夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲10

 玉置は救急車で運ばれ、その救急車には美紀が付き添っていた。
 現場で美紀は、警察官に的確に状況を報告し、車のナンバーと車種と特徴を伝え、救急車に同乗したのだった。
 運ばれた先は、その市の総合病院で、玉置には緊急手術が行われていた。
 執刀医はその病院の医院長自らが行い、玉置は頭部陥没骨折、骨盤骨折、両大腿骨骨折、大腸と小腸が一部破裂し、全身打撲で一命は取り留めた物の意識が戻らず、良くて半年の入院と診断された。
 ICUに移された玉置の手を美紀はギュと握りしめ
「お爺ちゃま…お爺ちゃま…しっかりして下さい…。目を覚まして下さい…」
 涙を湛えながら、何度も呟いていた。

 それを見ていた、執刀医の医院長は、スッと美紀の背後に近寄り
「お嬢さん、お孫さんですか?」
 優しく落ち着いた声で問い掛けてきた。
 恰幅の良い、初老の医師の問い掛けに、美紀が驚いたように振り返ると、美紀の顔を正面から見た、医師の表情が固まる。
(な、何だこの少女は…なんて、可愛くて可憐なんだ…こんな少女がこの世に居るのか…。それに、どこか漂うような色気が…凄いな…)
 初老の医師は呆気に取られていた顔を、何とか元に戻し
「お嬢さん、差し支えなければ、お名前とこの方との関係を、教えて頂けませんか?」
 美紀ににっこりと笑顔を作って、再び問い掛けた。

 美紀は愛らしい顔を初老の医師に向け
「はい、私は森川美紀と言います。この方は玉置さんと言って、パパに成られる方のご友人で、私の通う学校の用務員さんをしています」
 悲しそうな声だが、芯が通ったハッキリとした口調で、医師に答えた。
(ん? 森川…。確か、梓さんも森川だった…。と言う事は、縁故者か?)
 初老の医師、溝口がその事に気付いて、問い掛けようとすると、看護師がインターホンで呼びかけた。
『医院長、医院長室にお電話が入っております。至急のご用事だそうで、急いで居られますが…』
 看護師の呼び出しに溝口は、美紀に挨拶してICUを後にする。

 医院長室に戻った溝口が、急いで電話に出ると
『おっ、溝口。俺だ、金田だ! 玉置さんが事故に遭ってお前の所に運ばれたらしいな? で、容態はどうなんだ?』
 電話の相手は金田だった。
「おう、一命は取り留めたが、元のように歩くのは、難しいな。あの年で骨盤がイカれたら、中々リハビリが難しい。それと、大腿骨が折れて、大きな神経も2・3本切れてるから、ちょっと厄介だ…」
 溝口は医院長室の執務机に腰を下ろして、タバコに火を点けながら、金田に答える。
「それより、お前あの爺さんの事、毛嫌いして無かったか? 何でそんな事聞くんだ…」
 溝口が金田に問い掛けると
『状況が変わったんだ、あの人は、俺の大切な方の協力者だ。だから、何が有っても元に戻してくれ。頼む!』
 金田は真剣な声で、溝口に告げると、溝口は危うくタバコを取り落とす程驚いた。

 溝口はこぼれ落ちそうになるタバコを、慌てて持ち直すと
「おい、お前の口から俺に、頼むなんて、珍しいな…。珍しいと言えば、玉置の爺さんに連れ添ってた少女、凄い美人で驚いた。名字が森川だったから、梓さんの知り合いか聞こうと思ったら、お前からの電話だったんだ…」
 溝口は再びタバコをくわえ、金田に告げた。
『あ、ああ、美紀だろ、梓の娘だよ…。おっと、今着いた取り敢えずお前の部屋に行く!』
 金田は慌ただしく、そう言って電話を切った。
 溝口は突然切れた電話を見詰め
(おい、待て…今、[美紀]って呼び捨てじゃ無かったか…何でだ…)
 呆然とする。

 暫くすると、溝口の部屋に金田が慌ただしく入って来て、玉置の容態を事細かに聞いてきた。
 溝口は訝しみながら、金田の質問に答えていると
「あ、あの…金田様のお連れの方が、お見えに成ってるんですが…」
 看護師の山下由美子が頬を真っ赤に染めて、医院長室の扉を開け伺いを立ててくる。
 溝口はその看護師の表情を見て、頭を捻った。
(何だ、由美子の奴、病院で発情してる? 今まで、一度もそんな事無かったのに…)
 溝口が自分の奴隷の異変に、首を傾げていると
「ああ、私の連れなんだ、山下さん入れて上げて下さい」
 金田が溝口の代わりに、勝手に由美子に許可を出した。

 由美子が頷いて、扉に向き直り来客に促すと、ヒョコリと美紀が顔を出し、金田の顔を見つけて
「パパ〜…美紀…何も出来なかったの〜」
 大声で泣きながら、金田の胸に飛び込んだ。
「お父様…玉置様のご容態、どうなんですか?」
 直ぐに美香が後から入って来て、金田に縋り付き心配そうな表情で問い掛ける。
 溝口は呆然とした表情で、金田を見詰め
「パパ…お、お父様…ちょ、ちょっと待て…。何が、どうなってる…? 俺に、ちゃんと説明しろ! 頼む、教えてくれ〜!」
 溝口は震えながら、金田に問い掛けた。

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