夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲2

 教頭は項垂れ校長に頭を下げると校長室を後にし、そのまま職員室を突っ切って教室棟に向かう。
 教室棟に着いた教頭は、一挙に3階まで駆け上がり、旧生徒会室の扉を叩いた。
 扉が開いて中に入った教頭の目の前に、狂が腕を組んで座り、絵美が教頭にコーヒーを差し出す。
 教頭は狂に向かって、校長室で見聞きした事を全て話すと、狂は頷いて情報を整理する。
「有りがとよ、助かるぜ教頭。何せ、あいつらの情報を持って来てくれるのは、あんただけだからな。ほい、じゃぁ、これが今回の報酬だ、叶志保理嬢の無修正羞恥調教BRディスク全4枚組だ、8台のカメラが撮って来た映像、タップリ2時間分だ、全て毛穴品質だぜ。好きなように編集しな」
 狂は教頭に向かってニヤリと微笑むと、ブルーレイディスクを手渡した。
「おほ〜…。この間の霜月のお風呂場オナニーも良かったけど、これも凄そうだね…。工藤君感謝するよ」
 教頭は満面に笑顔を浮かべ、ブルーレイディスクを大事そうに抱える。

 教頭は狂の勧誘によって、二重スパイに成っていた。
 理事長と学校サイドを繋ぐパイプ役の3人だから、必然それなりの情報が集まると踏んで、狂が引き込んだのだ。
 報酬は教師達の調教及び各種盗撮映像。
 本来、理事長に対する経過報告用と記録映像として、ストックする予定だった物のコピーだ。
 だが、教頭のようなマニアには、垂涎の品である。
(こいつが映像を流出させれば、それを元に、こいつを操れるし、流出しなければ、それはそれで問題ない…)
 狂はそんな罠の意味も含めて、教頭にデーターの横流しをしていた。
 狂はニヤリと笑って、絵美の入れたコーヒーを啜る。

 狂がコーヒーを飲んでいると、稔と美香が旧生徒会室に入って来た。
「おや、教頭? 情報提供ですか…。いつも済みませんね」
 稔が教頭ににこやかに笑い掛けると、教頭は引き攣った笑いを稔に返す。
 教頭は狂はまだしも、庵と稔は苦手だった。
 庵は居るだけで肉の圧力が、恫喝しているようで恐ろしいし、稔は何を考えているか、全く掴めず不安を煽る。
 狂だけが口調を除けば、唯一最も親しみ易く共感も出来たのだ。
 教頭は稔が室内に入り、腰を落ち着けるとコーヒーの残りを煽り、ソワソワと始め、3分もしないうちに
「じゃ、工藤君、柳井君そろそろ職員会議の準備があるから、私は行くね」
 そう言ってイソイソと部屋を出て行った。
 狂が時計を見ると、まだ12時40分で、職員会議開始までタップリ20分有った。

 狂は稔に顔を向けると
「でっ、今日の会議はどう成りそうなんだ?」
 まるで興味がないような口調で、問い掛ける。
「ええ、とても楽しみにしています。教育が終わった今、奴隷候補がどう感じて生活しているか、とても興味があります。結果が解れば後は、先生達が頑張ってくれるのを待つだけです。既に、7人が誓約を済ませています。少しオーバーペース気味な気もしますが、安定はしていますよ」
 稔が美香からコーヒーを受け取り、足を組んで上機嫌で香りを楽しむ。
 狂は稔の言葉を聞いて、溜息を一つ吐きパソコンを操作しながら
「俺はこれを放っておく、お前の気が知れねぇ…」
 ボソリと呟き、ディスプレイを親指で背中越しに示した。

 そこに映っていたのは、生徒指導室で繰り広げられた、美由紀に対する白井の暴虐だった。
「俺が止めに行かなきゃ、白井は間違いなく、美由紀の子宮を焼いていただろう…。これで、問題が無いって言ったら、一体何が問題なんだ?」
 狂は真剣な表情で、稔を見詰めて問い掛ける。
 稔は頬から笑みを消し
「しかし、それは彼女自身が行った契約が元になっています。そこに干渉するのは、僕達に取って筋違いではありませんか?」
 稔も真剣に狂に意見した。

 狂は稔の言葉に、溜息を吐くと再びパソコンを操作する。
 狂の操作で出て来た次の映像は、美由紀が白井に2−Bの教室に連れて行かれ、京本達に引き合わされた時の物に替わる。
 映像が流れ、スピーカーから漏れる音を、狂は操作して明瞭に再生した。
「今のと、さっきの映像で解るよな…白井は家族を盾に、中2の美由紀に無理矢理誓約をさせ、後から後からその誓約を改竄していった。そして、自分の都合で放棄し、また再びその誓約を盾に、暴虐のやり放題…。お前の言う契約は、それも含んでるのか?」
 狂の言葉に稔は口を噤み、押し黙った。

 狂は再び映像を戻し、白井が京本に言った言葉を再生する。
「今、こいつが言った事がこいつの本心だ。こいつは、美由紀を苦しめるためだけに、真さんに治療を依頼し、別の場所に追いつめようとしている。そして、美由紀はそれに対して、抵抗した。多分、あいつ死ぬつもりだったぞ…」
 狂は映像を切り替え、生徒指導室の物に替え、操作して美由紀が白井に刃向かった映像を映し出す。
 稔はその映像を見て、グッと言葉を飲み込む。
「解りました、狂の言う事は尤もです…。私から彼女に話しましょう。白井先生と新庄先生との契約破棄について…」
 稔は狂の目を見詰め、約束した。

 狂は稔の視線を受け止めた後、視線を逸らして頭を掻きながら
「らしくねぇことしたな…。俺にゃぁ〜関係のない事だけどよ、余りにも腹に据えかねたんだ…。頼むぜ稔…」
 狂は語調を変えると、稔に依頼する。
 稔は狂をジッと見詰めて
「狂…貴方随分変わりましたね…。絵美さんのお陰ですかね」
 にっこり微笑んで、静かに告げた。
「ば、馬鹿そんなこたぁねぇよ! てめぇ、何言ってんだよ!」
 狂は顔を真っ赤にして、慌てて食って掛かる。

 稔は声を上げて笑い、美香はそれに釣られて微笑み、狂は真っ赤な顔で絵美を振り返ると、絵美は感激して目に涙をたたえていた。
「狂様…絵美嬉しいですぅ〜」
 絵美は振り返った狂の首に手を絡めて抱きつき、狂の座った椅子に飛び乗る。
 狂の座った椅子はキャスター付きのため、絵美が飛び乗った勢いでカラカラと走り出し、壁に激突した。
 狂の頭は壁と絵美の額に挟まれ、前後から衝撃を受ける。
「絵美〜!」
 狂は目に涙を浮かべ、額と後頭部を押さえながら、絵美を睨み付けた。
「あうぅ〜…狂様…ごめんなさい〜…」
 絵美は身体を小さくして、狂に謝罪する。

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