夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲11

 溝口の叫ぶような問い掛けに、最後に医院長室に入って来た少年が、笑いながら金田に告げる。
「満夫、構いません。この方にお話しして、僕を紹介して下さい」
 稔がそう言うと、金田はソファーから立ち上がり、直立不動の姿勢を取って
「かしこました」
 稔に深々と頭を下げ、溝口に向き直る。
 美紀達の態度に驚いた以上の、驚きを浮かべ溝口の身体が、稔を見詰め彫像のように固まった。
 金田はその固まった溝口に顔を向けると
「美香と美紀は梓の娘で、俺は梓の夫に成るんだ…、近々籍を入れる」
 溝口に説明を始めたが、最後の言葉で
「何〜〜〜! 梓さんと、結婚だと! ちょっと、ちょっと待て! あの人には、御主人様が居るんじゃないのか? その前に、お前結婚してるじゃねぇか!」
 溝口が金田に向かって、大声で質問した。

 溝口の質問に、金田は苦虫を噛み潰したような顔をして
「俺は、離婚したんだよ! 良いから、黙って聞け!」
 溝口の質問を大きな声と身振りで、制して話を続ける。
「美香と美紀も梓と同じ方の奴隷で、俺もその方にお許しを頂いて、奴隷にして頂いたんだ。そして、俺の役割上梓と結婚した方が良いと、主人の判断を頂き結婚する事になった。俺の役割は、この子達と梓の管理者だ…」
 金田がそう告げると、溝口が掠れた声で
「か、管理者…?。この子達が奴隷…?。梓さんと同じ主人…?」
 金田に問い掛けながら、スッと視線を稔に移す。

 稔は眼鏡を外し、その雰囲気を全て解放していた。
 溝口は稔の視線をまともに受け、雷に打たれたようなショックを受ける。
 金田は満足そうに、稔を手で示し
「この方が俺達の主人、柳井稔様だ…」
 溝口に稔を紹介した。
 稔は溝口の前にスタスタと歩いて行き、スッと右手を差し出すと
「初めまして、柳井稔と言います。以前梓が、大変お世話に成ったと聞きました。以後お見知りおきを…」
 溝口に挨拶をする。

 溝口の思考は完全に停止していたが、稔の差し出した手を反射的に握りしめ、コクコクと頭を縦に振った。
(な、何だ…この少年の美しさ…、威厳…、雰囲気…、視線…、俺の知っている物を遙かに凌駕して……。柳井…稔…。あれ? 確か…そう言ったよな…)
 溝口は稔の醸し出す物に呆然とし、驚愕しながら稔の名前を思い直して、金田をソッと見る。
 金田は意地の悪そうな笑顔を溝口に向け、目線が合うと大きく頷いた。
(嘘だろ…おい…。[神の子]とか、[至上の天才児]って言われてる少年が…サディストで、目の前にいて、金田の主人?)
 溝口は稔の顔を再び見詰め
「こ、こちらこそ…よ、よろ、宜しくお願いします…」
 カラカラに掠れた声で、かろうじて返事を返した。

 溝口の医院長室の応接セットに、由美子以外の全員が座り、由美子はせっせと給仕をする。
 稔がコーヒーを一口飲み
「状況から考えると、間違いなく故意でしょうね…」
 ポツリと呟いた。
「ええ、傷の状態から言って、駐車場で起こった事故では、あり得ない程の重傷です」
 稔の呟きに、溝口が頷きながら答えると
「玉置さんを完全に狙っていた…、そう見るのが妥当ですね。今思えば、美紀が巻き込まれなかったのが、僥倖かも知れません…」
 金田が呟くように、同意する。

 金田が言った言葉に美紀が驚きを浮かべ
「そうですね、一歩間違えれば美紀も今この病院のベッドで、寝ていてもおかしくない状況です…。とてもじゃ有りませんが、許せるレベルの話では無いですね…」
 稔の言葉と、一言ずつ増して行く圧力に、美紀は不謹慎ながら、嬉しくなってしまった。
(稔様もパパも、美紀の事スッゴク心配してくれてる…。お爺ちゃま…こんな事で喜ぶ美紀を許してね…)
 美紀は心の中で、玉置に謝罪しながらも、主人と管理者が、心底自分を心配してくれた事を喜んだ。

 溝口が口を開き掛けると、稔の携帯電話が鳴り
「済みません、不作法ですが、緊急の電話が入りました」
 溝口に謝罪して、立ち上がりながら携帯電話を取り、壁際に歩き始める。
 溝口は稔の挙動、一挙手一投足が気になるのか、開き掛けた口を閉ざし、稔の姿を目で追った。
 当然溝口ばかりでなく、その服従者も主人の行動に目を配り、釣られて由美子も目を向ける。
 稔は全員に見詰められながら、携帯電話で話し、通話を切ると
「溝口さん、個室を一つ用意して下さいませんか?」
 稔は溝口に依頼する、溝口は即答でOKを出す。

 稔は直ぐに財布から、カードを1枚抜き出して、美紀に差しだし
「美紀はこのままここに泊まって、連絡と玉置さんの看護を任せます。何か必要な物が有れば、気にする事無くこれで買いなさい、サインは美紀の名前で使えるようにしておきます」
 アメックスのブラックカードを手渡した。
「美香は満夫に送って貰いなさい。晩ご飯は森川の家で頂きますから、準備をお願いしますね」
 美香にそう告げると
「満夫、急用で僕は戻りますが、2人のフォロー頼みます」
 金田に向かって指示を出し、最後に溝口に向き直り
「溝口さん会えて嬉しいです。これからも、宜しくお願いしますね」
 溝口に右手を差しだし、握手して医院長室を後にした。

 稔が出て行った後、溝口は金田を見詰め、その両脇に座る美少女達を見る。
 金田は溝口が自分を見ている事を意識しながら、コーヒーを啜り沈黙を保つ。
 溝口は堪らなくなって、金田に向かって、口を開いた。
「金田、頼む! 俺に解るように、順を追って説明してくれ。何がどうしたら、お前が梓さんと結婚出来るのか、俺には皆目理解が出来ん!」
 金田はニヤリと笑ってコーヒーカップを置き、溝口に学校の計画以外を掻い摘んで説明する。

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