夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲4

 稔は白井を呼び出し、小会議室に居た。
 稔は眼鏡を取り、真剣な表情でジッと白井を見詰める。
 白井は稔のこの表情を見て、絶対自分に都合の悪い話である事を理解し、抗議の気持ちを固め稔の言葉に備えた。
「白井先生、今回呼び出したのは、貴女の今後の身の振り方です。貴女は今朝方、真さんに抗議をされ、そして私にも注意されたにも拘わらず、新庄先生に暴挙を働こうとしましたね? これは、ハッキリ言ってヘビーペナルティーです。貴女にはこの学園を去って頂く外有りません」
 稔はキッパリと白井に[解雇宣告]を行ったのだ。

 流石の白井もこうもアッサリ首を切られるとは、思って居らず驚きを隠せない。
「ま、待って下さい! そ、そんな唐突過ぎます!」
 白井は慌てふためき、必死で抗議しようとしたが、稔の目線がスッと冷たさを増し、放つ圧力が数倍に膨れ上がって、白井は二の句が継げなく成ってしまった。
「私達の統制下に入ろうとしない者に、この学校に居る資格は有りません。暴虐を行いたいのなら、それを果たせる場所に行き、果たせる者を相手になさい。それと、この学校に席を置いている者には、私達が全力で保護を行います。例え、貴女の父親が相手でも、私達は抗戦が可能だという事をその頭に、叩き込んで置いて下さい。でわ、ご機嫌よう…」
 稔は畳み掛けるように白井に告げると、椅子を立ち上がり白井の横を素通りして、小会議室の扉に手を掛ける。

 白井は振り返りざま床に平伏し、稔に縋り付いて
「お、お待ち下さい、お願いします…。どうか、どうかお許し下さい! 何でも、言う事を聞きますから、どうか解雇を取り消して下さい!」
 号泣しながら、稔に懇願した。
「何でも言う事を聞くんですね?」
 稔が念を押すと、
「はい、何でも聞きます! ですから、ここを追い出さないで下さい」
 白井はそれを認め、稔に告げる。

 稔は白井に向き直ると
「でわ、新庄美由紀との、全ての誓約と権利を永遠に破棄して下さい。それと、彼女には今後一切干与しない。この2つが、私から出来る最後の譲歩です」
 稔は白井に重々しく告げた。
 白井は稔の言葉に愕然とする。
(な、何で…。でも、学校を追い出されたら、柳井君達が美由紀を守るんだから、同じ事よね…。それに学校を追い出されたら、今度こそお父様から勘当されるし…。迷ってる暇は無いわ…、でも、ここは一つ条件を付けさせて貰おう…)
 白井は一瞬で頭を回転させ、それだけの事を考えると、稔に顔を向け
「解りました…その事については、心から誓います…。ですが、私のお願いも聞いて頂きたいんです!」
 必死の表情で懇願を始めた。

 稔は静かに白井を見詰めながら
「良いでしょう、その話が理不尽な物で無ければ、私も聞き入れましょう」
 稔は重い凍り付くような声で、白井の条件を提示させる。
「は、はい…。美由紀…、いえ、新庄先生に主を付けないで下さい! 他の方とも主従契約を、結ばせないで下さい!」
 白井は美由紀をフリーの奴隷にして、他の教師に辱めを受けさせようとした。
 だが、稔はその条件を白井が出すであろう事を予測していた。
「良いでしょう、他のサディストの先生達にも、主人と成らないよう伝えましょう。それで良いんですね?」
 稔が呆気無く了承した事に、肩すかしを食った感で、白井はキョトンとしながら頷いた。
「でわ、貴女の希望を叶える事も含めて、私は他の教師達に通知し、監督も依頼します。貴女の行動は、学校の監視システムと、各調教師の先生達の監視下に入ります。絶対に誓約を破らないように、次は有りませんからね」
 白井に念を押すと、稔は美香に向かい
「黒澤先生、京本先生、迫田先生、新庄先生それと、真さんを呼んできて下さい」
 指示を出すと、美香はペコリと頭を下げて承諾し、小会議室を出て行く。

 美香は出て行くと、直ぐに5人を連れて戻って来た。
「稔様、全員職員室に居られましたので、お呼びして参りました」
 美香がペコリと頭を下げて稔に告げると、ゾロゾロと主要教師と当事者が入ってくる。
 白井は、美由紀が呼ばれた事までは理解できたが、真の登場に首を傾げた。
 稔はその場に新たに現れた、5人の教師達に事情を説明すると
「ほ、本当ですか! もう、良子様に従わなくて、良いんですか!」
 美由紀は目に涙をたたえて、感激に身体を震わせ、稔の足下に平伏して、何度も感謝の言葉を述べる。

 白井は苦虫を噛み潰したような顔をして、それを見ていたが、次に稔が発した言葉に、驚いて声も出せなくなる。
「じゃぁ、そう言う事に成りましたので、真さん新庄先生の面倒は任せましたよ」
 稔は真に向かって、にこやかに話し掛けると
「はい、解りました。でわ、新庄先生は、私の預かりとしてサポートをして頂きますね」
 真もニコニコとした笑顔で受け答えし、美由紀に手を差し出し
「そう言う事に決まりましたので、これから宜しくお願いしますね。新庄先生…」
 満面の笑顔を向け、美由紀の手を取った。
 美由紀は真の笑顔を見詰め、目がこぼれ落ちそうな程見開き、左手を真に預け、右手を口に当てて、ボロボロと涙を零す。

 それを見て、堪りかねた白井が血相を変え
「そ、それじゃ話が違うわ! 美由紀は、誰とも主従関係は結ばないって、約束だったじゃない!」
 稔に食って掛かると、稔は微笑みながら白井を見詰め
「ええ、サディストの誰とも主従関係は結びませんよ。真さんはサディストでは有りませんから、これは愛人関係ですね。何か問題でも?」
 サラリと答えを返した。
「じゃぁ…じゃぁ、美由紀はまだ、学校の奴隷で他の教師の調教対象なのね?」
 白井が心細そうに、小声で稔に問い掛けた。

 白井の質問に、黒澤が笑いを噛み殺しながら
「白井君…もしそうだとしても、誰も新庄先生には手を出さないよ…。源先生の愛人と解っていて、そんな事をする者は先ず居ない、源先生の恐ろしさは十分理解していて、それを敵に回す筈が無いだろ?」
 白井に告げると、京本と迫田も黒澤に同意する。
「え、え、じゃぁ…、じゃぁ…。美由紀は望みを全部叶えて…。柳井君、貴方、私を騙したのね!」
 白井が稔をキッと睨み付けると
「騙したも何も、この条件を出したのは、白井先生…貴女ですよ。それに、真さんがサディストじゃないって、知ってたでしょ?」
 稔は溜息を吐きながら、白井に説明した。
 白井は愕然として、唇を噛み床に膝から崩れ、俯いて震える。
 全て、稔の計算通り、事が運んだ。

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