、ストックに不安が出て来ました。急ぎ供給をお願いします」
 静かに依頼すると、弥生は泣きそうな顔で俯き
「あ、あの…。稔様に言い訳がましくこんな事を言うのは、とても辛いのですが…。手作業の調合では、とても短期間に大量生産は…物理的に無理が有りますし、私の家の器材では、稔様のご要望を叶える事は…とても出来ないのが現状です…。不眠不休で調合しても…オーダーの1/3が…やっとです…」
 小さく成って、ボソボソと稔に答える。
 稔は弥生の答えににっこり微笑んで
「ああ、大丈夫ですよ、その件については、既に手を打っています。町外れの診療所を改造して、医薬調合機とワークステーションを組んでいます。昨日出来上がったので、弥生の耳にはまだ入れて居ませんでしたね。ワークステーションの取り扱いと調整は、狂に頼んでいます、真さんは運搬などのサポートをお願いしますね。何せ、合法的に車を運転出来るのは、真さんだけですから」
 薬物大量生産計画の、全ての段取りが終わった事を、弥生と真に告げた。

 弥生は稔の言葉を聞いて、項垂れていた顔を輝かせ、真に向き直り
「これからは、ずっと一緒に居られるんですね」
 零れるような微笑みで、真に抱きつきはしゃいだ。
 真はニコニコと微笑みながら、弥生に向かい
「こらこら、皆さんの見てる前で…。でも、私も気持ちは弥生と一緒ですよ」
 優しく弥生の頭を撫でながら、嬉しそうに告げる。

 稔が全員に連絡事項を告げ終え、解散を口にしようとした時、携帯が鳴り響いた。
 稔は携帯電話を取ると、少し離れた場所で、応対する。
 稔が通話を切り、輪の中に戻ってくると
「美香、美紀…ジャンケンをして下さい」
 唐突に2人に向かって、指示を出した。
 2人は不思議そうな顔をしながら、言われた通りジャンケンをすると、美紀が勝った。

 美香は不思議そうな表情のまま、稔の顔を見詰めると、稔は藤治に向かい
「玉置さん今日は、美紀がお宅にお邪魔します。美香は私と一緒に森川家で、スタンバイして下さい」
 今日の担当者を告げ、美香に向かって静かに指示する。
(えっ! ど、どう言う事…。今日は、稔様と居られるって事…。な、なんて事なの…嬉しい! 嬉しすぎる!)
(え〜っ…お姉ちゃんずるい…勝ったんだから…私に選ばせて欲しいです〜…。稔様の意地悪〜…)
 稔の言葉に、美香は有頂天に成り、美紀は激しく落胆するが、その内心は微塵も面に表さず、スッと頭を下げて稔の命令を受け入れた。

 藤治は稔の命令を聞いて、頭を下げる美紀を見詰め、その心中を察すると
「柳井君。もうこの子は、良いんじゃろ? なら、今から儂が連れて行くぞ?」
 稔に問い掛け、美紀の手を掴んで、立たせて連れて行こうとする。
「ええ、構いませんよ…。ですが、こんな時間からですか?」
 稔が驚いた様子で問い掛けると、藤治はむすりとした表情を稔に向け
「ああ、どっかの馬鹿がこの子を傷つけたから、爺がデートに誘うんじゃよ!」
 ぶっきらぼうに告げて、美紀の手を引き医務室を出て行った。
 稔は藤治の言っている意味が分からず、呆気に取られていたが、真がクスクス笑い、弥生は困ったような表情を浮かべ、美香が溜息を吐いた事で[馬鹿]と言われたのが、初めて自分の事だと気が付いた。

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