夢魔
MIN:作

■ 第27章 誓約22

 黒澤はニヤリと笑うと、昂然と顔を大貫に向け
「ええそう聞こえるのは、間違いないでしょう…。私はそう言ったんですから。そう聞こえなければ可笑しいです」
 ハッキリと言い切った。
 黒澤の言葉を聞いた瞬間、大貫の顔が悲痛に歪み
「ひ、酷い…私は…、こんなに黒澤先生の事を…考えて…思っているのに…そんな物言い…酷すぎます…」
 ポロポロと涙を流し、机に腰を掛けジッと大貫を見詰める黒澤に訴える。
 黒澤はそんな大貫をジッと見詰めて、観察するような目を向けていた。

 大貫の激情は、そんな黒澤の視線に気付かず爆発する。
「私は黒澤先生を一目見た時から、心惹かれておりました…黒澤先生の為に、自分の出来る事を探し、尽くして来たつもりでした…それを…、それを…、そんな仰い方、余りじゃ有りませんか…。大城先生もそうです。黒澤先生を素晴らしいお方と感じ、尽力できる事を心から喜んでおられました。その結果、黒澤先生のご意志に背いたのは、確かに罪かもしれませんが、今のような言葉を掛けられる謂われは御座いません」
 大貫は一挙に捲し立てるように、黒澤に言った。
 それを平伏して聞いていた大城が
「大貫先生…、紗英お姉様お止め下さい…私のために、黒澤先生にそんな事…。駄目です、お姉様が嫌われてしまったら、私…どう謝罪しても、償い切れません…どうか、どうかもうお止めになって下さい…」
 大貫に縋り付き、涙ながらに訴えた。

 大貫は大城を抱きしめ、更に言葉を続けようと口を開き掛けた時、黒澤の白い手袋を嵌めた右手が挙がり、大貫の言葉を止め、白い手袋を嵌めた左手で携帯電話を操作する。
 大貫はキョトンとした顔を黒澤に向けると、黒澤は携帯電話に向かい会話を始めた。
「もしもし柳井君、私です。ええ、所で教師間の主従契約と言うのは、構わないんですか? いえ、奴隷じゃ有りません…、ええ、サディストの方です…。あ、そうですか…OK…解りました。それだけを聞きたかっただけです。じゃぁ」
 黒澤は手早く会話を切り上げ、携帯電話を切ると、ポケットに片づけ
「大貫先生…。いや、紗英…お前は私を慕っていると言ったな? それは、服従すると取って良いのか?」
 顔を大貫に向けると、唐突に質問する。

 大貫は突然の黒澤の言葉に面くらい、パクパクと口を2度開け閉めすると、流石に素早く心を取り戻し、スッと床に正座して
「はい、私の全てをお預けした、主従関係を求めております」
 黒澤に頭を下げ、凛とした声で黒澤に告げた。
 黒澤は大貫を見下ろすと
「今、この計画のリーダーに確認を取った。私達が主従関係を結ぶのには、何の規制も無く、個人の判断に任せると言った返事だった。お前は私と主従関係を結ぶのに、合意するか?」
 ハッキリとした低い声で、大貫に問い掛ける。
 大貫は平伏した姿勢でその言葉を聞き、ブルブルと震えながら
「はい、心より望んで合意致します。大貫紗英の全ては、黒澤英樹様に永遠にお預け致します」
 黒澤に答えた。

 黒澤は大貫の言葉を聞き、右手に嵌めていた白い手袋を取ると、黒澤の素手が現れる。
 黒澤の小指から人差し指までの指には、爪が根本から綺麗に無く成っていた。
 黒澤は外した手袋を、歯でくわえ自分の小指に嵌めていたリングを抜き取り
「紗英顔を上げろ。お前の服従を受け取ろう」
 そう言ってリングを指で弾いて、大貫の正座した太ももの上に落とした。
 大貫のスカートの上に黒澤のリングが、コロコロと転がる。
 大貫は驚きを浮かべ、黒澤を見上げると
「別れた女房が昔左の薬指に嵌めていた物だ。私の母の形見だが、首輪代わりに付けていろ」
 黒澤は大貫に静かに告げた。
 大貫はそのリングを直ぐに左手の薬指に着けようとしたが、思い止まり右手の薬指に嵌める。
 ピッタリ合ったリングを両手で押し抱き、大貫は嬉しそうに微笑み泣き崩れ掛けた。

 大貫が泣き崩れなかったのは、黒澤が問い掛けたからだった。
「紗英…どうして、右手に付けた?」
 黒澤の問いに、大貫は
「はい、まだ私にはそのような資格御座いません。ご主人様のお役に立て、ご主人様の許可を頂いた上で、左手に移したいと思いました。どうか、私を酷使頂いて、指輪を移す資格をお与え下さい」
 嬉しそうに答え、深々と頭を下げて懇願した。

 黒澤はそんな大貫の態度をフッと表情を緩めて見詰め、大城に向き直ると
「大城先生はどうするんですか?」
 表情を引き締め、問い掛ける。
 すると、大城はペコリと黒澤に頭を下げて
「あ、あの…私は、紗英お姉様の持ち物です。既に、私は紗英お姉様に心酔し、服従を誓っております。ですから、私は紗英お姉様の主で居られます、黒澤様の持ち物と成りました。これから宜しくお願い致します」
 黒澤に服従者として挨拶した。

 黒澤は頷くと大貫と大城を呼び寄せ、顔をつきあわせて
「実はだな…私の雇用主は、今は理事長ではない…。勿論、教師としては理事長なんだが、この計画に関しての雇用主は別にいる。良いか、お前達も今からする話を、良く聞いて慎重に行動しろ、理事長達に知られたらお前達の生命にも危害が及びかねない…」
 真剣な表情で語り始めた。
 黒澤は新たな雇用者と契約を結んだ時、その雇用者が示した情報と資料の内容を語り、自分の目的が何かを2人に聞かせた。

 黒澤の話を聞いていた2人は、表情を青ざめさせ、ゴクリと唾を飲み込む。
「そう言う話なんだ、だから私は、君たちの本心を知りたくて、あんな言い方をした。この話は他言無用だ、絶対に人に知られてはいけない。私がもしお前達を裏切ったとしたら、いつでもこの胸に、ナイフを突き立てろ。お前達のナイフなら私は甘んじて受けよう。だがもし、万が一私を裏切ったら、この世に安息の地はないと思え、どこに居ようと誰に守られようと、私は必ず殺しに行く」
 黒澤が話をそう締めくくると、2人はコクリと頷き
「もし、億が一そう成っても、ご主人様のお手は煩わせません。私は私自らの手で、自分を殺します」
 大貫が微笑みを浮かべ真剣な目で答え、大城もそれに同意した。

 3人は話を終えて小会議室を出ると、黒澤は大貫と大城に向かって声を掛ける。
「あ、そうだ、忘れてたけど、あの2人が謝罪に来たら、許してやれ。あの2人はちゃんと調教すれば、私達の手駒になる。最低限、由香程度の忠誠心は植え付けるんだ、頼んだぞ」
 黒澤がそう2人に指示を出すと、2人は深々と頭を下げて
「畏まりましたご主人様。あの2人を徹底的に調教して、鋼のような服従心を植え付けます」
 黒澤に向かってにっこりと微笑み、黒澤の指示を受け入れた。
 黒澤は頷くと足を職員室に向ける。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊